OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その141 古典的論文 モササウルス類1

2023年05月10日 | 化石

 今回からモササウルス類に入る。いつものように1923年までとして、9属を計画したが、書き進めるといくつか増えることがあるかもしれない。このグループは、IchthyosaurやPlesiosaurよりも遅れて出現し、白亜紀後期に最初のものが現れた。化石は他よりも早く1780年ごろにオランダで発見されていたというが、名付けられたのは他の海棲爬虫類と同じ頃。最初はMosasaurus属。これも随分古い文献を見ることになってややこしい。命名した論文は次のもの。
⚪︎ Conybeare, William Daniel, 1822. in Parkinson, James, Outlines of Oryctology. An Introduction to the Study of Fossil Organic Remains; Especially of Those Found in the British Strata: Intended to Aid the Student in His Inquiries Respecting the Nature of Fossils . viii-350, M.A. Nattalli, London., p. 306-308. (Oryctology 概論:化石の生物遺骸研究の序。...)<ネットで見られるのは第2版(1830年)>(前出)
 この論文はMegalosaurusのところで出てきた。その306ページにMosaesaurusという見出しがある。「Mosæ...」という綴りである。ただし、ae,は連字「æ」になっている。Mosæsaurusはあまり使われない学名で他では見たことがない。なお、現在の国際動物命名規約(第4版)では、条27.に、「文字aとeの連結(æ)は、学名中に用いないものとする。」としているが、ではそういう命名がされたとき(とくに規約以前につけられた学名のとき)にどうするのかについては記述がない。この見出し部分を再録しておこう。
Mosæsaurus. -The saurus of the Meuse, the Maestricht animal of Cuvier. (Meuseのトカゲ. Maestrichtの動物(Cuvier))
As Cuvier has not yet given it a name, this name is suggested by Mr. Conybeare until he has done so. (Cuvierは名前を与えていないので、彼(Cuvier?)が命名するまではConybeareがこの名を提案した)
Species I. Described by Cuvier.(Cuvierによって記載された種類)
II. Lacerta gigantea of Soëmering.
 つまり、Cuvierが論じた文章があるが、命名はしてないので、それまではConybeareが提案したMosaesaurusを使う、という。Cuvierの論文というのは次のもの。
⚪︎ Cuvier, George, 1808b. Sur le grand animal fossile des carrières de Maestricht. Annales du Muéum d’Histoire Naturelle. Tome 12: 145-176, Pl. 19-20.(Maestricht.の採石場からの巨大な動物化石について)
 長い論文であるが、学名は与えていないようだ。二枚の図版があるが、その下のキャプションにも「Maestrichtの動物」としか書いてない。

526 Cuvier, 1808b. Pl. 19. (一部)

 他に図版説明のような所が見つからないので、本文に出てくるのだろうが、困るのは上の図でカットした下の部分にある骨格が何であるのかわからなかったこと。現生の爬虫類で、ワニではなくイグアナでもない。オオトカゲか何かと思うが。何れにしてもCuvierがワニだと思っていなかったと推測できる。
 この化石の図版は幾つかのサイトで見ることができるが。不思議なことに反転した画像も幾つか見られる。どうしてだろう? 図の上の方にあるのは頭頂部や脳函部を欠く頭蓋とそれに対応する位置にある左下顎で、下にずれているのは頬側にある穴から考えて右下顎であろう。そうすると右下顎の後方に斜めに乗っているのは一体何だろう? 歯列のうちあと残っているのは左上顎である。なお、Maestrichtは、もちろん現在のMaastrichtで、白亜紀の時代区分にも使われるオランダの都市名だが、ベルギーとの国境にある。街を貫いて流れるのがMaas川で、上流に向かうとすぐにベルギーに入り、さらに100kmほど遡るとフランスに達する。フランスではMeuse川と呼ばれる。
 もう一つ気になったのは、Cuvier, 1808bの冒頭にある次の文章。
「J’ai traitedans le chapitre precédant des animaux fossiles qui ont été considérés á tort ou á droit comme des crocodiles.」(前の章で私は正しいか正しくないか分からないがワニ類と考えられた化石動物を扱った)というのだ。(ネットの自動翻訳を使うと「正しいか正しくないか分からないが」と言う部分が省略された日本語になってしまう。英語に翻訳するとちゃんと出るのに。Cuvier, 1808bは独立した論文なのに「前の章」というのは何だろう? 同じジャーナルの同じ号の前の方に次の論文があるがこれだろうか?
⚪︎ Cuvier, George, 1808a. Sur les Ossemens fossiles de Crocodiles, Et particuliérement sur ceux des environs du Havre et Hofleur, avec des remarques sur les squelettes des sauriens de la Thuringe. Annales du Muéum d’Histoire Naturelle. Tome 12: 73-110, Pl. 10-11.(ワニ類の化石骨について、とくにHavre and Hofleur周辺のものに関して、そしてThuringeの爬虫類骨格についての指摘)
 Cuvier, 1808aは、主にThuringeの標本に関するもので、この地名はおそらくドイツのThüringenのことだろう。その文章を検索するとMaestrichtという単語は一か所だけで、それも脚注で他の論文に関する注釈だから、この論文では問題の(後の)モササウルス標本を扱っていない。だからあまり深く考えないようにしよう。

527 Cuvier, 1818a. Pl. 11.(一部)

 上の図は、Cuvier, 1818a の一部だが、確かにワニ類の化石に見える。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿