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“ 嵐が吹き消した 恵みのろうそくを 再び取り上げ、それに新しい明かりを灯さなければならぬ。” 教皇ヨハネ二十三世

file.no-117 『 十字軍物語 』 塩野七生ver.

2011-05-29 20:14:23 | 書籍
 
2010年から、十字軍アートブック (…と言ってよいのか) が先行して発売され、順次、全四冊の『十字軍物語』 が刊行されております。

『 十字軍物語 』 <全四冊>
    著:塩野七生   新潮社


以前、『ローマ人の物語』 について、お触りした事もありますが、塩野女史は、マイリスペクツ。
エスプリの効いた エッセイが最も好きなのですが、そのエッセイの内容を支える、『歴史の知』 と長年の経験で培われたセンス。
御年、73歳にもなるのに、いまだ衰えをみせません。

 ***

今月初め、合衆国の仇敵 ウサマ・ビンラディン氏が、パキスタン北部アボタバードの潜伏先にて SEALsに急襲、殺害されたことは、記憶に新しいことと思います。
テロというものが、激しい憎悪によって引き起こされるのは、なぜか。
キリスト教世界と イスラム教世界の衝突の、ひとつの形なのか。
衝突、それは 過去のことなのか、現在も続いているのか。

個々人の交流の範囲内では、いささか諍いがあったとしても、それは大したことではない。
けれど、それがなんらかの集団・組織・あるいは国家の範囲においては、おおきな悲喜劇を引き起こす。

かつて、ブッシュ・W 前合衆国大統領が、「聖戦」 というキラーワードを使ってしまい、物議を醸しました。 そこから、「十字軍」 というものへの関心が高まった。

 ***

塩野女史は、ローマ亡きあとの―― ローマが「溶解」 したあとの、中世の帳が下りた地中海世界を 十字軍をテーマにして描いています。

十字軍が、開始された その当初は、キリスト教圏からは「 宗教的 」動機からにであったのに対し、イスラム教圏からは「経済的」動機によるものだと受け取られていた。―― とする指摘は面白い。
私は、東洋史専攻でしたので、ヨーロッパ史は、まだ西洋史概説書を 手放せません。
その私をして、少しづつであっても、十字軍の歴史を読ませてくれる本書は、さすが女史の叙述だと思います。

何といっても、3月末に発売された シリーズ第2巻を、5月末の今ではあるけれど、投げることなく 読み終えたのです。
ローマ人の物語は、魅力あふれる ローマの男たちが多く、読んでいて飽きない。
中世の男たちは、もうしみったれていて、読んでいて面白くない。

キリスト教が、つまらなくさせたのか。
人間の魅力を、意識するにしろしないにしろ、教育を受けることで磨こうとしたのがローマ人だとするならば――。
―― 教育は聖職者が独占し、他人には 剣術を磨くことのみを むしろ推奨したのが、中世の男たちだったとも思います。

教育を受けることが、即、協調性・他者への思いやり・洞察力などを磨くものではない。
それでも、中世ヨーロッパの、「彼ら」の多くが、
『 神が、それを望んでおられる 』
を合言葉に、イェルサレムへと突撃し、イスラム教徒を殺すことに躊躇しなかったこと。
また、イスラム教徒側も、キリスト教圏の人間に危害を加えることに、さして躊躇わなかったこと。

「信じる神の違い」、ただそれだけで 誰かを殺傷することが容易くなる。
帰属する文化の違いだけで、誰かを憎悪しても問題ないとされる。

故意にではなくても、女性が、肌を見せて歩いただけでも問題になる。
アメリカ人という、ヒトを殺したことよりも、アボタバードの潜伏先にポルノビデオを持ち込んでいたことが、ウサマ・ビンラディンの「聖性」の問題になる。

オリエントとオチデントの衝突の経緯を、十字軍の経過を辿ることで、知ることが出来る。
現在も、その衝突は続いているのか、続くのであれば それはなぜか。
一神教が、問題なのか。 多神教のほうが、一神教よりは、まだマシなのか。

いろいろと、刺激されるシリーズです。

ただ、読んでいて「楽しいか」 と問われれば、やはり固い本なので―― 図書館ででも読むのが無難でしょう。
 

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