自閉症スペクトラム障害 脳画像で早期発見 福井大・金沢大などチーム
読売新聞 2014年9月30日(火) 配信
対人関係などに困難を抱える、発達障害の一種「自閉症スペクトラム障害(ASD◎)」を画像で判別できるようになってきた。従来の診断方法だけでは見落としたり、誤診を招いたりしたが、画像診断装置の進歩で、障害の傾向を数値で表せるようになった。ASDは、幼児期にコミュニケーションの訓練を始めれば、ある程度は社会性が向上するとされており、画像装置での早期発見が期待される。 (村上和史)
◇診断の壁
福井大や金沢大などのチームが研究を進めている。
チームを率いる福井大の小坂浩隆・特命准教授によると、従来のASD診断は、問診や行動観察を重ねて確定させる。ただ、患者の個性と区別できる客観的な指標がないため、長期間見過ごされたり、うつ病などと誤診されたりするケースが後を絶たなかったという。
客観的な診断指標が求められる中、2000年頃から、脳血流が増えた部分を赤色で示す機能的磁気共鳴画像(fMRI)などを使って脳活動を探る研究が盛んになってきた。しかし、目を閉じた時など、安静時には血流を検出できない上、頭を使うテストが必要だったため、幼少期の診断には不向きとされた。
◇技術の進歩
事態を打開したのは、07年頃の技術革新だった。fMRIで微弱な血流の変化も分かるようになり、他人と比較して自らの考え、行動を振り返る際に働く「後部帯状回」という脳後方の部位と、相手の言葉や表情を理解する「内側前頭前野」という脳前方の部位が、安静時にもわずかに活動することが判明した。
いずれもASDとの関連が疑われていた部位で、チームは一般男性21人と、ASDの男性19人の脳画像をfMRIで撮影し、比較した。
1人当たり8分間で約200枚撮影し、そのうち、後部帯状回で血流が見られた時のカットを重ねて1枚に加工。さらに、その画像上で内側前頭前野が赤く映った面積の割合も計算し、離れたところにある二つの部位がどの程度、同時に働くかを調べた。
すると、ASDでは内側前頭前野が赤くなった面積の割合は平均30%と関連が薄かったのに対し、非ASDでは、2倍以上の67%だった。内側前頭前野で血流が見られた際、後部帯状回が赤くなるという逆のパターンでも同様の結果が出たという。
小坂特命准教授によると、ASDでは二つの部位が連動しにくいことを示し、「この差が大きいほどASDの程度が重くなる傾向も出た」という。研究内容をまとめた論文が6月に英国の発達障害専門誌電子版に掲載された。
◇障害早く疑えていたら・・・患者・家族ら願い切実
ASD患者や家族にとって、障害の早期発見、診断方法確立への願いは切実だ。
「会話の相手が怒っても、理由が分からないことがある」。福井県内の就労支援事業所で働くASDの男性(31)は、ほとんど目を合わせることなく話した。
男性は、相手の気持ちを想像するのが極端に苦手という。ASDと診断されたのは4年前で、それまでは人とコミュニケーションが取りにくいのは個性だと思い込んでいたという。
長男(24)がASDの女性(50)も「息子が小学生の頃、学校になじめない原因は性格や個性と思っていた。もっと早く障害を疑えていたら、あまり悩まずに済んでいたかも」と話す。
今回の研究で使われているfMRIは5、6歳になれば撮影は可能で、チームは今後、若年層などのデータも集めてASDを疑うための基準値を探る。ASDに詳しい弘前大の中村和彦教授は「研究が進めば、治療効果を確認する指標になるのでは」と指摘する。
◇治療法は
Q 自閉症スペクトラム障害(ASD)とは何か。
A かつては自閉症やアスペルガー症候群などを「広汎性発達障害」と総称していたが、昨年国際的な診断基準の変更に伴って現在の名称になった。スペクトラムは自閉傾向の強弱の個人差が大きいことを示している。
Q ASDの診断法は。
A 複数回の診察で本人や家族からコミュニケーションの内容などについて聞き取ったり、日常の行動を観察したりする。ただ、個性と発達障害との境界が曖昧で、大人になってから診断が確定するケースも多い。
Q 治療法は。
A 現在、治療薬はないが、会話や動作を学習させたり、友だちとの関係作りを指導したりする療育を幼少期から続けることで、社会性の向上が期待できる。
ASDの人らの脳活動を調べる小坂浩隆特命准教授(奥)ら(福井大病院で)
◎ASD=Autism Spectrum Disorder
読売新聞 2014年9月30日(火) 配信
対人関係などに困難を抱える、発達障害の一種「自閉症スペクトラム障害(ASD◎)」を画像で判別できるようになってきた。従来の診断方法だけでは見落としたり、誤診を招いたりしたが、画像診断装置の進歩で、障害の傾向を数値で表せるようになった。ASDは、幼児期にコミュニケーションの訓練を始めれば、ある程度は社会性が向上するとされており、画像装置での早期発見が期待される。 (村上和史)
◇診断の壁
福井大や金沢大などのチームが研究を進めている。
チームを率いる福井大の小坂浩隆・特命准教授によると、従来のASD診断は、問診や行動観察を重ねて確定させる。ただ、患者の個性と区別できる客観的な指標がないため、長期間見過ごされたり、うつ病などと誤診されたりするケースが後を絶たなかったという。
客観的な診断指標が求められる中、2000年頃から、脳血流が増えた部分を赤色で示す機能的磁気共鳴画像(fMRI)などを使って脳活動を探る研究が盛んになってきた。しかし、目を閉じた時など、安静時には血流を検出できない上、頭を使うテストが必要だったため、幼少期の診断には不向きとされた。
◇技術の進歩
事態を打開したのは、07年頃の技術革新だった。fMRIで微弱な血流の変化も分かるようになり、他人と比較して自らの考え、行動を振り返る際に働く「後部帯状回」という脳後方の部位と、相手の言葉や表情を理解する「内側前頭前野」という脳前方の部位が、安静時にもわずかに活動することが判明した。
いずれもASDとの関連が疑われていた部位で、チームは一般男性21人と、ASDの男性19人の脳画像をfMRIで撮影し、比較した。
1人当たり8分間で約200枚撮影し、そのうち、後部帯状回で血流が見られた時のカットを重ねて1枚に加工。さらに、その画像上で内側前頭前野が赤く映った面積の割合も計算し、離れたところにある二つの部位がどの程度、同時に働くかを調べた。
すると、ASDでは内側前頭前野が赤くなった面積の割合は平均30%と関連が薄かったのに対し、非ASDでは、2倍以上の67%だった。内側前頭前野で血流が見られた際、後部帯状回が赤くなるという逆のパターンでも同様の結果が出たという。
小坂特命准教授によると、ASDでは二つの部位が連動しにくいことを示し、「この差が大きいほどASDの程度が重くなる傾向も出た」という。研究内容をまとめた論文が6月に英国の発達障害専門誌電子版に掲載された。
◇障害早く疑えていたら・・・患者・家族ら願い切実
ASD患者や家族にとって、障害の早期発見、診断方法確立への願いは切実だ。
「会話の相手が怒っても、理由が分からないことがある」。福井県内の就労支援事業所で働くASDの男性(31)は、ほとんど目を合わせることなく話した。
男性は、相手の気持ちを想像するのが極端に苦手という。ASDと診断されたのは4年前で、それまでは人とコミュニケーションが取りにくいのは個性だと思い込んでいたという。
長男(24)がASDの女性(50)も「息子が小学生の頃、学校になじめない原因は性格や個性と思っていた。もっと早く障害を疑えていたら、あまり悩まずに済んでいたかも」と話す。
今回の研究で使われているfMRIは5、6歳になれば撮影は可能で、チームは今後、若年層などのデータも集めてASDを疑うための基準値を探る。ASDに詳しい弘前大の中村和彦教授は「研究が進めば、治療効果を確認する指標になるのでは」と指摘する。
◇治療法は
Q 自閉症スペクトラム障害(ASD)とは何か。
A かつては自閉症やアスペルガー症候群などを「広汎性発達障害」と総称していたが、昨年国際的な診断基準の変更に伴って現在の名称になった。スペクトラムは自閉傾向の強弱の個人差が大きいことを示している。
Q ASDの診断法は。
A 複数回の診察で本人や家族からコミュニケーションの内容などについて聞き取ったり、日常の行動を観察したりする。ただ、個性と発達障害との境界が曖昧で、大人になってから診断が確定するケースも多い。
Q 治療法は。
A 現在、治療薬はないが、会話や動作を学習させたり、友だちとの関係作りを指導したりする療育を幼少期から続けることで、社会性の向上が期待できる。
ASDの人らの脳活動を調べる小坂浩隆特命准教授(奥)ら(福井大病院で)
◎ASD=Autism Spectrum Disorder