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“ 嵐が吹き消した 恵みのろうそくを 再び取り上げ、それに新しい明かりを灯さなければならぬ。” 教皇ヨハネ二十三世

file.no-72 『小泉発言録 光と影』

2007-04-25 16:29:50 | 書籍
  
私は、合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュが大好きです。合衆国の動向、イラクにおける行動については、批判的見解を持ってはいます。ですが、ブッシュ大統領はやはり面白い。大統領職よりも、コメディアンとして活動したほうが天職だったのではないのかと思うほど。彼の発言を扱った書籍については、以前にレビューを書いております。
日本には、彼のような珍発言をやらかす政治家はいないのでしょうか。
以前に、坂口力厚生労働大臣(当時)が、狂牛病や鳥インフルエンザの折に、
「牛やら鳥やら、モウ~ケッコウ!」
と記者会見時にギャグを飛ばし顰蹙を買ったことがありました。また、管直人氏が閣僚三人の年金未納発覚の折、「あれが未納三兄弟です!」(2004年)とNHKがヒットさせた珍曲「団子三兄弟」と引っ掛けた発言もありました。その後、自身も未納疑惑が発生し、党代表を辞任する騒ぎに。
政治家が、公の場で国民へのメッセージとして、ギャグを発信するのもいかがなものかと思いますが、政界の人間は洋の東西を問わず皆ギャグを飛ばさないとやってられない位にお疲れなのか。

日本で、歴代首相中、最もトラブルメイカーであり、オッドスピーカーでもあるのが、小泉前首相ではないでしょうか。党首自身が、自分の党を「ぶっ壊します」発言をしたのですから。自民党は、日本そのものでしたから、「日本をぶっ壊します」と同義だったのですが、あれに熱狂的に賛同した日本国民もある意味でOddな状態にありました。

そんな小泉氏の珠玉の珍発言をまとめたのが、今回のレヴュー対象の、
小泉発言録 光と影
  解説:島田文昭  漫画:藤波俊彦   あおば出版  2006年


収録数は124。こんなことまで言っていたのかと驚かされます。構造改革の名の下に、日本がより沈んだのか停滞したのか、それとも少しは浮上したのか、よく分からなかったあの頃、日本の船長を務めていた小泉氏の頭の中が覗けます。
例えば、2005年に所謂「第三のビール」増税を発表した際には、増税路線ではないかと問う記者に対して、
「でもビールは下がるんでしょ。全体の酒の間では変わらない」
と発言。そりゃあ、全体の率で見れば変わらないかもしれないが、ビール業界の売れ行きには大きく影響する。第三のビールの販売価格が増税分上がれば、ビールも変わらざるを得ないだろうし。税収オンリーにしか目を向けていないことを暴露したようなもの。

2001年に、靖国参拝したことに対して「精神的苦痛を受けた」として、原告704人が一人当たり1万円よこせと大阪地裁、松山地裁に提訴したことへの発言では、
「話にならんね。世の中、おかしい人たちがいるもんだ」
と。これでは、原告は頭がおかしいやつらだ、と言い放ったようなもの。私自身、こんな起訴自体はアフォッちゃうかと思います。一国の首相が、直截に「奇人どもめ」と言ったととれるような発言をしたのも、あの時期の小泉人気の所為でしょうか。

当時の国内では、熱狂的な支持を受けていた小泉前首相。珍発言をしても、景気が停滞していても、なぜかまだまだ支持されていました。では、国際的には?例えば、合衆国ではどのような評価を受けていたのか。日米同盟推進の親米首相として?日本改革に取り組む熱血首相として?
それは、2006年の訪米の際の合衆国マスコミによる報道にて明らかに。

「Loooovve mee tenderrrrr」
訪米した小泉氏が、テネシー州メンフィスにてエルヴィス・プレスリーの旧宅をブッシュ大統領と訪問した際に、遺族を前に『Love Me Tender』を口ずさんだ。それを『The New York Times』紙に取り上げられた。本人は、Love Me Tender…と口ずさんだつもりが、実は凄まじい訛りであったことを暴露され、上のように表記された。
さらに、同紙には、“Japan’s best-known Elvis impersonator”(日本で最も有名なエルヴィスものまね芸人)とも書かれた。いくら民主党寄りの新聞でも、共和党寄りの親米首相をそこまでこきおろしますか。
しかし、シンガーの旧宅を訪ね、同行する大統領の目の前で、エルヴィスのサングラスをかけ、ギターを弾くふりをし、大きくジェスチャーをしながら、
「らぁぁぶぅみぃ~・てんだぁああ~♪」
とやったのは、世界史上で小泉前首相ただ一人でしょう。
大統領自身、「彼がエルヴィスをあんなに愛していたなんて」、「珍しい経験だった」とコメント。
合衆国の報道では、軒並みこの一件を取り上げ、「メディアの期待に応える名パフォーマー」だと酷評した。日本国内では、「こんなに強い印象を残した日本の首相は最近ではいない」と。
英タイムズ紙には、この訪米を、“Tokyo's PM goes on Presley pilgrimage”(東京の首相、プレスリー巡礼の旅へ)と表題をつけ、記事の中では、ブッシュ大統領の言動に「ただひとりショックを受けないアジアのリーダー」と評しました。
そうか、小泉氏は、日本の首相じゃなくて、東京の首相なんですね!だから、アジア外交よりも合衆国との外交を重視して、あまつさえ公務の中でエルヴィス・ツアーという私事丸出しの行動をした、と・・・。

本当に、小泉氏は「日本」の首相であったのか。米英の報道に見られるように、サーカスからやってきた道化の首相モドキであったのか。
勿論、考えさせられる名言もあるし、ツッコミたくなるような迷言もある。いろいろ考えさせられる、調味料の効いた一冊でした。
  
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