[コロナの現場]あの時、私は 第1部<3>109人入院 院内感染ゼロ
いきなり3桁の患者を受け入れることになるとは、予想を超えていた。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナウイルスの集団感染が起きた2020年2月、自衛隊中央病院(東京都世田谷区)には合計109人が入院した。感染症専門医の1等海佐、田村格さん(48)(現自衛隊佐世保病院副院長)は、想定外の対応を迫られた。
「院内感染は覚悟しなければ」。大人数の受け入れを始める直前、そう考えた。感染症指定の病院だから備えはあった。感染症病床は10床、もしもの時には自衛官用の結核病床も50床ある。だが100人となると、多くの患者を一般病床に入れることになる。
感染症病床は、ウイルスを含んだ空気が外部に漏れないよう、気圧を低くした専用の病室にある。未知の部分が多い新興感染症の患者を何十人も一般病床で診るなど、きわめてリスクの高いことに思われた。
担当者は訓練を積んできた。ただし、想定していたのはエボラ出血熱など特に危険な感染症の患者が1人か2人運ばれた場合だ。一気に大勢入院すれば、日頃は担当外で不慣れなスタッフも動員することになる。
「殉職者を出すわけにいかない。そんなことになれば、その後の診療も立ちゆかなくなる」
できるだけリスクを避ける方策を考えた。わからないことだらけだが、50歳以上が重症化しやすいという情報をもとに、まずは40歳代以下で担当を編成した。
病気の特徴や治療の方法は? 寝る間も惜しんで海外の情報を集め、共有した。何もわからず対応を強いられることは、スタッフのストレスを増幅するからだ。
どうやらエボラほど重症でなく、結核ほど感染性は高くない。スタッフに繰り返し呼びかけた。
「訓練通りのことを、いつも通り実行すれば、何も怖いことはない」
もともとの感染症担当スタッフと、そうでないスタッフが一緒に働ける配置を組んだ。防護具の着脱動作を一つ一つチェックし合い、働きながら確実に身につけるための配慮だった。
クルーズ船からの最後の患者が退院したのは3月17日。医師も看護師も誰一人感染することなく乗り切った。この経験が、現在の感染対策を支えている。(この項つづく)
◎主な出来事(2020年2月)
2月 3日 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」横浜に入港。厚生労働省が検疫のやり直しを始める
4日 乗客乗員10人の感染を確認
5日 船内隔離が始まる
9日 厚労省が、感染症病床以外でも患者を受け入れるよう事務連絡を出す
15日 自衛隊中央病院が多数の感染者受け入れを始める
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