さじかげんだと思うわけッ!

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雲のようにのんびりと。

笛吹権三郎(1)

2007-10-13 20:30:23 | 民話ものがたり
正中の変といえば、 辺境の地である甲斐国にも伝わるほど大きな事件でした。
何しろ、時の幕府を転覆させようとした一派が、一斉に粛正されたというのですから、京の町は大騒ぎだったことでしょう。

その事件が、芹沢村(今の山梨市三富区芹沢)に伝わってきたかどうかぐらいの時期に、どこからともなくやってきた母子二人が、子酉川ほとりの小屋に住み始めました。
耳の早い村人の話によると、その母子は正中の変で首をはねられた尊い方のご遺族で、危険が多い京を脱出し、この地に落ち延びてきたといいます。
しかし、母子はとても尊い出自とは思えぬほど気さくで、よく働きました。
特に息子の権三郎は、毎日朝早くから夜遅くまで野良仕事をして、村人とも積極的に交わりを持ちました。
だけども、夜遅くに権三郎とその母の小屋の前を通りかかると、やはり突然の田舎暮らしがつらいようで、母親がすすり泣く声が聞こえてきました。
権三郎は、そんな母を優しく慰めておりました。そして、月が明るい晩には母親を川岸まで連れ出し、母と死んだ父親の魂のために高麗笛を吹きました。
笛の音は風に乗り、芹沢村の家々にも響き渡りました。村人たちはそのあまりにも高貴な笛の音に聞き惚れ、仕事の手もしばし休めて聞き入りました。
しばらくして、権三郎は「笛吹権三郎」と呼ばれるようになりました。祭りや祝い事の席でも出し惜しみすることなく笛を吹き、喜ばれました。
しかし、やはり月夜の晩の笛の音は格段で、泣いていた赤子もまた眠ってしまうほど、清かなものでした。

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