ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『 最後のご奉公』 - 7 ( 著者の執筆姿勢の比較 )

2021-08-16 13:57:17 | 徒然の記

 ポツダム宣言が発せられても、政府の決定が定まらない昭和20年の8月6日、広島に原爆が投下されました。2日後に、ソ連が日本に宣戦を布告し、大軍が国境を超えて満州へ雪崩れ込みました。

 「これでソ連を仲介役とし、米・英と和平交渉を進めるという日本の構想も、水疱に帰した。」「8月9日、長崎に原爆第二号が投下された。」「二つの原爆とソ連の参戦で、日本の息の根は完全に止まった。」

 沢山の本で、同様の叙述を読みましたが、何度読んでも苦渋の文でした。今回も同じです。

 「宮中の御文庫の地下壕で、会議が何度も開かれたが、結論が出ない。」「8月14日に、これまでと異なる閣僚全員と、戦争指導者最高会議が合同で開かれる、御前会議となった。」「抜き打ちの招集によるもので、何もかも異例ずくめだった。」

 会議が始まって1時間が経過しても、結論が出なかった時、23人の出席者を前に、昭和天皇が発言されました。陛下のお言葉を、塩田氏が紹介しています。

 「ほかに別段意見の発言がなければ、私の考えを述べる。」「反対論の意見は、それぞれよく聞いたが、」「私の考えはこの前申したことと、変わりはない。」「私は世界の現状と、国内の事情とをよく検討した結果、」「これ以上戦争を続けることは、無理だと考える。」

 「国体問題について、色々疑義があるとのことであるが、」「私はこの回答の文意を通じて、先方は相当好意を持っているものと解釈する。」「先方の態度に、一抹の不安があると言うのも、」「一応もっともだが、私はそう疑いたくない。」「要はわが国民全体の信念と、覚悟の問題であると思うから、」「この際、申し入れを受諾しても良いと考える。」「どうか皆も、そう考えてもらいたい。」

 私が以前に読んだ、富田健治氏の著『敗戦日本の内側』では、最後に陛下が口を開かれた情景を、高木惣吉氏の『終戦覚書』から引用し、次のように紹介していました。

「ポツダム宣言につき、天皇統治権に対し、」「疑問があるように解する向きもあるが、」「私はあれでよろしいと思う。」「私の決心は、私自らの、熟慮検討の結果であって、」「他から知恵をつけられたものでない。」
 
 長くなりますが、同じ資料を参照していても、作者の姿勢如何で、違った内容になる実例として、愛する息子たちと、訪問される方々のため、割愛せずに転記いたします。
 
「皇土と国民がある限り、将来の国家生成の根幹は十分であるが、」「この上望みのない戦争を続けるのは、」「全部を失う惧れが多い。」「股肱と頼んだ軍人から、武器を取り上げ、」「私の信頼したものを、戦争犯罪人として差し出すことは、」「情においてまことに忍びない。」「幾多の戦死者、傷病者、遺家族、戦災国民の身の上を思えば、」「これからの苦労も偲ばれ、同情に耐えない。」
 
 「三国干渉の時の、明治大帝のご決断に習い、」「かく決心したのである。」「陸軍の武装解除の苦衷は、十分分かる。」「事ここに至っては、国家を救う道は、」「ただこれしかないと考えるから、」「堪え難きを堪え、忍び難きを忍んで、」「この決心をしたのである。」
 
 「今まで何も聞いていない、国民が、」「突然この決定を聞いたら、さぞかし動揺するであろうから、」「詔勅でも何でも、用意してもらいたい。」「あらゆる手を尽くす。」「ラジオ放送もやる。」
 
 陛下は純白の手袋をはめられた手で、メガネを拭われ、頬に伝う涙を拭われたと言います。陛下のお言葉を、どちらの著作が正しく伝えているのか、本当のところは分かりませんが、伝わってくる熱いものは、富田氏が紹介する陛下です。
 
 塩田氏はドキュメント作家としての自分の姿勢を、4つの原則で語っています。
 
 1. 疑う。  ・・世間に流布している常識をそのまま受け入れず、まずは疑う。
 2.    調べる。 ・・事実となる資料を、徹底的に調べる。
 3. 掘り出す。・・調べた資料の中から、新しい事実を発見する。
 4. 描く。  ・・自分なりの考えを、結論として描き出す。
 
 文章を売って生活の糧とする作家なら、この原則で十分でしょうが、日本国民としてであるのなら、これでは足りません。「自分の国を自分で守ると言う、自立心」と、「ご先祖さまへの感謝と敬愛の心」がなければ、「画竜点睛を欠く」です。富田氏の執筆姿勢には、この二つがありました。日本人として、「自分の国を愛する心」です。
 
 順不同の書評になりますが、372ページを読みながら、塩田氏の姿勢に疑問を抱きましたので、意見を述べました。
コメント (2)
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