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古い本 その143 古典的論文 モササウルス類3

2023年05月25日 | 化石

 二番目に記載されたモササウルス類の属はActeosaurusである。論文は次のもの。
⚪︎ Meyer, H. von. 1860. Acteosaurus Tommasinii aus dem schwarzen Kreide-Schiefer von Comen am Karste. Palaeontographica, 7: 223–231, Taf. 24.(KarsteにあるComenの黒色チョークからのActeosaurus Tommasinii
 原始的なモササウルス類の属で、ここに入れていいのかわからない。産出地はスロベニアのComenというところで、カルスト地形の語源となった地域。図版一枚を伴う。

531 Meyer, 1860. Tafel 24. Acteosaurus Tommasinii holotype

 頭部を欠くので分類上の位置が不明確である。この地域のモササウルス類は、このあといくつかの属が報告されていく。
Acteosaurus Meyer, 1860. 模式種:Acteosaurus Tommasinii Meyer, 1860.
産出地:Comen スロベニア

 三番目はClidastes属で、論文は次のもの。
⚪︎ Cope, Edward Drinker. 1868. On new species of extinct reptiles. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia. vol. 20: 181.(絶滅した爬虫類の新種について)
 これは学会の記録のようなもので、簡単な記載があるだけ。New JerseyのGreen sand 層の中部から産出したもの。Clidastes igunavusと名付けている。
 Copeは、この論文に引き続いてもう一つの論文を出している。これの日付は1868年となっているが実際の発行は1869年らしい(Cope Bibliography参考)。
⚪︎ Cope, Edward Drinker, 1868. On some Cretaceous Reptilia. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia. vol. 20: 233-242.(幾つかの白亜紀爬虫類について)
 この論文では、ヘビやカメについても記録しているが、最初(p. 233)に書かれているのがMosasaurus類のClidastesである。「標本は友人のMarshによって発見された」としているが、何か言いたいことがあるような気がする。属名の見出しには、「Clidastes Cope」と書いてある。すぐ下の種名のところは「Clidastes iguanavus Cope, sp. nov.」として、その種が新種であることを明記している。新属であることはなぜか主張が明確でない。標本は1個の胴椎で、その産出地はNew Jersey州のGloucesterという。図は示されていない。ところが、Wikiなどの資料では模式種がClidastes propython Cope, 1869となっている。さすがに一個の脊椎では情報が足りないというので、次の論文で模式種の改訂を行った。
⚪︎ Kiernan, Caitlin R. 1992. Clidastes Cope, 1868 (Reptilia, Sauria): proposed designation of Clidastes propython Cope, 1869 as the type species. Bulletin of Zoological Nomenclature vol. 49: 137-139.(Clidastes Cope, 1868 (Reptilia, Sauria): Clidastes propythonを模式種に指定することの提唱)
 C. iguanavusのholotypeは十分な特徴を示すといえないので、疑問名となるのだが、Clidastes属は長い間使われてきたので活かす。というのだが、ではこれまでの種の特徴はどうなっていたのかなど、ちょっと矛盾があるような気がする。
 Clidastes属の新しい模式種について調べてみよう。模式種Clidastes propythonの記載は次の論文。
⚪︎ Cope, Edoward Drinker, 1869. On the reptilian Orders Pythonomorpha and Streptosauria. Proceedings of the Boston Society of Natural History, vol. 12: 250-266.
 (爬虫類のPythonomorphaと Streptosauriaについて)
 Pythonomorphaは、Mosasaurus類とヘビとが近縁であるというCope の考えから設けられた目であるが、ヘビ類が陸上で穴を掘ることからその形態を持つようになったという推定のために否定されてきた。ところが近年、分岐分類学で、これを見直し、一つのCladeとして「生きて」いる。Streptosauria の方はよくわからなかった。
 主題のClidastes属は、Cope, 1869の258ページからに記載されている。これらの論文に図がないので、寂しいから別の論文に掲載されていたClidastesの図を掲載する。

532 Clidastes verox Williston 頭蓋背面 Williston, 1898 による

533 Clidastes verox Williston 頭蓋左側面 Williston, 1898 による

 図の原典は次のもの。
⚪︎ Williston, Samuel Wendell, 1898. “Birds”. in Reptiles of the Kansas Cretaceous Ocean, Paleontology. The University, Geological Survey of Kansas, vol. 4. 41-56, Plates 5-8. (Kansasの白亜紀の海の爬虫類, Part 2、鳥)(既出)

Clidastes Cope 1868. 模式種:Clidastes propython Cope, 1869.
産出地:Alabama州Uniontown アメリカ Rotten石灰岩
(旧模式種:C. iguanavus Cope, 1868. New Jersey州Gloucester アメリカ)