あれは,あれで良いのかなPART2

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よく分かる(?)シリーズ 離婚と子供の戸籍

2007年01月17日 23時57分41秒 | よく分かる(?)シリーズ
滋賀県で,離婚した両親がDV被害を避けるために戸籍の届けをしていなかった女子高生に対し,パスポートの申請を不受理としたとする報道がありました。
この措置についても様々な賛否両論ありますが,そもそも「離婚したら子供の戸籍がどうなるか」などについて意外と知らない方の方が多いのではないでしょうか。また,「制度がおかしい」という批判も多々寄せられていますが,何がどうだからおかしいのか,または正しいのかという点も,そもそもの制度自体を理解しなければ正しく判断できないのではないかと思います。
そこで,今回は,離婚した場合の戸籍について,特に子供の関係を中心に説明し,あわせてその前提たる民法の規定についても説明したいと思います。

前提
夫:田中太郎,妻:田中花子(旧姓鈴木),子供:田中かなた(5歳),とする。


第1 離婚した場合の戸籍関係
 1 まず,結婚している今の戸籍には夫,妻,子3人が記載されています。

 2 この2人が離婚した場合,親権に関係なく次の戸籍になります。
  (1) 田中太郎とかなたの2人(田中花子は×で抹消される。いわゆる「バツ1」の語源はここにあります。)
  (2) 鈴木花子1人(ただし,離婚して3か月以内の場合は,届け出によって「田中花子」として戸籍に残せます。

 3 離婚の際に未成年者がいる場合,必ず親権者をどちらにするか決めなければなりません(これが決まらない場合は,離婚届が受理されませんので,結局家裁の離婚調停または離婚訴訟をしなければなりません。)。

 4 仮に親権者を妻(鈴木花子)と指定した場合でも,2のとおり子供の戸籍は夫の戸籍(正確には婚姻の際に氏を変えなかった方の戸籍なので,この前提では妻の鈴木さんが結婚して夫の田中を名乗るようになったので,夫である田中の戸籍ということになります。決して,男女で区別しているわけではありませんので,ここは注意しましょう。)の戸籍に残ったままです。
   でも,親権を取った花子さんは,子供も自分と同じ戸籍にしたいと考える場合が多いでしょう。
   この場合,家裁で「子の氏の変更許可」をもらう必要があります。そして,その許可証を添えて入籍届けをすれば,「鈴木花子,鈴木かなた」の2人の戸籍ができあがります(この場合,同時に元夫の戸籍から,「田中かなた」が×で抹消されます。)
 以上が,離婚に伴う戸籍の動きの一般論です。

第2 イレギュラーケース
 次に,親子関係が面倒になる事例について説明します。
 1 通常の場合(原則)
   結婚して子供が生まれれば,夫婦の戸籍に子供が記載されます。この例では,田中太郎と田中花子戸籍に子供のかなたが記載されます。
   このような子供を,夫婦間の子供であると推測されることから「推定の及ぶ嫡出子」といいます。具体的には,結婚して200日以降に産まれた子と,離婚後300日以内に産まれた子をいいます。
   ぶっちゃけていえば,「まともな夫婦生活を行っていた場合に産まれるであろう期間内」というわけです。

 2 いわゆる「不倫の子」の問題
   嫡出子の問題はいくつかありますが,ここではテーマを絞って説明します。具体的には不倫の子の扱いです。
   この事例として,田中花子さんが実は佐藤工事さんと不倫をしていたとします。そして,佐藤工事さんの子供を産んだとします(子供の名前を「三郎」とします。)。
   さあ,ここからはどろどろの話となります。産まれたのがいつか,でややこしい話満載となります。
  (1) 離婚して300日以降に産まれた場合
    鈴木花子1人の戸籍に鈴木三郎が記載されます。この場合,三郎の母欄には「鈴木花子」と記載されますが,父欄は空欄となります。
    では,実の父の佐藤工事さんはどうすればよいでしょう。
    佐藤さんは,「認知」をすればよいのです。そうすれば,父親欄に「佐藤工事」と記載されます。
    ただし,三郎の戸籍も氏もこれだけは変わりません。すなわち,佐藤さんが認知しても,子供は「鈴木三郎」のままで,戸籍も鈴木花子戸籍に残ったままです。

  (2) 婚姻中に産まれちゃった場合と離婚後300日以内に産まれた場合
    これがもめ事の種です。
    結論から言えば,「田中太郎」戸籍に子供が記載されます。すなわち,「田中三郎」となってしまいます。しかも,三郎の父欄には「田中太郎」と記載されてしまうのです。なぜ,このような制度になっているかというと,「子供の父親がどっちなのか」という混乱をなくすため,離婚後300日以内であれば,前夫との間で性関係があれば生まれるであろう期間であるから」と説明しています。
    これは,佐藤工事さんも,田中花子さんも,そして当の子供たる三郎さんもたまったもんではありません。なにしろ,実の父と違う名前が書かれているわけですから。
    では,これを打ち消すにはどうすればよいでしょうか。
    実は,「田中太郎」さんが,「嫡出否認の訴え」を家庭裁判所に起こすしかないのです。また,産まれてから1年以内にやらなければなりません。しかも,この訴えは,父からしかできず,真実を知っている母や子からはできません。
    したがって,離婚でもめてしまった場合などで,父の協力が得られなかった場合,子供の父親を消してしまうことができないのです。

  (3) 実務的な回避方法
    これが,いわゆる「法の穴」と呼ばれている部分でして,今回のパスポート問題でも,結局出生届を出すと夫の戸籍に乗ってしまうので非常に困る,というものだったのです。民法学者の多くも,「弾力的運用を可能にする」という法改正を指摘しています。
    ただ,現状の回避策として,子供の方から「親子関係不存在確認」の訴えを起こすというものがあります。既に破綻していることが明確である場合は,この訴えを起こすことが可能と解釈しています。この例では,三郎さんの親権者たる花子さんが,三郎さんを代理して,太郎さんに対して訴えを提起することになります。
    ただし,問題として,「基本的には相手の協力が必要である」ことと,「DV案件等で住所が知られたくない場合や顔を合わせたくない場合」については,この制度の使用は難しいという点が上げられます。

  (4) 補足説明
    以上は,分かりやすく「不倫の子」という形で説明しました。
    不倫の子というと,「そんなけしからん奴を保護する必要はない」と思ってしまい,厳しい制度でもいいだろうという感覚にもなってしまうと思います。
    ただ,実際には,同じような事例は不倫でだけ起こるものではなく,「離婚を前提にして長期間別居しているが,夫がなかなか離婚に応じてもらえず,一方で妻の再婚予定相手と同居中に子供ができた」などという事例の場合にも発生しうることであるため,必ずしも直ちに「反倫理的である」ともいいがたい場合がある,ということはご理解ください。

 3 嫡出否認の訴えや親子関係不存在確認の訴えについて
   これらについては,通常の裁判とは若干意味合いが異なります。
   まず,家庭裁判所に対し,これらの「審判」の申立てをします。イメージとしては,「相手との話し合い」になります。したがって,お互いある程度合意していること,顔を合わせても問題ないことが前提となります。
   ちなみに,この審判では,実際に親子関係がないかどうかなどについて,DNA鑑定を行う場合があります。
   そして,このような合意ができない場合は,この審判はできないということになり,今度は家庭裁判所に対し,これらの「訴訟」を提起します。これは,裁判と同じですから,相手の協力が得られなくても,ある程度は判決という形で対応できます。でも,手間暇は当然かかります。
   これらの手続を行わない限り,先ほどのとおり戸籍の届け出ができないか,元夫の戸籍に届けざるを得ないということになります。

第3 問題点のまとめ
 1 離婚後300日までの間に生まれた子供は,前の夫婦関係の子供と推定されてしまうこと。

   親子関係の混乱回避には必要な制度ですが,果たして300日も必要なのか,議論があります。
 2 嫡出否認の手続が父(夫)しかできないこと。
   父側の協力がなければ,子供の関係が不安定になってしまうおそれがあることから,母や子からの訴えを認めるべきではないかとの指摘がされています。
 3 DV等により住所を隠したい場合の対応が難しいこと。
   暴力を逃れるために住所を隠したくても,訴え提起の場合には自分の住所を提示せざるを得ない場合が多く,隠れきれない場合があることが指摘されています。
 
以上になります。やはり,親子関係等という問題は,契約等で適当にやるというわけにはいかず,法律的にがっちりと固めなければいけないことから,かなり複雑な制度となっている,ということだけでもここでご理解頂ければと思います。

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