昔の望遠鏡で見ています

昔の望遠鏡による天体観望と、その鏡景写真についてご紹介します

ニコンにTVの鏡筒バンド

2023-06-14 | 天体望遠鏡
 若い頃に「君は慎重な性格だな。」と、言われたことがある。このことは今にして思えば、もっと早く仕事をしろということだったのだろう。しかし、それは生まれつき持っているものなので、しょうがないし、むしろ先を予想し準備したことで、ひどい目に合わずに済んだことも、あったように思う。

 この性格は趣味の世界にも、形を変えて影響している。事前に準備してしまうのだ。具体的には、将来、欲しい望遠鏡を手にした際に使用するであろう部品を、先に入手したくなってしまう。

 TV社の短焦点の10cmは、評判の望遠鏡である。ユーザーのリポートで視野の端までピンポイントなどという文句を見ると、覗いてみたくなる。この大元をたどると、有名な彗星捜索家が「良質な広視野屈折が捜索に適している」と言ったことが、若かりし天キチに影響を与え、RFTへの憧れを持ったというところに行きつく。

 物置奥のダンボールの小箱を開けると、TV社の4インチ用鏡筒バンドが入っている。だいぶ前に、事前準備として中古品を購入していたものだ。そして今の状況といえば、置くところは無いし、円安で価格も高騰しているしで、残念ながら本体を入手することは難しくなっている。




 このバンドは、金属の削り出し感のある、しっかりした物だ。蝶番が無いぶん、保持力もあるのだろう。
 使わないのだったら処分しようかと思った時に、あることに気が付く。ニコンの8cmの鏡筒外径は、100mmだったなと。そう、4インチ=100.16mm≒100mmなのである。そして更に幸いなことに、底には35mmピッチで8mmボルト用の穴が加工してある。
 これらから、ニコンの8cm鏡筒を赤道儀に取り付ける際に、TVの鏡筒バンドが利用できるかもしれないと思った。ただ先の数字の精度等が不明なところが、心配でもある。そこで、実際に90S赤道儀に取り付けてみることにした。すると利用可能であり、格好もなかなか良いのが判った。




 使用してみると、残念ながら少しゆれが感じられた。よく見ると、鏡筒バンドの上下がぴったりと合っている。つまりネジを最後まで締めても、僅かに隙間があるのだろう。この対策として厚めのフェルトを挟んで、もう一度組み立ててみたい。また、鏡筒保持長さも、オリジナルが約100mmなのに対して約75mmと少々短いようだ。この影響についても、今後確認してみたいと思っている。




 もう一つ判ったことは、鏡筒を取り付ける際に長い鏡筒を押さえながら、上バンドを付属の小ねじで下バンドに締め付けるのが、とても難しいということだ。自分の使用環境では、バンドは鏡筒に取り付けたままにして、アリ型アリ溝を使用すべきなのだろう。

 憧れのRFTは雲の彼方だが、この鏡筒バンドでもう少し楽しむことにしよう。







北極星のハートのリング

2023-04-24 | 天体望遠鏡
 観察室の屋根には雨がパラついていたが、前室で待っている間に雲が途切れてきた。SCWの予報どおりだったので、スライディングルーフを開けてもらうことにする。別棟にある事務室に電話すると、暗い廊下を若い職員がやってくる。彼が制御盤に鍵を差し込み開操作のボタンを押すと、ブザーを鳴らしながら屋根はゆっくりと動いていく。こんな時に似合うのは、サンダーバードの音楽なのになと、いつも感じる。
 
 今宵はSDP125とTSA102の見え方を、比べてみようと思っていたのだが、空の大部分は、まだ雲に覆われている。それでも、北の方から晴れ間が広がってきたので、かねてから興味のあった北極星周辺のアステリズムである、ハートのリングを見てみようと思った。




 観察室には大型の双眼鏡が二台設置されていて、望遠鏡の利用者は適宜利用できる。この内の一台である対空型双眼鏡(25×150EM)を使用して、まず見てみることにする。水平・垂直のクランプを外して、大まな方向を向けた後に、接眼鏡を覗きながら視野を振ってみると、やがて北極星が視野に入ってくる。双眼鏡から手を放しても、バランスが取れているのか動いたりせず、クランプを閉める際にも視野のずれは殆ど無い。大型双眼鏡の操作は初めてだったが、案外使い易いのだと感じた。
 双眼鏡を覗くには目幅の調整が必要になるのだが、観望会などでは後ろの人が気になって時間をかけることが出来ず、良く見えると思った事は余り無かった。しかし今回は、じっくり行うことが出来たのが良かったのだろう、見え方は期待以上で、1度程度に広がったハートの形も直ぐ判った。ただ、角型見口の関係で眼鏡は外さなくてはならず、強近眼の自分にとっては、視度調節の範囲はぎりぎりのところだった。もう少し調節できれば、更に見える可能性があるのではと思うと、少し残念だった。




 SDPとTSAにXL40を装着して、同じ視野を導入してみる。大型双眼鏡の視野の広さが2.7度であるのに対して、ほぼ同じ焦点距離を持つ両望遠鏡は約3.2度と引けを取らない。そのせいもあって、これらの望遠鏡でもハートの形は、面白く見ることが出来た。




 次に、SDPとTSAの視野の中心に北極星を持ってきて、徐々に視野の端に動かして像の崩れの様子を見てみる。共に中心から60%程度のところから崩れ始め、約80%を超えると彗星の頭部のような細い尾を引き始める。像の崩れの割合は、前者の方が少ないように感じた。口径も大きいし良像範囲も広いので、空の暗いところで使ったら、どんなに素晴らしい星野が見られるのかと想像せずにはいられなかった。(上記画像は、XL40ではなくXW20を装着。)


 

 XW5を使って、アルギエバも見てみた。SDPとTSA共に美しい星像を見せてくれたが、シャープさでは、後者が一枚上手だと思った。3枚玉の銘機として誉れ高い鏡筒は、評判どおりということなのだろう。

 今後は自分の望遠鏡でも、同じ対象を同様の条件で見てみたいと思っている。

 





望遠鏡で見た星の色

2023-03-07 | 天体望遠鏡


 天文台の観察室の望遠鏡を予約するには、3か月毎の抽選に申込み当選する必要がある。予約できても天気が悪ければ使えないので、実際に望遠鏡を覗ける確率はかなり低い。今年の冬は曇天の日が続いていたのだが、15cmを予約していた今日は、気持ちの良い青空が広がった。夕日が丘に沈むころ、天文台に向かう。




 観察室には2組の先客があり、ε180とBRC250でそれぞれ写真撮影を行っていた。挨拶もそこそこに、パソコンを接続し望遠鏡を稼働させる。次にフード先端の蓋を外すために、15cmF12の長い鏡筒先を南の低空に向かせる。星図ソフトで、任意のポイントをクリックして、望遠鏡導入のボタンを押すのだが、原点位置のテレスコープイーストを考慮すると、向ける先は真南より西側を選択しないと無駄な反転動作(テレスコープイーストからウエスト)に時間を要することになる。
 今日は、望遠鏡の利用ライセンスを取立ての友人を同伴しているので、スマートに進めたかったのだが、よく考えずに東側を選択してしまったのだろう、長い鏡筒が意図せずに反転してしまう。 ’ またやってしまった ’ と、心の中で苦笑しながらのスタートになる。




 最初に見る天体には、「うさぎ座R」を選んだ。クリムゾンスターと呼ばれ、ケフェウス座にあるガーネットスターと共に、双璧の赤い星だ。
 まず星図ソフトの検索バーに ” RLep ” と入力し、星図上に位置を表示させる。次に望遠鏡導入のボタンを押すと、鏡筒は、するすると目的の星を捉えてくれる。接眼部のノブを回すと、星々が浮かび上がってくるのだが、捜すまでもなく一目でその存在が判る。第一印象は、ケフェウス座のガーネットスターより赤く、深紅とでも表現すべき色だと思った。続いて友人が見る。第一声は意外なことに色を直接表現するのではなく、「ベテルギウスや火星よりも、ずっと赤い。」という間接表現とでもいうべきものであった。実際に血が滴るような赤い色で、今宵の空の、どの星よりも赤いのには間違いないのだが、表現の仕方が人それぞれなのは、面白いことだと思った。

 次に「いっかくじゅう座β」を見る。ハーシェルが、「空で最も美しい眺めの一つ」と称賛したとされる三重星である。
 自分が接眼鏡を覗いた時に感じた星の色の印象は白であったが、友人は青を感じる星があるという。写真儀を使用していた人にも見てもらったのだが、その内の一人も青を感じていたようだ。
 実際のところ、自分自身は星が三つ並んでいる眺めに見とれ、色については、よく判らなかったというのが本当のところなのだが、先の人たちは、第一印象で色の事について述べていたのが、印象に残った。

 帰宅後に検索してみる。果たして、それぞれの星のスペクトルはB型であり、青白い星であることが判った。加えて、星の色について様々な記述を残している野尻抱影が、この星について何か述べていないか調べてみた。すると、「小望遠鏡 肉眼.・双眼鏡 星座めぐり」(昭和2年 研究社)の二吋望遠鏡の観測対象の中で、次のように紹介していた。

 ” A,B,Cの等級4.7,5.2,及び5.6。白色。A-B,距離7.2秒;方向角=133度、A-C,距離=3.1秒;方向角=108度 ” 

 抱影は、色を白と見ていたようだ。ただこれは、抱影が使ったのが小望遠鏡で色を感じにくく、白と表現した可能性もある。

 望遠鏡で見る星の色については、人それぞれの表現方法があるのに加え、見える色そのものについても個人差がありそうだ。今後、観望会などで望遠鏡を覗いた人に、色についての印象を聞くことも面白いのではないかと思った。


天文台まつりで見た望遠鏡の林

2023-02-06 | 天体望遠鏡
 天文台まつりに出掛ける。コロナ以降、一時期少なくなっていた来館者も増えてきたようで、駐車場は一杯だった。ホールにはキッチンカーを模した店も設けられ、その前は家族連れで賑わっている。久しく味わえなかった活気ある雰囲気を楽しみながら、コーヒーを飲んだ。

 


 パンフレットを見ていると、「望遠鏡だいぼうけんツアー」というイベントが目に入る。以前の天文台まつりでも同様の企画があり、普段は入ることのできない大望遠鏡の基礎部を案内してもらったことがある。今でも思い出す面白い企画だったので、今回も参加したいと思った。集合場所はどこかと見回していると、ホール奥のプラネタリウム入口前に、白くて細長いものが沢山あるのに気が付いた。


 

 望遠鏡好きの直感というものだと思うが、それに導かれて近づいてみると、ツアーの看板と共に沢山の望遠鏡が並んでいるのを発見する。そして、それは久しく目にしていない、まさしく「望遠鏡の林」であった。






 一目で只者ではない望遠鏡が、含まれているのが判る。そして奥には、陰になってよく見えないものもあるようだ。




 ツアーが始まり、まず陰の部分に寄ることが出来た。画像は、後ろ側から見たところである。天文台の解説者によると、左手のMe社の経緯台式の2台(7cm屈折と20cmシュミカセ)は、前台長のT先生の望遠鏡だったとのことである。
 
 右後ろに見えるのは、Mi社の望遠鏡(GN-22)だ。この望遠鏡は見かけ以上に重くて、運ぶ際に天文台員の一人が腰を痛めてしまったそうだ。きっと白くスマートな外観に、騙されたのだろう。





 そしてG社のMX-Ⅱ赤道儀である。この望遠鏡は、元天文台員のC氏が愛用していたものだったが、先に天文台に寄贈されたということである。また鏡筒部分は、鏡も含め全自作とのことだったが、とても見事な作りであった。赤道儀部分をよく見ると、フライス盤によるカッターマークのあるプレートがあり何かなと思ったのだが、どうも元々の電動クランプ仕様を手動クランプ式に改造しているらしく、その際に取付けられたもののようだ。同架されている屈折鏡筒については、以前に工作室に置かれている時にいろいろ推測していたのだが、その対物セルの形状などから、T社の6.5cmD型セミアポ鏡筒と確認することが出来た。




 望遠鏡の後ろにある暗闇に紛れていた望遠鏡である。只者ではないと誰もが気付く存在だが、説明を受けるまで素性は判らなかった。
 解説を聞くと、なんと大正時代のZ社の望遠鏡だという。そして口径は8cmで、f1,200mmとのことである。その当時に3台輸入されたもののうちの現存する最後の1台で、もともと公共施設にあったものが民間人の所有になり、その後天文台に寄贈されたとのことであった。
 鏡筒バンドの脇の部分だが、最初は上下微動部かと思ったのだが、よく見ると耳軸を上下から挟む部品で、下部にあるものは上から被せる部品の固定用ネジのようだ。おそらく、容易に鏡筒を着脱できるように、工夫されているのだろう。



 木製三脚の物置台には、接眼鏡用レボルバーが置かれていた。円筒状の部分は、正立プリズムだろうか。



 接眼部は、真鍮製とのことである。また、f1,200mmと整合する接眼鏡の刻印であった。型式は、ハイゲン式のようだ。

 なお望遠鏡の林の中にあった他の機器は、N社10cm屈赤、V社8cm屈経、T社10cm屈赤及びL社の太陽望遠鏡であった。

 望遠鏡ツアーでは、ここのほかに1.3m望遠鏡、観察室の望遠鏡群、旧天文台の41cm望遠鏡及び車載搭載型の20cmクーデ式望遠鏡を案内してもらったのだが、初めて聞く事柄も多く興味深いものだった。
 一般の親子連れや若いカップルなどが大勢来る天文台まつりで、このようなマニア好みのイベントを催してもらえたことには、心から感謝したいと思う。




山で8cmF15を使う

2022-10-03 | 天体望遠鏡
 秋晴れの日に、星見に出かける。行く先は、先日下見を済ませた山岳道路の標高1,200m付近にある駐車場だ。西が山頂方向にあたるため、少し視界が遮られるが空は暗く、近場では最高の条件を持つところの一つだ。
 持って行く鏡筒は、昔の五藤8cmF15を選んだ。この望遠鏡は、1970年頃に製造されたもので、20年位前に中古で入手したものだ。対物レンズはオーソドックスなアクロマートだが、銘機と誉れ高いニコン8cmに比較しても引けを取らない見え方をしているのを確認している。架台は、タカハシのEM11赤道儀だ。これはスマホから操作して自動導入できるもので、強近眼の自分に代わって星を導いてくれる。




 現地には日没前に到着したが、周囲の山々には少し霧がかかっていた。望遠鏡を組立てている間に、何度か山頂から霧の塊が下りて来ては晴れるのを繰り返す。その時の気温は17度であったが、夜間は冷え込むのであろう、一部の木々には紅葉が始まっていた。




 薄明が訪れる頃には空は晴れ渡り、南西の空に三日月が輝きだした。周囲が開けているからだろうか、街中に比べて月の見える高度が高いように錯覚する。そして月が山の尾根に沈む頃、周囲が一気に暗くなっていった。




 長焦点屈折で星雲星団を見るためには、接眼鏡も長焦点のものが必要になる。この鏡筒は、昔のオリジナルのままなので、2インチは使用できない。今回は、昔のマスヤマ35mmと36.4mmにねじ込むタイプの天頂プリズムを用意した。もちろん五藤の接眼筒のネジは特殊なM36.5なので、M36.4への変換アダプターリングも準備している。このマスヤマは、かつて所有していたシュミットカセグレイン用として平成の初期の頃に入手していたもので、オルソやケルナーに比べて視野が広い。ただ、見口が金属製で眼鏡使用者には使い難かったので、その対策としてOリングを見口に貼付けており、画像に見える加工の跡はその部分である。




 空が暗くなってきて、初めに鏡筒を向けたのは、南の銀河だ。まずM8が、星雲星団ガイドブック(誠文堂新光社1971年,藤井旭著)に記述されているとおり、「双眼鏡であろうと6cmであろうと20cmであろうと,「すばらしい」という言葉がまっさきにとびだしてくるほど大きく見ごたえのある大星雲」であることを追体験する。周囲の星雲星団も観望してみると、接眼レンズの中は沢山の美しい星々で溢れており、空の暗さの効用を改めて感じさせられた。
 続いて南東の空に輝く木星を導入すると、良く見えているのに驚く。意外にも、シンチレーションは良好のようだ。ドイツサイズの0r9mmを使ったのだが、二本のバンド間の灰色の模様の存在も伺うことができた。以前に他の高地でも、惑星がよく見えるのを経験したことがあるので、高山というところは案外に気流が良いところなのかもしれないと思った。

 夏から秋の星々を一通り楽しんだ頃、寒さが半端なく感じられるようになってきたので、終了とした。その後、幸福感に包まれながら帰宅の途についたのは、言うまでもない。