さじかげんだと思うわけッ!

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雲のようにのんびりと。

富士と八ヶ岳(4)

2007-09-22 21:27:35 | 民話ものがたり
勝負を決する日となった。
図らずも、背くらべの主催となってしまった鳳凰山は、富士と八ヶ岳の頭に竹でこしらえた樋を渡した。
富士は「これは何?」と短く問うて、八ヶ岳も不思議そうに樋の先を眺めている。
そこで、うほんと鳳凰山が説明を始めた。
「お二方の頭に乗せたのは、竹でこしらえた長い樋です」
「そんなのは、見れば分かります。この竹の樋を使って、どうやって背の高い低いを決めるのかを聞いているのです」
鳳凰山は、ちょっと富士を見て、やはり嫌なやつだなと思った。それでも平静を装って、話を続けた。
「勝負の方法は簡単。この樋に水を流すのです。そうすれば、水は高い方から低い方へと流れるのが理なので、どちらが高いかは一目瞭然というわけです」
勝負を見守る山々や川や森から、「なるほど、なるほど」とか「うまいことを考えたものだ」という感嘆の声があがった。
一部からは「鳳凰山がそんなうまいこと考えるはずはねぇ。きっと釜無川の入れ知恵に決まっとる」などと、的を射た感想も聞かれた。
鳳凰山はそんな意見は流しつつ、勝負を進める。
「では、双方ともにいんちきはありませんか」
と尋ねると、
「ありません」と八ヶ岳が言えば、
「いんちきなど、必要ありません」と富士が答える。
鳳凰山はまた富士の顔をちらりとにらんで、声を張り上げた。
「では、さっそく水を流したいと思います」
すると、もくもくと雲が湧き、間に位置する盆地に雨を降らせた。みなの耳目が竹の樋に注がれる。激しい雨の中でも、ちゃんと水は高い方から低い方へと流れていっているようだ。
雲の中には稲妻が走り、ばりばりと音を立て、今にも地上に落ちそうになっている。
そんな激しい雷雨の中、どちらに水が流れているかを確認するために、鳳凰山頂に巣を作っている大きなとびが飛んでいく。
単純明快な合図を決めておいてある。
どちらの方向に流れているのかを確認できたら、その合図を送ってくる手はずになっている。
もし、八ヶ岳から富士の方に流れていたら、右回りを。
逆に、富士から八ヶ岳の方に流れていたら、左回りを。
鳳凰山は、固唾を呑んでとびの行方を追っている。とびは、ふらふらとあおられながらも跳び続ける。
雨が激しさを増すにつれて、風も吹いてきた。やがて、ごうごうとうなりを上げるほどになり、雨のしずくが鳳凰山の方にまで飛んでくる。
そのときだった。
「ピーヒョロロロ~」と、雨と雷の轟音にも負けない甲高い鳴き声が聞こえてきた。
みなが、盆地の上空を飛ぶとびを見る。
すると、とびがくるりと輪を描いた。くるりくるりと、右に回って輪を描いた。
「おお」と、一堂が声を上げた。「右だ。右回りだ…」
「ということは…」と鳳凰山はしばし慎重に考え込んでから、「八ヶ岳から富士の方へと流れていると言うことだ」と結論を下した。

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