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古い本 その142 古典的論文 モササウルス類2

2023年05月17日 | 化石
 ずっと前に戻って、Conybeare, 1822の見出しをもとに、Mosasaurusの命名をConybeareとする、というわけ。「それまでは」の意味がよくわからないが。論文の著者が他の誰かの言明や手紙を、(名前を公表して)引用したときには学名の著者はもとの言明や手紙の著者になったという例は他にもある。この後、形態やサイズについての特徴が示されているが、だからといって属の著者をParkinsonにするのもおかしいから、仕方がないのかな。なお、「Oryctology」の巻末には10枚の図版があるが、脊椎動物関連はPlate 10だけで、Mosasaurusの図はない。この見出しに出てくるMeuseというのは先ほどの川のフランスの名前。ただしこの川は北に向かって流れ、ベルギーやオランダを通って北海に達する。化石の産地はMaastrichtであろう。
 Cuvierは命名していないようだが、もう一つの種とした“Soëmering”のものはどうなっているのだろう。まず、著者名の綴りが間違っている。正しい綴りはSömmerring (von Sömmerring, Samuel Thomas) である。まさか似た名前の別人がいるということはないだろう。1816年に「Lacerta gigantea」を記している。論文は次のもの。
⚪︎ Von Sömmerring, Samuel Thomas, 1816. Ueber die Lacerta gigantea der Vorwelt. Denkschriften der Königlichen Akademie der Wissenschaften zu Münch. Band 6: Classe der Mathematik und Naturwissenschaften 37-59, 1 Taf.(太古のLacerta giganteaについて)
 確かにこの文献の本文の最後(p. 54)にLacerta giganteaが出てくる。図版が一枚あって、それらしい頭骨などが描かれている。

528 Sömmerring, 1816. Tafel. Lacerta giganteaの頭骨など

 この種類について調べると、現在の種名はGeosaurus giganteus (Sömmerring)となっている。Geosaurus属は、1824年Cuvierの記載でその論文は次のものとされる。
⚪︎ Cuvier, Georges, 1824. Recherches sur les ossements fossiles. Dufour, D'Occagne, eds. 2. Paris: Dufour & d'Occagne, 1 – 547, pls. 1-32.(骨化石の研究)(一部を入手)
 この論文はなかなかの難物で、全部で600ページを超える大作。動物群ごとに、現生のものの骨学と化石の解説が詳しく述べられている。図版が多くて興味深い。ただし、これまでの図版を再版しただけのものもある。例えばこの論文のPl. 18はCuvier, 1808b.のPl. 19と同一のものである。美しい一枚を紹介しておこう。

529 Cuvier, 1824. Pl. 1. 現生ワニ各種の頭部

 ところが、この文章を検索しても「géosaurus」という単語は一度しか出てこないし、最初が大文字でない。命名論文が違っているのだろうか。どっちにしてもGeosaurusは現在ワニに近い海生のMetriorhynchidaeに含められている。先ほどの頭骨を見ると、とてもワニ類には見えないが。最近の見解に合わせてMosasaurではないから除外しよう。なお、属の変更に伴って種小名の語尾が変化している。
 ここまでMosasaurus属の属名について記したが、模式種はどうなるのか? Conybeareは、そしてParkinsonも属名だけを提示したから、模式種の設定は遅れて、1829年の次の論文だという。
⚪︎ Mantell, Gideon Algernon, 1829. A Tabular Arrangement of the Organic Remains of the County of Sussex. Transactions of the Geological Society, Second Series vol. 3, 201–216.(表として配置したSassex州の化石)
 これは論文ではあるが、それまでの知見をまとめたレビューのようなもの。地質時代をさかのぼる形で表になっている。最初の項目は沖積層(p. 201)。202ページに洪積層が数行あって、すぐに第三紀層に入る。ただし、注意を要するのは現在の概念の第三紀ではなくて、やや柔らかい堆積層、ぐらいに思っておく必要がある。第三紀層の最初の中項目は、London Clayで、始新世に当たる。2番目はPlastic Clay(暁新世)、3番目がChalk Formation(白亜紀)で、その大分後の方(p. 207)にReptileとしてMososaurus Hoffmanniiが出てくる。今度はMoso. ! この属名はミスプリの山。脚注に胴椎と尾椎としているだけで、特徴などの説明も、もちろん図もない。これが新種の提示、しかも属名だけしかなかったところに模式の提示とされるというから驚き。Holotypeの産出地すら書いてないことになる。面白いのは、その下の行で、「Iuloidcopros」としてある。この単語の意味はインターネットで出てこない。たぶん糞の化石のことだろう。それについては1835年にBucklandが次の論文を書いている。この類の化石の記載としては随分早いものと思う。
⚪︎ Buckland, William, 1835. On the Discovery of Coprolite, or Fossil Fæces, Transactions of the Geological Society, Second Series vol. 3, 223-236, pls. 29-31.(Coprolite または糞の化石の発見)

530  Buckland, 1835. Plate 28. Coprolite

 なお、種小名hoffmanniiをhoffmanniとしている文献があるが、末尾のiがダブルのが正しい。Mosasaurusには大分手こずったが、まとめておこう。
Mosasaurus Conybeare, 1822. 模式種:Mosasaurus hoffmannii Mantell, 1829
模式種の産地:Maastricht オランダ 白亜紀後期

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