フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

2月26日(火) 曇り (後半)

2019-03-01 22:46:43 | Weblog

(承前)

初めに断っておきますが、この写真は演出です。

卒業生のミキコさん(一文、社会学専修)が午後3時に研究室にいらっしゃることになっていたのだが、少し早めにキャンパスに着いたようで、私がスロープを登っていると、ちょうど彼女がそこにいて、「大久保先生・・・」と声をかけられた。卒業以来21年ぶりの再会である。

年賀状のやりとりはずっと続いていた。でも、卒業後、一度も会ったことはない。そういう一文・二文の卒業生は多い。

卒業生が頻繁に私のブログに登場するようになったのは、2011年以降である。2011年は社会的には大きな震災のあった年であり、文化構想学部の第一期の学生たちが卒業した年であり、個人的には学部の教務主任をしていて非常に多忙な年だった。卒業生との社交は、文構のゼミの一期生あたりから始まり、その慣習は二期生以降に継承されると同時に、それより前の時代の卒業生たちへも少しずつ遡及していった(若者の文化を大人が模倣するみたいに)。

年賀状のやり取りの中で、「今度、研究室に遊びに行かせてください」「どうぞいらしてください」という言葉が交わされることはよくあることだが、なかなか実現まではいかない。しかし、私もあと6年で定年であるから、「研究室に顔を見せに来てください」という言葉もつかえなくなる。今年の彼女の年賀状には「研究室にうかがいたいので、メールアドレスを教えてください」と書かれていた。本気度が高まったわけだ。そして私の教えたメールアドレスに彼女からのメールが届き、今日、21年ぶりの再会となったのである。

私が彼女に関して一番記憶に残っているのは、研究室のドアの外の廊下に腰を下ろして(地べたすわりだ)、私が研究室に戻ってくるのを待っている姿である。たぶん卒論指導を受けるために来ていたのだと思うが、強く印象に残っているということは、そういうことをする学生が珍しかったからだと思う。大げさに言えば、一種のカルチャーショックを受けたのである。

今日、私は彼女にお願いして、そのときの光景を再現してもらった。彼女は素直に(あるいは面白がって)協力してくれた。当時はGパンを履いていたと思う。もしかしたら寄りかかったいたのはドアの横ではなく、ドアの向かいの壁だったかもしれない(だんだんそんな気がしてきた)。

記憶の変容というのはあるだろうけれども、目の前に再現された光景を見て、21年前と現在とがつながった。それで私は彼女の卒業後の21年間の人生の話に耳を傾けることができるようになった。話をしながら、研究室、戸山の丘、「カフェゴトー」と場所を移動した。

大学時代から付き合っていた彼と結婚して、現在は3人のお子さんがいる。一番上は中2で一番下は小1だ。旦那さんは自営業をされていて、彼女もフリーランスの編集者をされている。ふだんは入間のご自宅で仕事をすることが多いが、今日は都内で仕事があり、その帰りに早稲田に寄ってくださったのだ。 

彼女の同級生たちの話も聞いた。ずっと連絡をとりあっている人もいれば、最近になって(SNSなどで)連絡をとるようになった人もいる。全く消息がわからない人もいるそうだ。彼らの名前を私はほぼ覚えている。名前をきけば顔が浮かんでくる。こうかくとどれだけ記憶力がいいんだと思われるかもしれないが、当時、社会学専修の演習授業では私は毎回全員に発言(レポートの提出も含めて)を求めていた。教室に来た以上は何か発言して帰りなさいと。それを1年間続けていれば(当時は通年授業だった)、いやでも学生全員の顔と名前を覚えるものである。

 自分が夢みていた人生と、実際の人生との間にずれを感じるのは、みな同じだろう。肝心なことは、自分の人生を肯定できるかどうかであり、人生を共に歩むことになった家族や仲間を愛することができるかどうかである。もし神様が「お前の夢みた人生を与えてあげよう。ただし、その場合は、これまでの人生を共に歩んできた者たちとは別れなければならない」と言ったとしたら、どうするか。そのとき神様に「せっかくですが、お断りします」といえるような人生を歩んでいるとしたら、それは幸福な人生といえるのではないだろうか。

5時から臨時教授会が始まろうとしていた。「カフェゴト―」を出て、彼女とはそこで別れた。彼女はLINEの99人目の「友だち」になった。またお会いしましょう。次はまた別のカフェで。

教授会は1時間足らずで終わり、研究室で少し雑用を片付けてから、大学を出た。夜のキャンパスの写真のうち、2枚目のスロープの光景は一文・二文時代の卒業生にも見覚えがあるだろうが、1枚目の中庭、3枚目の新記念会堂の屋上庭園(戸山の丘)の光景は初めて見るものだろう。

 

7時半、帰宅。

夕食は手羽先焼き、蒸し野菜。白菜と椎茸の味噌汁、ご飯。

デザートはチヒロさんからいただいた苺大福と桜餅。 

 2時、就寝。

この記事についてブログを書く
« 2月26日(火) 曇り (... | トップ | 2月27日(水) 曇り »