荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『収容病棟』 王兵(ワン・ビン)

2014-07-20 02:01:03 | 映画
 このドキュメンタリー映画の舞台となる精神病棟が形成する「ロ」の字型の空間を、よもや「映画的」などと称したら不埒に過ぎるだろうか。中国西南部・雲南省の精神病棟のなかにカメラが分け入っている。四方八方を重度の精神異常者たちが徘徊する、と思いきや意外とおだやかな日常がある。ベッド下の洗面器に小便をドバッと垂れるシーンが何度も出てくるのには閉口するが…。だのに、なぜか大便がらみの不衛生描写は皆無である。そして、性欲がらみの描写が皆無なのはどういうわけなのか。ナースが単身で病棟内に入っていって、男性患者の尻にブスっと注射を突き刺したりするが、彼女と患者たちとのあいだで、まったく好色的なもめ事が起きないのである。どういうものだろう。
 本作における四囲の空間は、ドン・シーゲル『第十一号監房の暴動』の監獄空間がかもすドス黒い不快さと、ロベルト・ロッセリーニ『ロベレ将軍』の四囲空間で示される囚人同士のリスペクトの、ちょうど中間くらいの状況を素描しているように思える。王兵の前々作『無言歌』(2011)における、文化大革命の思想犯たちが入れられる、砂漠の洞穴のような収容所の苛酷さにくらべれば、平和そのものである(患者の中には思想犯も含まれていることが示唆される)。王兵は本作を通して、収容患者たちの不衛生な待遇を告発しているのだろうか。どうも、そういうものでもないようだ。しかしまあ、この病棟に入院しても、誰も病気が治らないことは、火を見るよりも明らかであるが。
 ただカメラを向けているといった執着のなさがいい。隣の住人を見るように、あるいは行きつけの飲み屋の常連を見るように、観客は、ここに出てくる患者たち各々の顔を完全に覚えてしまうだろう。年取った男性患者と、下の階の女性患者の鉄格子ごしの静かな交流には、すっかり時間が止まらせられた(しかし、女性患者は階段で上階下階と移動自由なのだろうか? それとも彼女の症状が軽いからなのか?)。第一部と第二部を、同日内に一挙に見終えることをお薦めする。


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