風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『用心棒』

2014-11-25 19:51:45 | 時代劇
 



                 




いやあ、見事な映画です。この一言でおしまいにしたいくらいです。あとはどうぞご自分で御覧なって下さい。…と言いたいところですが、それでは記事の意味がないので(笑)

しょうがねえなあ、なんか書くか…(笑)







とにかくテンポが良い。無駄な表現を廃し、次々から次へと新たな展開が進んで行き観客に考える暇を与えず飽きさせない。それと一人一人なキャラクターが立っている。

登場人物の性格が一発でわかるような演出をしているんですね。そのルックスやセリフ、動き等で、どういうキャラなのかがすぐにわかる。キャラの立て方がある意味マンガ的だといっていい。

ストーリーもシンプルで、黒澤作品のなかでも比較的分かり易い展開。黒澤明が娯楽作というものに徹底的に拘るとこうなる、という見本のような映画ですね。



映画には色々なものがあっていい。芸術結構。おおいに芸術映画を作ればいい。でも映画というのは基本は娯楽なんです。観客に楽しんでもらうことが、映画にとって1番大切なこと。



黒澤監督はとにかく、映画的魅力に溢れた、理屈抜きに楽しめる娯楽作を作りたかったんですね。理屈抜きとはいっても、そこは黒澤監督のこと、時代劇としての殺陣の魅力をしっかりと描きつつ、刀で斬ることの怖さの追及も忘れない。東映時代劇には無い、リアルで怖くて、それでいてカッコイイ、魅力溢れる殺陣表現に挑戦し、見事に成功しているといっていいでしょう。それはもちろん、殺陣師の久世竜氏と、なんといっても三船敏郎がいたればこそのことです。

三船さんの殺陣は豪快で素早く、複数の人間をほんの数秒で斬り倒してしまう。しかもこの作品では一人の人間に対し、最低二回、刀を当てているんです。

一度胴を掃って、返す刀で頸動脈を斬る。確実に絶命させているんです。それをほんの数秒、目にも留まらぬ速さでやってのける。

この方がいなければ、成り立たなかった映画だと言っていいでしょうね。







                   







舞台は上州のとある宿場町。

二つのばくち打ち(ヤクザ)勢力が対立する町にふらりとやって来た浪人(三船敏郎)。

浪人は「桑畑三十郎」(明らかな偽名)と名乗り、町から両ヤクザ勢力を一掃しようと画策します。



ふらりとやって来た風来坊が悪者どもをやっつけて、またふらりとどこかへ去って行く。典型的なヒーロー像でしょう。この桑畑某の好敵手となるのが、仲代達矢演じるヤクザ「新田の卯之助」。

冷酷非情で頭も切れる。時代劇なのになぜか首にスカーフを巻き付け、どこから入手したのか、6連発の拳銃を持ち歩き、何かというと拳銃を見せびらかしてはぶっ放す。こうして書いてみると無茶苦茶なキャラのように思えますが、これが黒澤監督が演出すると、時代劇の枠の中で、違和感なく生きて存在しているんです。不思議ですねえ。

その他、志村喬、藤原鎌足、山田五十鈴、土屋嘉男、加東大介、司葉子、東野英治郎といった豪華名優たちが脇を固め、作品の質を上げることに貢献してます。さすが黒澤映画、凄い俳優陣揃い踏みです。



『用心棒』は海外の作品にも多大な影響を与えています。一番有名なのは、セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演のマカロニウエスタン『荒野の用心棒(Fistfull Of Dollars)』でしょう。ストーリーも基本的キャラクターもソックリで、もろパクリだというのが分かる。実際、東宝が著作権侵害で訴訟を起こしましたからね。最終的には示談となったようですが。

その他、ブルース・ウイリス主演『ラストマン・スタンディング』という作品も、この用心棒をギャング映画に翻案して制作されたものなんですね。それと、ケビン・コスナー主演の『ボディ・ガード』。ストーリー自体は違いますが、劇中で主人公が観ている映画がこの『用心棒』なんです。抑々この『ボディ・ガード』というタイトル自体、『用心棒』のアメリカ公開時のタイトルだったとか。実はケビン・コスナーが『用心棒』の大ファンなのだそうです。



黒澤明監督作品は、海外の映画に多大な影響を与えています。中でも『七人の侍』と、この『用心棒』は特に影響力が大きい。

まさに日本が誇るべき映画の一本だと言って良い。






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『用心棒』予告編。

本編の微妙に画が違う部分があるんです。予告編用に新たに撮り直した物や、NGテイクも混じっているかも知れませんね。





クライマックス・シーンに、『荒野の用心棒』のサウンド・トラック(作曲・エンニオ・モリコーネ)の音楽を被せたもの。
面白いですね。でもやっぱり、佐藤勝の音楽の方が合ってる(笑)




カッコイイっしょ?是非オリジナルを、一度は観て欲しいものです。時代劇の魅力を再発見出来るかも知れません。

私のおススメ。













『用心棒』
制作 田中友幸
   菊島隆三
脚本 菊島隆三
   黒澤明
撮影 宮川一夫
音楽 佐藤勝
監督 黒澤明

出演

三船敏郎

仲代達矢

河津清三郎
山茶花究
加東大介
太刀川寛

沢村いき雄
渡辺篤

土屋嘉男
司葉子

山田五十鈴

天本英世
ジェリー藤尾
羅生門網五郎

志村喬
藤原鎌足
加藤武
西村晃

藤田進

東野英治郎

昭和36年 東宝映画

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
観ました。 (よしの@)
2014-11-29 03:56:06
迷いないですょね。速さとはおもいっきりの静けさからのスピードアップ。本当にびっくりドンキーでした。あの男臭さがいいです。映画て本当にいいですね。さよならさよなら。また~ねで御座います。m(__)m。ありがとうございます。お疲れ様です。
Unknown (薫風亭奥大道)
2014-11-29 05:48:40
よしの@さん、そう斬ることに迷いがない。あのスピード感の秘密の一つは、刀を打ち合わないこともあると思います。
普通の殺陣だと、カキーンカキーンと互いの刀を打ち合うところが必ず入るんですが、それがないんです。刀を抜いたら最後、ダダダっと一気に斬っていく。打ち合うという「間」を置かないんですね、だから速い。
殺陣の間、三船さんはずっと息を止めているのだそうです。息継ぎをしたらそこで動きが止まってしまう。打ち合いというのはだから、息継ぎの意味もあるんです。それをしないで息を止めたまま。ダダダっと一気に斬る。だから斬り終わると、今にも死にそうなくらい息も絶え絶えになるんです。
この作品の次の作品『椿三十郎』で、仲代達矢さんとの一騎打ちのシーンがあるでしょ?一瞬にして仲代さんを斬っちゃうシーン。あそこはずーっと息を止めたままで、仲代さんが刀を抜くのをずっと待ってる。だから、一瞬で斬り倒しているのに、終わった後はぜいぜい息を切らしてる。
まさに「命掛け」の殺陣です。

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