時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

断裂深まるアメリカ(1)

2010年11月07日 | 移民政策を追って


失意の中から
  アメリカ中間選挙の結果は、政権の座にあるオバマ大統領にとって、2年前のあの熱狂は幻のように見えたのではないか。大統領にしてみれば、想像を大きく上回る敗北だったのだ。かなりの落胆ぶりが映像でもみてとれる。高揚が大きければ、失速の落差も大きい。

 今回の上下院における大敗北は、後半の政権運営をきわめて厳しいものにした。医療保険制度改革を始めとして、オバマ政権が最大の柱として苦労して積み上げた成果が押し戻される、あるいは殆ど解体されてしまう可能性も高まってきた。

 しかし、共和党が逆手をとって「進路を変える」Change the Courseとした方向に光が見えるわけでもない。民主、共和両党間の政治的抗争は膠着し、泥沼化する可能性が高い。さらに勢力を取り戻した共和党自体、一枚岩ではない。なかでもティーパーティ・グループは、思想的、論理的基盤においてかなり異質の存在だ。こうした政党、グループ間の思想的乖離はきわめて大きく、政治上の妥協を求めることもかなり難しい。 長らく父親が共和党の有力者でもあったある友人は自分も共和党員であることを公言しているが、ティーパーティは共和党ではないという。共和党として統一性を保って行くのは、かなり大変なようだ。アメリカは政治的にも社会的にも統合失調症状態にあるとの評も聞かれる。

 他方、オバマ政権にとって、今回の選挙の最大の敗因とされる経済の回復の遅れにしても、政策の再構築は至難なことだ。中国などからの低価格品の輸入がアメリカ国内の雇用を奪っているとの声に対応できる政策の構築と転換は、短期間には達成できない。アメリカ産業の國際競争力はかなり脆弱になっている。保護主義の動きがさらに強まるだろう。貿易に限らず、外交、移民政策などでも、アメリカは一段と閉鎖性を強めることになりそうだ。


追い込まれての移民法改革
 オバマ政権が任期後半の2年間に対応しなければならない問題は数多いが、焦眉の急の経済問題に続いて、大統領の任期前半になにもできなかった移民法改革にはどうしても着手しなければなるまい。中間選挙においては、この問題を避けて通った民主党政権だが、そのためにヒスパニック系選挙民の多くはかなり冷めた対応をしたと考えられる。大統領選の時にはオバマ政権はヒスパニック系を票田として大きく頼ったのに、その後はなにもしてくれないのだと思ったかもしれない。

 他方、アリゾナ州における不法移民への厳しい州法導入にみられるように、不法移民が国内労働者の仕事を奪っているという受け取り方は、当否は別として経済停滞の要因のひとつとしてかなり広く信じられている。

 メキシコ経済の不振もあって不法移民の流入と集中は絶えることなく続き、アリゾナ州の州都フェニックスのように、住民の40%近くがヒスパニック系という状況が生まれている。ヒスパニック系への市民の目は次第に厳しく、冷たくなっている。不法移民として保安官に逮捕されると、テント仕立ての刑務所へ収監され、男子でもピンクのシャツ、靴下、一日二食の粗食など、屈辱的な待遇を受ける。二度と越境をさせないような罰則的意味を持たせているというが、アメリカでもまだこうしたことが許容されているとは、信じがたいほどの対応だ。

 アメリカが受け入れている移民の主流となっているのは、人道上の観点から家族のつながり family reunificationである。すでにアメリカに合法居住している市民の家族、配偶者を優先的に受け入れている。短期農業労働者受入のブラセロ・プログラムがなくなった今日では、農業などの不熟練労働者は、合法的経路では受け入れていない。ヒスパニック系を中心とする不法入国者が主として就労している。

 アメリカの産業競争力を回復、強化する上で産業界から要望が強い、高い熟練、専門性を持つ外国人労働者を雇用することについては比較的異論が少なく、特別の割当枠を設定して受け入れている。しかし、これについても、優秀なインド人が来なくなったなどの変化も指摘され、新たな議論が生まれつつある。

 これらの諸次元を包括する移民法改革は、ブッシュ政権末期に実現はしなかったが、輪郭はほぼ描かれている。オバマ政権になっても、今年3月民主党と共和党上院議員による超党派の包括的移民法案の素案が検討のため提示された。かつて、故ケネディ上院議員とマケイン上院議員が提案した案に近い。この考えは現代のアメリカが抱える移民の多様な問題へ包括的に対応しようとしたものだ。国境管理を厳しくする一方で、不法滞在者に市民権獲得の道を準備する。そして産業界の要望に応える道として、アメリカの大学で科学、技術、数学などの学位を取得した学生に自動的なグリーンカード(定住認可)を供与することにし、従来の国別グリーンカードの割り当てを廃止するという内容だ。この考えにオバマ大統領は直ちに賛意を表したといわれるが、未だ法案にもたどりついていない。その後、見解の相違点が生まれ、草案作成者の一方であったグラハム共和党議員が手を引いてしまったためだ。

 オバマ大統領が今後いかなる形で移民法改革に着手するか。いまや明らかなことは、下院の過半数を占めることになった共和党との協力関係を確立せずして実現は期待できないことだ。高度な熟練・専門性を持った労働力、不熟練労働力の受け入れについても、ビジネスに近い改革案の方向が模索されるだろう。しかし、不法滞在者の合法化のあり方、不熟練労働者の確保など、個別的分野でも難問は多い。

 日増しに高まる他民族間の軋轢を緩和、回避しながら、移民法改革を達成することができるだろうか。そして、アメリカ自らを統合する精神的・文化的靭帯を再びしっかりと確保できるだろうか。
これらの点については、今後少しずつ確認してみたい。



Reference
‘Green-card blues’ The Economist October 30th 2010.

BS1 「今日の世界」2010年10月
 23日


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