小説 支笏湖に消ゆ =神成探偵社の事件簿1=

さぁ”謎解き”の北海道ミステリーツアーに出発だ!

第1章 プロローグ

2018年08月29日 23時14分35秒 | 小説

第1章 

有紀(ゆき)は、札幌三越のデパ地下で買った大好きなスィートポテトを携えて、地下街のポールタウンを歩いていた。
 札幌で大人気のスイートポテトで、15分も並んでようやく買ったものだ。
 有紀は、1個つまんでみようと袋を空けた。


「あら、有紀じゃない。久しぶりね。元気だった?」
 と声を掛けて近寄ってきた女性がいた。
 大学時代に同じサークルで同期だった和子(かずこ)だった。
 その後ろには、小学生ぐらいの女の子と男の子が二人寄り添っていた。
「本当、久しぶりね。こんな所で会うなんて奇遇ね。和子も元気そうね。いやぁ、めんこいね。子供も二人もいて賑やかそうだね」
「賑やか所の話しでないよ。もう、家の中はすっちゃか、めっちゃかで、なまら大変なのさ」
 言葉とは裏腹に、子供を見る和子の瞳は優しかった。
「そういえば、サークルの同期会の案内が来てたね。確か来週だったよね。もちろん、和子も来るっしょ?」
「私は、ちょっと行けないんだわ。みんなに宜しく行っておいて」
 和子はそう言いながら、有紀は私が行けないのを知っていて、わざと意地悪して言っているんだと思った。

 和子は、今の旦那と結婚する前に、同じサークルの西嶋真之(にしじま まさゆき)と付き合っていた。
 別れた切っ掛けは、真之の渡米だった。
 医薬に関する学位論文が認められて、米国の大学に研究員としていく事になったのだ。
 真之は、和子にプロポーズして、一緒に米国に着いてくるように頼んだ。
 和子は葛藤した。
 海外に行けば、研究熱心な真之が、大学に籠もりっきりになって仕事に没頭するのは予想が付いた。
 もし二人で渡米すれば、言葉の通じない社会の中で、自分だけが部屋の中で一人っきりになってしまう。
 真之を愛してはいたが、その寂しさに自分は耐えられないと思った。
 思い悩んだ末に、和子はプロポーズを断り二人の関係はそれで終わった。

 共通の知人には、和子は冷たいと言われた。
 よく北海道の女は、別れに対してドライだといわれるが、仕方がない。
 それが現実なのだ。
 後腐れなんか気にしていたら恋愛なんて出来やしない。
 どうせ別れるなら、北海道の澄んだ空のように、早めに綺麗さっぱり別れた方がいい。
 北海道の女は冷たいと言う奴には、勝手に言わせておけばいい。
 分かりきった不幸を背負って生きて行くなんて、「はんかくさいっしょや」と言い返してあげる。

 和子と真之の別離からは、既に10年近くの歳月が経っていた。
 真之が数年ほど前から、日本に戻っていた事は知っていた。
 札幌の国立大学に新設された先端医薬研究所の主任研究員として、米国から招聘されたそうだ。
 以前、その特集記事が地元の北海道新聞に掲載されていた。



 今回の同期会は、真之の友人が幹事となって開催するので、日本に帰ってきた真之の歓迎会的な意味合いもあるのだろう。
 そんな同期会に、和子が行けるはずもない。
 真之と付き合っていた過去は、サークルの同期だった有紀なら、十二分に承知しているはずだ。
 そう言えば、学生の頃から、彼女は時々、変な言い掛かりを付けたり、遠くから挑みかかるような視線で見つめていた気がする。

「ママ、早く。スイートポテトが売り切れちゃうよ」
 小学四年生になる長女の由美子(ゆみこ)が和子の左手を引っ張った。
「そうだよ、早くしてよ。ママの立ち話は長いんだもん」
 小学二年生になる長男の幸明(ゆきあき)も、姉の真似をして和子の右手を引っ張った。
「はい、はい。分かったから。したら有紀。そういえば、あなた、子供はまだなの?」
「うん、ちょっと事情があってね…」と有紀は言い淀んだ。
「あんたも、もう、三十路過ぎてるんだから早く作りなさいよ。子供は良いもんだよ。したらね」
 和子は、そう言って、子供と両手をつないで有紀と別れた。

 有紀は、和子の後ろ姿を羨望と憎悪の入り混じった感情で眺めた。
 有紀は結婚して5年たったが、まだ子供はいなかった。
 夫婦仲は悪いわけではないし、人並みに夫婦の営みもある。
 だが、子供がなかなか授からなかった。
 そのため、今は不妊治療をしていた。

 有紀は、肩を震わせた。
 楽しそうに子供と手を繋いでいる和子の後ろ姿を睨んでいると、悔しくて涙が出てきた。
 和子は、私が、子供が授からなくて悩んでいるのを知っていて、意地悪してあんな事を言っていんだわと、思った。
 そう言えば、今年の年賀状にも、デカデカと子供と一緒に写った幸せそうな写真を載せて、あなたも早く作ればなんて書いてあった。
 それに、学生の時だって…
 和子さえいなければ、真之と付き合っていたのは、この私だったのに…
 有紀の中で、和子という存在が、自分の幸せを奪っていく女のように思えた。
 噛んだ唇が血で染まるほど、有紀は激しく嫉妬した。


 有紀は涙を滲ませながら、大通駅からすすきの駅へと続く地下街を走り抜けて、階段を駆け上がった。
 川の流れのように淀みなく行き交う人の流れを抜け出して、一刻も早く人のいない所に逃げ込んで大声で泣きたかった。


 第1章 終了

 

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目次 : 第1章~第20章 

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