どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

長ぐつをはいたねこ(私家版)

2014年03月18日 | 私家版
 「長ぐつをはいたねこ」も訳がいろいろあって、なやましいところですが、東京子ども図書館編の「おはなしのろうそく5」に入っているものを、自分用にしてみたものです。

 おそれおおいのですが、例えば

・「ねこのかわでマフをひとつこさえたら」は、マフを手袋としました。これはほかの訳にあったもの

・「ばかなうさぎ」という表現がありますが、すこしひっかかるので「そそっかしいうさぎ」へ

・「うさぎをたくさん放し飼いにしてある」とありましたが、人間が飼っているというイメージがあるので「うさぎがいっぱいいる野原へ」としました。

 時間からすると、もう少し短くできればとも思いますが・・・・。


<長ぐつをはいたねこ>
 むかし、あるところに、ひとりの粉屋がいました。その粉屋が死んだとき、三人の息子に残した財産といえば、水車小屋とろばとねこだけでした。
 一番上の息子が水車小屋をとり、二番目の息子がろばをとったので、末の息子には、ねこしか残りませんでした。
 末息子は、こんなわずかな分け前しかもらえなくて、がっかりして、いいました。
「兄貴たちは、一緒に組んで仕事をすれば、水車小屋とろばとで、けっこう暮らしていけるだろうさ。ところがおいらときたら、このねこを食っちまって、それから、こいつの皮で手袋をひとつこさえたら、あとにはもうなんにも、のこりゃしない。それでおしまいだ。あとは、飢え死にでもするより仕方ないや」
 ねこは、この言葉をちゃんと聞いていたのですが、聞こえなかったふりをして、おちつきはらった、まじめなようすでこういいました。
「何も心配することはありませんよ。ご主人さま。このわたしに袋をひとつくれませんか。それから、やぶのなかを歩きまわれるように、長ぐつを一足作らせてください。そうすれば、あなたのもらった分け前だって、そんなに悪くなかったとわかるでしょうよ」
 末息子は、この話を、それほどあてにした訳ではありませんが、このねこがいつもねずみを上手にとるので、ひょっとしたら助けてくれるかもしれない。ひとつ、ねこのいうとおりにしても、悪くはあるまいと考えました。

 さて、ねこは、頼んでいたものが手にはいると、長ぐつを格好よくはき、袋を肩にかけ、袋のひもを前足で持って、うさぎがいっぱいいる野原へとでかけて行きました。そして、袋のなかに、うさぎの好きなぬかとレタスを入れ、自分は、まるで死んだように地面に寝ころびました。こうして、まだ世の中のこわさを知らない若いうさぎが、なかのものを食べに、袋に飛びこむのを待っていたのです。
 ねこが横になったかと思うと、もう、うまくいきました。そそっかしい一匹のうさぎが、袋の中へとびこんだのです。ねこは、すばやく袋のひもをしめてうさぎをつかまえ、あっさり殺してしまいました。
 ねこは、このえものにすっかり得意になって、王さまの御殿へ出かけていき、お目どおりを願いでました。そして、王さまのおへやに通されると、うやうやしくおじぎをして、こういいました。
「陛下、これは主人のカラバ侯爵から、陛下にさしあげるよういいつかって持ってまいりましたうさぎでございます。(ねこは自分の主人に勝手にこんな名前をつけたのです)「ご主人に、どうぞよろしくお伝えしてくれ。けっこうな贈りものをたいそう喜んでおるとな」と、王さまはいわれました。

 また、ある日、ねこは、こんどは麦畑に出かけ、れいの袋の口をあけて待っていると、やまどりが二羽とびこみました。そして、これも前のうさぎと同じように、王さまにさしあげました。王さまはまたまた喜んで、この贈りものをうけとり、ねこにはほうびをくださいました。
 こんなふうにして、ねこは、二、三カ月のあいだ、たびたび主人の狩場からだといって、王さまのところへ、えものをお届けしました。

 すると、ある日のこと、ねこは、王さまが世界で一番美しい美しいお姫さまとご一緒に、川へ遊びにお出かけになるということを聞きこみました。そこで、主人にこういいました。「わたしのいうとおりになされば、運がひらけますよ。あなたは、ただ川へいって、わたしのいう場所で、水浴びをしていればいいんです。あとのことは、わたしが引き受けますから」
 末息子は、なにがなんだか、ちっともわけが分かりませんでしたが、とにかくいわれたとおりにしました。
 さて、末息子が水浴びをしていると、そこへ王さまの馬車が通りかかりました。すると、ねこは、きゅうに、火のつくようなかなきり声をあげてさけびたてました。
「助けてください。助けてください。カラバ侯爵がおぼれそうです」
 王さまは、その声を聞いて、馬車の窓から顔を出しました。見ると、しきりにどなっているのは、これまでに、何度も狩りのえもを持ってきた、あのねこではありませんか。そこで、王さまは、お供の者たちに、すぐカラバ侯爵をお助けしろ、といいつけました。
 みんなが、あわれなカラバ侯爵を川からひっぱりあげている間に、ねこは、馬車のところにやってきました。そして、主人が水遊びをしていると、どろぼうがやってきて、主人の服をみんなかっさらっていきました。わたしは声を限りに「どろぼう!どろぼう!」と叫んだのですがだめでしたと申し上げました。実をいうと、この利口なねこが、大きな石の下にこっそり服をかくしておいたのです。
 王さまは、さっそく衣装係の役人にいいつけて、カラバ侯爵のために、ご自分の一番上等の服をひとそろい取ってこさせました。そして、やさしく侯爵をいたわりました。
 侯爵は、-もともと顔だちもよく、体つきの立派な若者でしたからー王さまからいただいた服を着ると、いかにも侯爵らしい上品なひとがらになりました。それを見たお姫さまは、すっかり侯爵がすきになりました。
 そこで、王さまは、侯爵に、ぜひとも一緒に馬車に乗って、散歩の相手をしてもらいたいといわれました。
 ねこは、自分の計画がうまく運びそうなのをみると、大喜びで、馬車の先に立って走っていきました。そして、お百姓たちが、牧場の草を刈っているところにくると、こういいました。
「これこれ、草刈りの衆、もしも王さまがお尋ねになったら、この牧場は、カラバ侯爵のものですと、お答えするんだ。さもないと、お前たちみんな、一人残らず切りきざんで、こまぎれにしてしまうぞ」
 さて、案の定、王さまは、お前たちが草刈りをしているこの牧場は、誰のものかとお尋ねになりました。
「カラバ侯爵のものでございます」と、みんなは口をそろえて答えました。ねこのおどしにふるえあがっていたからです。
「なかなか立派な土地をお持ちじゃな」と、王さまは、侯爵にいわれました。
「ごらんのとおり、陛下」と侯爵は答えました。「この牧場からは、まい年、すばらしい収穫がございます」と申しました。
 ねこが、また先に走っていきますと、今度は、麦刈りをしている人たちに出会ったので、こういいました。
「これこれ、麦刈りの衆、もしも王さまお尋ねになったら、この麦畑は、カラバ侯爵のものでございますと、お答えするんだ。さもないと、お前たちみんな、一人残らず切りきざんで、こまぎれにしてしまうぞ」
 王さまは、ひと足おくれてそこを通りかかると、この麦畑は、誰のものかとお尋ねになりました。
「カラバ侯爵のものでございます」と、刈り入れの人たちは答えました。そこで、王さまは、また、侯爵をおほめになりました。

 こうして、ねこが馬車の先回りをしては、会う人ごとに同じことを言って歩いたので、王さまはカラバ侯爵の領地の広さにびっくりされました。
 やがて、ねこは、あるりっぱなお城にやってきました。この城の主人は、人食い鬼で、また大変なお金持ちでした。今、王さまのお通りになった土地は、全部、この人食い鬼のものだったのです。ねこは、前もって、この人食い鬼のことを、ちゃんと調べておきました。
 そこで、せっかくお城の近くまで来ながら、素通りしたのでは失礼だからといって、ご主人に挨拶がしたいと申し出ました。
 人食い鬼は、鬼としては精いっぱいていねいにねこを迎え入れ、まずすわるようにといいました。
「うわさによりますと」と、ねこはいいました。「あなた様は、どのような動物にでも姿を変えることがおできになるそうですね。例えば、ライオンとかゾウとか、そんなものにでも・・・」
「いかにも、さよう」と、人食い鬼は、ぶっきらぼうにいいました。「ひとつ、ライオンになって見せてやろう」
 ねこは、目の前に、いきなりライオンが現れたのを見ると、びっくり仰天。あわてて屋根の上にとびあがりましたが、長ぐつのままで瓦の上を歩くのは、とてもむずかしくて、たいそうあぶない思いをしました。しばらくして、人食い鬼がもとの姿にかえったのを見ると、ねこはやっとおりてきて、さっきは、本当にこわかったと打ちあけました。
「また、こんな話も聞きましたが」と、ねこは続けました。「あなたさまは、はつかねずみのようなごくごく小さい動物になることもおできになるそうですね。しかし、そんなことは、いくらなんでもとても信じられませんが」
「なに、信じられん?。よし、見ておれ!」と、人食い鬼は叫んで、たちまち一匹のはつかねずみに姿を変え、床の上をちょろちょろ走り出しました。ねこは、それを見るが早いか、とびかかって、ぺろりと食べてしまいました。
 そのとき、ねこは、お城のそとのはね橋を渡る馬車の響きを聞きつけて、お迎えに走り出て、いいました。
「陛下、カラバ侯爵の城へ、ようこそおこしくださいました」
「何じゃと、カラバ侯爵。この城もあなたのものなのか」と、王さまはいいました。
「この中庭といい、まわりの建物といい、これほど見事なものは見たことがない。よかったら、城のなかもみせてもらいたいが・・・」
 そこで、カラバ侯爵は、お姫さまの手をとり、王さまのあとから、段々をのぼって、大広間にはいっていきました。見るとそこには、すばらしいごちそうが並んでいます。じつは、このごちそうは、きょう、たずねて来るはずの友だちのために、人食い鬼が用意したものでした。けれども、ねこは、それがわざわざ、王さまやお姫さまのために用意させてあったもののように見せかけました。人食い鬼のお客たちは、王さまがみえたのを知って、遠慮して、かえって行きました。

 さて、王さまは、カラバ侯爵の立派なようすや人柄にすっかりほれこみましたが、お姫さまときたら、もう夢中でした。それに侯爵が大した財産をもっていることもわかったので、何杯かお酒を召し上がったあとで、王さまは、こういいだされました。
「どうであろうな、カラバ侯爵、わしの婿になってはくださらぬか」
 侯爵は、うやうやしくおじぎをして、王さまこのありがたいお言葉をお受けすることにしました。そして、その日のうちに、お姫さまと結婚しました。
 
 さて、ねこは、大貴族になって、それからというもの、ねずみを追いかけまわすなんてことは、もう遊びにしかしませんでした。

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