荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『The Depths』 濱口竜介(@東京フィルメックス)

2010-11-25 01:15:45 | 映画
 濱口竜介の最新作のワールドプレミアが、きょうの午後、東京フィルメックスで行われた。東京藝術大学と韓国国立映画アカデミーの合作であるこの『The Depths』については、語るべきことがもろもろあるだろうが、ともかくこの作品を規定している最大の固有性は、韓国人キャストと日本人キャストの圧倒的な体格差にあると私は思う。
 キム・ミンジュンをはじめとする韓国人俳優たちは、背がとても高く、貴族のように優雅に歩き、野太くセクシーな声を発するばかりか、芸術への野心と才能に満ちている役がふられている。一方、少年のようにナイーヴで小鳥のように小さく、ジャリ餓鬼のような男娼を演じる石田法嗣(あの塩田『カナリア』のヘッドギアをした少年だ)、そして彼のボスであるヒステリックなやくざの兄貴分・村上淳というふうに、日本人俳優たちはことごとくこぢんまりと肉体を縮こまらせて、右往左往している。感情表現も前者たちには正当性が感じられるが、後者のそれは薄っぺらで、意味が相手にほとんど伝わらず、突発的になにか乱暴なことをしでかす。
 おそらく本作は、日本映画史上で初めて、朝鮮半島から来た隣人を差別意識ではなく、さらに被害者への謝罪意識でもなく、ましてやアイドル的な偶像崇拝でもない、日本人の道徳的な堕落に大きな手を差しのべる庇護者として描いた作品であろう。おまけに経済的にも、つねに前者が恵み与え、後者がおこぼれに預かるという極端な構図が反復される。
 では、石田も村上も、手をこまねいて肉体的、精神的未熟さを晒すほかはないのか、というと、それはまったく違うのである。貧弱であること、道徳的に墜ちていくこと、滅びようとしていること、つまり(映画マニアたちがやたらと嫌っていることになっている)詠嘆こそが、彼らの武器だ。おのれの死に場所を探すための右往左往。それが生そのものであるという。その現場を韓国人が目撃し、瞠目する。フォトグラファーである韓国人主人公は、なんとか理解に努め、その瞬間にレンズを向ける。だが、はたしてその移ろいゆく詠嘆的存在を、フレームにおさめることができたのだろうか。


本作は、有楽町朝日ホールなどで開催中の〈第11回東京フィルメックス〉で、特別招待作品として上映
http://filmex.net/2010/

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8 コメント

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日韓格差 (jennjenn)
2010-11-25 02:24:07
久々にコメントさせていただきます。
『The Depths』は本当に面白かったです。
男優の体格差、登場人物の倫理的、感情的、経済的な日韓格差については、まさにご指摘のとおりだと思います。
ただ、村上淳のヤクザの親分については、『The Depths』の直前に、隣の映画館で『ゲゲゲの女房』(鈴木卓爾)を見てしまったので、やはり村上淳が演じる水木家(武良家)の貧乏下宿人が、栄養失調のまま、また出てきたか、と思ってしまいました(笑)。
村上淳 (中洲居士)
2010-11-25 11:19:17
村上淳は『ゲゲゲの女房』にも出ているのですか? これは未見です。たぶん見ると思います。鈴木は前作『私は猫ストーカー』はイマイチでしたが。

それにしてもこの人は、その他にも、平山秀幸の2本(『必死剣 鳥刺し』『信さん』、後者はけっこういいです)や廣木『雷桜』、瀬々『ヘヴンズ ストーリー』、熊切『海炭市叙景』と出まくりですね。
Unknown (kusukusu)
2010-11-25 17:19:01
こんにちは。僕も見ました。
個人的には、あまり登場人物に共感を覚えなかったので好きな映画とは言えないのですが、興味深い映画だと思いました。ここで指摘されているように、日本人と韓国人をこういう角度で対比的に描いたものは今まであまりなかったように思います。そこが興味深いです。
もしかしたら、右翼の人が見たら、なんだ、これは、反日映画じゃないかと怒るのではないかとちょっと心配になったりはしましたが。(そもそもそういう人がこの映画を見るのか?とも思いますが・・)
インディペント出身の監督が、こういう形で、なんていうか、日本と韓国の関係を新たな角度から見つめたような、開かれた映画をつくったのは評価できるのかもしれません。(インディペント出身監督の作品は自閉的な方向にばかり行くことも多いので。)
kusukusuさん (中洲居士)
2010-11-25 20:54:38
kusukusuさんの姿を、上映開始前の座席から、すこし遠目からお見かけしました。

落ちぶれてゆくわれら日本人の滑稽な自画像、つまり、この映画は喜劇なのではないでしょうか。花嫁(日本女)をさらわれた花婿(韓国男)と、彼を祝うために来日した韓国人写真家が、とぼとぼと裏町の写真館に引き上げてゆくあたりの滑稽さも、これはいいと思いました。

ロケ地がどこなのだろう、というのも気になりました。東京でもあり横浜でもあるという感じで、特定できなかったのが心残りです。
はじめまして (ゆう)
2010-11-27 19:38:56
レビューを興味深く拝見しました。
私も鑑賞しましたが、鑑賞後にこの映画のテーマについて考えました。
なぜ、韓国の俳優と日本の俳優を共演させたのか等。
言葉の問題については、脚本の工夫もあって、よく見かける不自然はなかったように思います。
喜劇という側面は思いもよらなかったです。
ご指摘のとおりですね。
ロケ地は、横浜がメインで東京でも撮影したようです。
どこか特定できないことで、映画の浮遊感を醸し出していたように思います。
俳優陣はいかがでしたか?
キムミンジュンさんのスケールの大きさは映画のスクリーンが小さいと感じる程でしたし、一方石田法嗣さんの繊細さは吉岡秀隆さんの再来を思わせる素晴らしいものでした。
この違いは日韓の俳優の発掘、育成の違いかもしれません。
テーマは映画を鑑賞した各人に委ねられるものかもしれませんね。
ゆうさん (中洲居士)
2010-11-28 08:28:20
ゆうさん、はじめまして。このたびは、コメントを寄せていただき有難うございます。

路地裏に引っ込んだところにひっそり佇む写真館。この場所柄がしんみりして、非常によかったと思うんです。浮遊感を醸し出していたというのは、同感です。

キム・ミンジュン、石田法嗣もよかったし、『ヘヴンズ ストーリー』『信さん』と続いて、虚無的な役をまたしても引いた位置から演じた村上淳が、なんといっても凄かったですね。今、この人は日本で最も注目すべき俳優のひとりではないでしょうか。今、彼は映画鑑賞に夢中なのだそうで、ユーロスペースや、シネマヴェーラ、神保町シアターなどで映画を見まくっているそうですよ。なんか、親近感が持てますよね。
濱口竜介レトロスペクティヴ (中洲居士)
2012-06-20 20:40:52
「濱口竜介レトロスペクティヴ」が7月28日~8月10日にオーディトリウム渋谷にてレイト&オールナイトでおこなわれるそうです。『親密さ』のロングーバージョン、『THE DEPTHS』『PASSION』『何食わぬ顔』などが上映。
 とくに『THE DEPTHS』はあまり見る機会のない作品なので、ぜひこの機会を逃さないようにしていただきたいと思います。

 濱口監督が自身のツイッターの中で「フィルメックス2010のときに荻野洋一さんに書いていただいて評です。そうか、こういう風に見てもらえるのか、というのは純粋に歓びでしたね。」とつぶやいて下さいました。
濱口竜介レトロスペクティヴ in Kansai (中洲居士)
2013-07-03 18:53:10
「濱口竜介レトロスペクティヴ in Kansai」が6/29~7/19のあいだ、京阪神の5会場でおこなわれているそうです。
昨年夏に東京で上映された代表作のほか、『なみのおと』につづく東北三部作の新作『なみのこえ 気仙沼』『なみのこえ 新地町』が上映され、『親密さ』以来1年ぶりとなる劇映画の最新作『不気味なものの肌に触れる』も上映されるそうです。羨ましい。
関西方面の方はぜひ。

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