時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

岐路に立つ資本主義:失われた企業倫理

2019年10月07日 | 特別トピックス


  去る9月13日の記事で大企業の責任について記した。資本主義については様々な定義が可能だが、その主導力となってきた大企業の行動については、近年の出来事に、言葉を失うほどの衝撃を受けている。大企業がさまざまな犯罪、違法行為の前面に出てきていることだ。日産自動車、日立製作所など、日本を代表する大企業に恥ずべき状況が露呈していることは、日本企業のかなりの領域にこうした倫理の劣化が浸透しているのではと推測するのも当然だろう。

 とりわけ、関西電力の贈収賄をめぐる出来事については、ここまで大企業経営者の道徳的倫理は低下しているのかと、唖然とせざるをえない。説明に当たる役員に罪悪感が見られず、世の中で広く行われていることが、たまたま見つかってしまったというような雰囲気さえ感じられる。推定3億円を越えると推定される金品を受け取りながら、現代の日本社会に残る中元、歳暮などの儀礼の範囲を出ていないという理解のように聞こえる。1着50万円の背広生地をもらっても、相当の品を返せば良いではないかという考えも筆者にはまったく納得できない。これらの例に見られる個々の金額、慣行が現在の日本社会にどの程度是認されているのだろうか。例のごとく、経営者が今や頻繁に目にすることになったメディアの前で頭を下げて落着させてしまえると考えているのだろうか。

 報じられている情報からすれば、贈収賄の当事者双方が互いに癒着している状況すら考えられる。一個人の判断と財力でこうした巨額な金品が動いているとは到底考えられない。

 仮に、このような慣行が大きなペナルティが課されることなく認められ放置されるならば、自分もそうしたグループに入りたいという好ましくない考えが、企業社会に浸透しかねない。社会的に納得のできる厳正な処罰が必要なことは言うまでもない。

 いかなる企業にもその企業が時の経過とともに受け継いできた「企業文化」ともいわれる環境がある。今回の事例のような行動が、当該企業において暗黙にも認知されているならば、経営に関わる当事者は、企業統治と企業倫理に関して、改めて深く反省し、自己責任の自覚の上で、今後のあり方に向けて改革・改善する必要がある。

 ひとつの例を挙げておこう。同じ電力産業の東北電力グループでは、企業倫理・法令の遵守に関する行動指針として、次のように公告している

[以下、当該企業HP上からの引用部分]
(2)企業倫理の徹底
経営の進め方や業務の処理等の企業行動の決定にあたり,常に企業倫理を徹底します。
特に,次の事項について徹底していきます。[以下、一部省略]

* 贈答と接待
* 役員および従業員は,社会通念上常識の範囲を超える取引先からの贈物および接待は受けません。贈物をする場合および接待する場合も同じです。
* 公私のけじめ
* 公私の区別に留意して行動します。特に,就業時間内における私的な行為,会社財産の私的目的での使用などは行いません。
* 業務外活動における誠実な行動
* 私的な活動においても,社会常識および公益事業に携わる者としての自覚に基づき,誠実に行動します。特に,飲酒運転など,社会に危険を及ぼし,会社の信用を失墜させるような行為は,絶対に行いません

 こうした問題の解決に向けては、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の点でも多くの問題がある。会社法改正などの法的、制度的改正だけでは根源的解決は到底見込めない。例えば、今回の関電事件を見ても、社外取締役などの制度が全く機能していない。かつて、アメリカで話題とされた社外取締役はCEOの”お友だち”がほとんどだという指摘に近い。要するに、社外取締役も社内取締役もほとんど同質のグループになってしまう。この点については企業の存在意義、あり方についてのより根本的な議論が必要になる。


 言い換えると、本質的な問題は、「現代社会における企業とはなにか」「企業は何のために存在しているのか」*2という点に関わっている。世界の大企業が、多かれ少なかれこの問題に直面している。


*1
企業倫理・法令の遵守
東北電力グループ行動指針(2017年4月)

*2
“What are the companies for: Big business, shareholders and society ” 
The Economist August 24th-30th 2019

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