だらだら日記goo編

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心の中の原風景

2005-07-25 23:20:07 | アート・文化
激しい線描と黒を中心にした原色の多用で知られるビュフェの回顧展が新宿の損保ジャパンで開催されているので昨日行く。静岡のビュヒェ美術館からの借り物だ。
「人物」「風景」「静物」の三部構成だが、まず「人物」冒頭の「父と息子」からして暗い。
母を亡くして、兄は軍隊に取られ、父と2人きりになった悲しみがある。
これくらいならまだいいが、1964の「皮をはがれた人物」など厚塗りで圧倒というより、気味が悪い。
自画像Ⅰ1977なる作品はひげもじゃらでまるで地獄帰りのようで狂気すら漂う。
風景画になってもこの感覚は変わらない。
初期はクールベの影響を受けたようで「波」1946などにそれは現れるが、「マンハッタン」「ニューヨーク」1958なる作品はどこかの倉庫を観るようである。
静物画も同じで「アトリエ」1947は物が乱雑におかれているし、「静物」1955にいたっては、ピストルと手紙でまるで自殺を暗示するかのようだ!
表題の「心の中の原風景」はビュヒェ美術館のポスターにある言葉だが、人間誰しも狂気をうちに抱えているとするなら、まさにこの画家にはふさわしい。
しかしはっとする絵もある。
「ダニエルとヴィルジー」1971は珍しく子どもを描いた絵で、線に丸みがある。
誰を描いたのか会場に解説はないがカタログによるとビュヒェの娘さんを描いたという。
この画家の風景画は1971ごろから明るい色調になるが1974「クーヴェールの城」は淡い色調をかざす。
この画家にしては珍しい。
静物画でもひまわりを描いた1974「花」は落ち着きを感じる。
会場で中年婦人が「この人はナニを描いても暗い」と話していたが、そうとは言い切れないはっとする絵に出会うことも又楽しい。
しかし結局この画家は内なる狂気に身を任すかのように、自殺することになる。
日本をも愛したこの画家の回顧展は今は亡き小田急美術館で観て以来、なかなか味わいがある。
カタログはビュヒェ美術館の鑑賞ガイドだが、コンパクトでよい。
この画家のキリストを描いた一連の作品も観てみたい。