荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『トランセンデンス』そして/あるいは『her 世界でひとつの彼女』

2014-07-15 01:21:38 | 映画
 現在公開中の2本の新作アメリカ映画──それは共通して、人工知能コンピュータが異常な進化をへて人称性を得るにいたり、さらには生身の人間と恋愛する物語をもっている。ひとつは、ウォーリー・フィスターの『トランセンデンス』であり、もうひとつは、スパイク・ジョーンズの『her 世界でひとつの彼女』である。前者では、志半ばにしてテロの犠牲となった科学者ジョニー・デップの脳神経プログラムがコンピュータ内に移植され、死後は人工知能として愛妻のレベッカ・ホールと再会する。後者では、孤独な中年男ホアキン・フェニックスが人工知能をもつOS「サマンサ」をひょんなきっかけでインストールし、そのオーラル機能であるスカーレット・ヨハンソン(の声)と恋に落ちる。
 前者ではやがて全能の野望が底なしとなり、マッド・サイエンティスト的破滅へと収束する。スーパーコンピュータの暴走を映画史上初めて描いた『2001年宇宙の旅』(1968)が下敷きとなっているのは、ジョニー・デップの設計したスパコンのセットデザインが「HAL 9000」そっくりであることからも明らかだ。いっぽう後者でもっぱら姿なきDJとしてのみ登場するスカーレット・ヨハンソンは、ギャランティをどれほど値切られたのだろうかと邪推してしまうのが、われら観客の俗な関心だ。不毛だと了解していてもなお、機械との恋に埋没するホアキン・フェニックスは、『ブレードランナー』(1982)のハリソン・フォードの生まれ変わりだろう。ビル影に大モニターが出没して、ちっぽけな主人公に覆い被さることからもそれは明らかだ。ロケ地としてロサンジェルスと上海の二都市をたくみにミックスし、どちらともつかぬ匿名のコスモポリタン都市として現出させるあたりも、多分に『ブレードランナー』風味である。
 そして『トランセンデンス』がB級SF的不毛を再生産し、『her 世界でひとつの彼女』がもてない男の幻想を肥大化させる。どっちもどっちの両作であるが、あえて個人的趣味から言わせてもらうなら、前者への苛立ちを、後者が癒やしてくれたことを告白せねばならない。まさかスパイク・ジョーンズに慰められるとは、想像だにしなかった。


『トランセンデンス』 丸の内ピカデリーほかで上映
http://transcendence.jp
『her 世界でひとつの彼女』 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで上映
http://her.asmik-ace.co.jp
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2 コメント

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'her'のこと (taxxaka)
2014-07-21 12:51:17
先日観た『私の男』もそうだったのですが、絵筆や画材を正しく使わなくても絵画的感興を呼び起こす絵画があるように、最近は、映画にも「正しさ」以外の基準を見つけていくべきなのかなと、漠然とこの「her」にも思ってしまうところがありました。
 冗長にも思える語りの辿々しさや、なぜ上海なのかの不明瞭さが、しかしもしかしたらこの監督の「らしさ」と繋がって、音楽のように別種の効果を生んでしまうような気がしました。切なさの体感は確かにあったので。
Unknown (中洲居士)
2014-07-25 17:40:25
axxakaさん、遅レスすみません。
ホアキン・フェニックスは元カノのことを忘れることができずになかなか立ち直れませんね。映画内では立ち直りきらないで終わってしまったのかもしれません。手紙の代筆屋なんて、むかしの恋文横丁みたいだなと思いましたが、彼は「書く」という行為について、望んだ社会的立場を世間からあてがわれませんでした。ポジションを与えられて成功した彼女の存在にその断念を二重化させてしまっているのでしょうね。

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