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ジャベール警部のレ・ミゼラブル

2013-01-20 12:25:41 | インポート
 映画レ・ミゼラブルを観ました。3時間近い映画でしたが、ナポレオン没落後の19世紀フランスの騒然たる雰囲気をよくあらわした作品で楽しむことができました。印象に残ったのは、ジャン・バルジャンを執拗に追いかけていた警部ジャベールが自殺したシーンです。 
 忠実な法の番人であり秩序の体現者であることを自負していたジャベールは、ジャン・バルジャンをとらえる機会がありながら、自分の命を助けてもらったことに恩義を感じ、見逃してしまいます。そのことに自責の念を抱き、ノートルダム橋からセーヌ川に身を投げて自殺をしてしまいます。
 ジャベールはなぜ死を選ばなければならなかったでしょうか?ジャベールの性格は強迫性パーソナリティ障害に近く、法や秩序に忠実で融通がききません。トランプ占い師と犯罪者の父の間に生まれたジャベールは自分の属している浮浪階級を憎悪し、権力の側につき、法の番人としてささいな犯罪も容赦なく取り締まりました。彼は、ジャン・バルジャンにだけ厳しかったわけではありません。自分の父が脱獄すれば父を逮捕し、母が法を犯せば容赦なく告発するような男です。禁欲主義で、まじめで、厳格な人間です。
 秩序は彼の信条であって宗教でした。その強固にまとっていた自我の鎧が壊れてしまったわけです。豊島与志雄訳の原作では、このように書かれています。
  「自己がむなしくなり、無用となり、過去の生命から切り離され、罷免され、崩壊されたのを彼は感じた。官憲は彼のうちに死滅した。彼はもはや存在の理由をもたなかった。」
 レ・ミゼラブルというのは、、「悲惨な人々」「哀れな人々」の意味のようですが、わたしが小学生の頃読んだ本では、「ああ、無情」というタイトルでした。法よりも尊いものがあると気づいたジャベールがアイデンティティを問い直すことなく死を選んでしまったことに、カウンセラーの立場として、レ・ミゼラブル「ああ、無情」と叫びたい思いでした。