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“ 嵐が吹き消した 恵みのろうそくを 再び取り上げ、それに新しい明かりを灯さなければならぬ。” 教皇ヨハネ二十三世

file.no-18 『 ミス・メルヴィルの後悔 』

2005-04-18 02:46:12 | 書籍
ある日、あなたが殺し屋になってしまったら?
銃で自殺するつもりだったのに、土壇場で他人を撃ち殺してしまったら?
そして、その現場を人に見られてしまい、それ以降、殺し屋として働くことになってしまったら?
これは、そんな羽目になってしまったオールド・ミスのお話なのです。

『 ミス・メルヴィルの後悔 』
イーヴリン・E・スミス:著 長野きよみ:訳 早川書房:発行 1989年

これは1989年に早川書房のミステリアス・プレス文庫から刊行された『ミス・メルヴィル』シリーズの第一作目となるお話です。
昨年末から、ハヤカワ文庫から再版が順次刊行されています。
( 画像は、ミステリアス・プレス文庫版のものを転載させていただきました )

舞台はアメリカ合衆国ニューヨーク。
主人公は、スーザン・メルヴィル。職業は画家、兼アカデミーの美術教師。名門メルヴィル家の一員だったが、とある事情から家門が没落。現在は貧乏・・・もとい、つつましい暮らしをしているオールド・ミス。
ある日、勤務先のアカデミーが廃校になり、収入が途絶えてしまう。
家賃も払えなくなり、ついに自殺を決意する。
・・・のだが、自分に使おうとしていた銃を、家賃を吊り上げようとしたアパートメントの悪徳オーナーに使ってしまう。
その現場をアレックスという青年に見られた。実は彼は、ある組織の殺し屋で、彼もまた悪徳オーナーを殺そうとしていた。彼は、ミス・メルヴィルの銃の腕前を認め、彼女を組織の殺し屋としてスカウトする。
ミス・メルヴィルは殺し屋として働くことになるのだが、殺しの標的は、必ず社会的に抹殺されるべき悪人であることという基準をゆずらない。
かくして、史上もっともエレガントで慎み深い、教養溢れる知性的な女性の殺し屋が誕生したのです。

ミス・メルヴィルは、俗に言う上流階級の出身です。
没落したとはいえ、上流の教育を受けた彼女は、洗練されたレディです。
言葉遣いが上品で、立ち居振る舞いも立派。知的であり、教養もある。下品なことが嫌いで、厚かましさなど微塵もない。
そんな彼女が、いわゆる「必殺仕事人」のようなことを行うわけですが、そのアンバランスさがとても印象深い。
読んでいて、まったく血生臭くない、それどころかとてもエスプリの効いた物語です。

シリーズは、以降、『 帰ってきたミス・メルヴィル 』(89年)『 ミス・メルヴィルの復讐 』(91年)『 ミス・メルヴィルの決闘 』(92年)と長編が続き、そして短編『 ミス・メルヴィルの幸運 』(91年)があります。

私はこれらを中学生の頃に読んで、今でも手元に置いています。
ここ十数年の間( 原作が書かれた1980年代末から90年代にかけてですが)のニューヨークの変化や、人々の物の考え方、生活嗜好が、ミス・メルヴィルという一人の古き良き時代の人間の目を通して描かれていて、読んでいて合衆国について知ることもできる、なかなかタメになる本でもあると思います。
2005年の今になって読んでも、話の内容が「古臭くなく」、良書であると思います。まぁ、だからこそ再版が刊行されたのでしょうね。
現代アメリカの文学作品の、とっつき易い本としても面白いと思います。
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