どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

カッパのなべ太郎・・石川

2022年06月10日 | 昔話(北信越)

     石川のむかし話/石川県児童文化協会編/日本標準/1977年

 

 タイトルに「カッパ」とあるので、カッパが登場するというには容易に想像できますが、話の進行でカッパというのがわかるのがいいのか、はじめからカッパというのがわかったほうがいいのか悩ましいところ。

 

 むかし鍋谷という村に、へんな若者がすみついたんやと。このわかいもんは、なにをやらせてもすばしこく、ようでけるので、村の者は”なべ太郎”とかわいがるようになったんやと。

 「なべ太郎や、風呂の水をくんどいてくれや」というと、薪をわっていたなべ太郎は、「はあい」と元気よくこたえた。ところがいつまでたっても薪をわっている音が聞こえるので、不思議に思って、風呂板をまくってみると、風呂には水が入っていて、焚口からは赤い火が見えていた。

 なべ太郎に、米つきを頼めば、みるみるうちに白い米ができあがり、馬屋のこやし運びを頼めば、まばたきしているうちに、新しいワラにとりかえて、すずしい顔。

 正月のこと在所御講(おぼうさんをよんで説教を聞く村の集まり)のごちそうづくりを、な頼むと、二つ返事で引き受けたなべ太郎。ところが在所御講の日になっても、ごちそうをつくっている気配がない。それでも在所御講がおわって、ごちそうをまっていると、キノコのかすづけ、ヤマブキの塩漬け、ワラビのクルミあえ、ゼンマイのうまに、からし菜の味噌づけと、数えきれないほどのごちそう。村の人がよろこんで、並べた料理を食べ、家に帰った。

 次の日の朝、村じゅうがおおさわぎ。長い冬のために貯えていたキノコのかすづけや、からし菜のミソづけがなどが、すっかりからになってしもうとったんじゃ。なべ太郎のごちそうは、村の人のものだったと知ったが、自分らも食べたからと、おこるにおこられず、みんなで大笑い。

 また、かんかんでりの暑い日、村に人たちと炭売りにでかけたとき、なべ太郎は六俵もの俵をかついでも、汗もかかずどんどんあるいていった。町に着くと、町ではちょうどイワシのとれる時期で、浜いっぱいにほしたイワシの匂いがあふれていた。急にうごけなくなったまご太郎は、その場にへなへなと座り込んでしまう。村人は、先に町の中へどんどん歩いていったので、まご太郎は、ひとりに。

 ひとりになったまご太郎は、目の前にずらりとほしてあるイワシに手が伸びたかと思うと、またたくまに、みんなたいらげてしまう。これを見つけた若い漁師たちが、なべ太郎をさんざんなぐりつけると、みるみるうちに身の丈三メートルもあるカッパになって、「われこそは、鍋谷川のふちに住んどるカッパの主じゃぞい」といったかとおもうと、その場から消えてしもうた。

 そのごのなべ太郎は、だれも姿を見んようになったんじゃと。

 

 冬の保存食、おいしそうなキノコのかすづけ、ヤマブキの塩漬け、ワラビのクルミあえ、ゼンマイのうまに、からし菜の味噌がでてきて、暮らしの風景が想像できる地域ならではの昔話。