荻野洋一 映画等覚書ブログ

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ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外──スペイン・アンフォルメル絵画の二つの「顔」

2013-12-14 08:31:56 | アート
 国立西洋美術館(東京・上野公園)でおこなわれている《ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外──スペイン・アンフォルメル絵画の二つの「顔」》は、同館の常設展示会場の一部を使っている。同館の本館で大々的におこなわれて大混雑を巻き起こしている《モネ、風景をみる眼──19世紀フランス風景画の革新》の影に隠れがちである。実際、同展は常設展の入場料金で見ることができる。
 マドリーの南側ターミナルであるアトーチャ駅(東京でいう品川駅みたいなもの)の前にあるソフィア王妃芸術センターは、パブロ・ピカソの代表作『ゲルニカ』が所蔵されていることで有名な現代美術専門の王立施設で、ゴヤやベラスケス、エル・グレコなど帝政時代の巨匠作品を所蔵するプラド美術館とは徒歩にして15分程度の距離だが、まったく好対照の性格を有する。たとえばソフィア王妃芸術センターでは、「カイエ・デュ・シネマ」も購入できるのである。
 今回、上野に来ているのはアントニオ・サウラ、アントニ・タピエス、ホセ・ゲレーロ、エステバン・ビセンテの20世紀スペイン美術を代表する4人。ご存じのように20世紀のスペインは、1930年代に左翼的な人民戦線内閣が、右翼の叛乱による内戦で敗北を喫し、およそ40年間におよぶ長期のファシスト政権による圧政が続いた。ドイツ、日本、イタリアのファシズム3ヶ国とスペインの違いは、第二次世界大戦に際して、スペインのフランコ総統が枢軸側につかず、中立を貫いたことで、かえってファシズム(スペイン語で言う「フランキスモ(フランコ主義)」)が長期に存続したという点である。そして、上記4名をふくむスペイン美術界のありようもこの長期ファシズムと無縁ではない。
 ホセ・ゲレーロ、エステバン・ビセンテの2人はアメリカ画壇で活躍した。亡命者の立場から表現をおこなった点では、ピカソやルイス・ブニュエルに連なるだろう。翻ってアントニオ・サウラはクエンカで、アントニ・タピエスはバルセロナで活動を全うしている。両者ともフランス・パリでシュルレアリスム、アンフォルメル絵画に触発されたにしろ、国内での創作の道を選んだ。いや、タピエスのばあい、彼の場所を「国内」と呼んだら語弊があるだろう。Catalunya is not Spain… 沖縄を日本の一地方と言うべきか、かつて尚氏のもとで日本とはまったく異なる王朝を持った別文明ととらえるべきか、それは各人によって意見を異にするだろう。
 ようするに、サウラの溢れるような絵の具の爆発も、タピエスの日常生活のマテリアルを活用した極度の抽象表現も、ファシズムの傘下で、ある時は抵抗のこだまとなり、逆にある時はフランコ政権にとって都合のいい対外的なプロパガンダとして利用されながら、生き長らえたのである。
 今回、上野で各作品を眺める私たちは、その作品群の画材と支持体から発される爆発的エネルギーに圧倒されるだけでなく、彼ら作家たちが置かれたデリケートな立場を想像しながら見ておきたいと思う。反動的な治安維持、言論統制がとめどなく進行する震災以後の日本にあって、彼らの生態は他人事ではないからである。


2014年1月5日まで国立西洋美術館(東京・上野公園)で開催、1月17日より長崎県美術館に巡回
http://www.nmwa.go.jp/


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