心理カウンセリング ウィル

ご相談はホームページの予約申し込みフォームからお願いします。
 

脳のアップデートは可能か(2) №233

2015-01-13 17:14:10 | 日記
2 「脳が若返る薬」の実現
 ヘンシュ教授は「抗てんかん」剤として使用されてきた「ヴァルプロ酸」を神経障害を負った成人男性に投与することで、「絶対音感」を高めることに成功したのです。つまり、「臨界期」を過ぎて「固くなった頭」を「柔らかくする」ことに成功したのです。このため世界中の音楽関係者から「被験者」になりたいとのメールが殺到しているということですが、この薬の凄さは絶対音感を高めることにとどまらないということです。
 「ヴァルプロ酸」を服用することで、年老いた人間の脳を「幼児のように柔らかく」する効果がもたらされるというのです。「臨界期」を設けることで一度は外部環境に適応できるようになった私たちも、加齢とともに新たな環境に適応していくことが困難になりますが、薬により「臨界期」が再開できるというのです。脳のアップデートが可能になるということです。情報の増加速度と脳の可塑性への需要に対応するように、脳の進化に手を加えることができたら素晴らしいことです。
 ただ、ヘンシュ教授の研究は、本来は生まれつき、あるいは後天的に神経障害を負った人々に光をもたらすものとして行われたものです。絶対音感を向上させた「ヴァルプロ酸」の投与も、その研究過程で行われたものですが、その研究を見て多くの人が考えるのは、やはり自らの脳を若返らせて、知性を向上させる薬物を製造できないかという思いではないでしょうか。
 苦手な英語を「臨界期」前の脳に戻って学習することができれば、バイリンガルになるのも夢ではなくなるわけですが、ヘンシュ教授はそうした使用に警鐘を鳴らしています。「この種の薬物的な操作とトレーニングで、人生を豊かにすることは可能だと思う。しかし、何かを失う可能性もまたある。わたしたちは特定の文化で、特定の環境で育てられて、こうなっているのだから、臨界期を再開させることは、幼い頃から構築してきたアイデンティティの一部を失う危険性がある。」ということです。

脳のアップデートは可能か(1) №232

2015-01-13 16:40:05 | 日記
1 人類は頭が固くなることを「獲得」した
 正月に放送された、NHKスペシャル「NEXT WORLD~「私たちの未来」は大変興味深いものでした。特にハーバード大学ヘンシュ教授の「脳が若返る」薬についての放送内容は「心」の問題を考える立場のものにとって大変刺激的でした。
 私たちの脳が「絶対音感」を身につけられる「臨界期」は7歳頃ではないかといわれています。言葉の獲得についても、野生児または孤立児と呼ばれる幼児期に人間社会から隔絶されて育った子供は、後に教育を受けても文法に従って文を作る能力については著しく劣ることが知られていますし、外国語の学習でも習得年齢が大きく影響することが知られています。
 なぜ、私たちの脳は「臨界期」のようなものを設けるのでしょうか。ハーバード大学脳科学センターの<ヘンシュ・貴雄>教授によると、それは「脳の回路を安定させることが重要だから」ではないか。つまり、神経回路の基本的な部分が安定することで、はじめて、その上に成立する新しい機能の学習が容易になるからではないかということです パソコンの基幹の部分にあるウィンドウやアイオーエスのようなOSの設計が、頻繁に「仕様変更」されると使い勝手が悪くて困ってしまうように、脳の「仕様」を一定の時期で固定化すること、すなわち「臨界期」を設けることで、外部環境に適応できるようにしたのではないかとヘンシュ教授は考えたわけです。
 スイスの心理学者ピアジェは、人間の成長を「同化」と「調節」で捉えています。新しい情報を今持っている「知的構造」に合うように変化させて「同化」させたり、知的構造自体を変化させて「調節」することによって成長していくわけですから、この「知的構造」すなわち「脳の仕様書」がきちんとしていないと困るわけです。
 私たちは加齢によって「頭が固くなった」のではなく、環境に適応していくために「頭が固くなることを選んだ」のではないかというのがヘンシュ教授の考えです。脳が「臨界期」をもたないとどうなるのか。教授によると「統合失調症などの精神疾患では、臨界期を終了させる遺伝子の多くが傷ついているのが見られる。つまり、彼らの生涯は過剰に可塑性があり、神経回路が不安定であることを反映している可能性がある。その結果、彼らは外との関係を維持するのが困難になっているのかもしれない。」ということです。