ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

老女Yの葛藤

2019-06-24 00:12:42 | 日記
その日は朝から激しい雨だった。

自立のヤエコさんが、ゴミを持って廊下を歩いてきた。
右手は手すりを、左手は杖を、しっかり握っている。
それでも時々よろけるのは
足の痺れがひどいせいだろう。

ヤエコさんは現在93歳。
ウチに入居する前は不動産業を営み
今年も宅建取引主任の更新試験を受けるべく
日夜勉強に取り組んでいる。

心身ともに健康な高齢者。
その明るく前向きな姿は、私たち職員の憧れだった。

ところが今年に入って
以前から患っていた脊柱管狭窄症が悪化し
しきりに足の痺れを訴えはじめる。

症状は、坂を下るが如し。

そしてついに
手すりにつかまっても、杖を持っても
足元がふらつくようになってしまったのである。

そんなヤエコさんがふらふらしながら
雨の中をゴミを出しに行こうとしている。
手を差し伸べずにはいられない。

ヤエコさん、雨で滑るといけないから
ゴミは私が捨ててくるわ。

そう申し出た。

しかし彼女は「大丈夫よ」と、やんわり。

いいのよぉ、遠慮しないで。
私は食らいつく。
この雨の中、ふらついた足どりで外に出すわけには行かない。
断じて、行かせてはなるものか。

押し問答の末、彼女はキレた。
「いいからっ!!!」
そして彼女は、傘も指さずによろよろと雨の中を出て行ったのだった。

実はヤエコさん
以前から私のことをとてもかわいがってくださっている。
職場では伏せているが
プレゼントをいただいたことも1回、2回ではない。

だから私たちの関係は決して悪くなかったはずなのに…。

彼女のその日の態度は少なからずショックだったが
あとになって思った。

心身ともに元気なヤエコさんだったからこそ
今、自分が置かれた状況が受け入れられないのだ。
自分の老いを認めることができず
人に手を差し伸べられるほど衰えたわが身に
言いようのない焦燥感を覚えているのだ。

相手がいつも娘のようにかわいがっている私だからこそ
よけい、労わられるのが辛かったのだろう。

私はまだ人の手助けなしでも生きていける!
じれったいが
その心意気を尊重しなくてはいけないと
肝に銘じたのだった。