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“ 嵐が吹き消した 恵みのろうそくを 再び取り上げ、それに新しい明かりを灯さなければならぬ。” 教皇ヨハネ二十三世

file.no-52 『トリニティ・ブラッド 第五巻』

2006-04-12 23:11:13 | 書籍
“Lascia ch'io pianga la dura sorte
 e che sospiri la libertà.
 Il duol infranga queste ritorte
 de' miei martiri sol per pietà.
 de' miei martiri sol per pietà...”

"このむごい運命を涙して、
 解き放たれるように夢見る事を許してほしい。
 私の苦しみへの憐れみこそが、
 苦悩する事が、この鎖を毀してくれるように・・・。"

上の歌詞は、ヘンデルによるオペラ『リナルド』の第一幕で歌われるアリア『Lascia ch'io pianga』の最初のものです。一般には、「どうか泣かせてほしい」の名前で知られているようです。
このアリアは、色々な所で使われているようです。
例えば、合衆国NYの世界貿易センターへの「9.11」テロ。このテロのドキュメンタリー番組で、倒壊したセンターや殉死したNY市消防隊員の映像のバックにも流れていました。
他では、映画「海辺の家」の予告編にも使われていました。

このアリアを聴きながら、読んでみたい。
私にそう思わせるのが、『トリニティ・ブラッド 第五巻』です。

トリニティ・ブラッド 第五巻
九条キヨ/作画  吉田直/原作  角川書店/刊
( 画像は、コミック表紙のものです )

これは、小説『トリニティ・ブラッド』の第二巻『熱砂の天使』をコミック化したもの。原作小説とは細部の味付けが異なりますが、美味に仕上がっていると思います。小説版については、書籍カテゴリのfile.no-30 『トリニティ・ブラッド』に譲るとして・・・。

この第五巻の見せ場は、長生種の帝国からヴァチカンへの使者として派遣されたイオン・フォルトゥナが、友人であったラドゥ・バルフォンに裏切られるところでしょうか。
細々な所は省くとして、要点は、『親友の裏切り』。
親友と思っていたラドゥが、自分を裏切り、帝国を裏切り、テロリストに加担していたことを知ったイオンは、最初こそショックを受けた。
それでも、彼を止めるために、彼の座す空中戦艦に向かう。

イオンの脳裏に浮かぶのは、幼い頃に、ラドゥと一緒に海に行った思い出・・・。

“見よ、 ラドゥ・・・青い!
 どこから海で、 どこから空か、 わからぬほどに。
 大人になったら・・・“覚醒”をしたら・・・このまぶしい青を見られぬのだなぁ。

 ・・・イオン、 私の母上が言っていたよ。
 私たちは太陽に嫌われている分、 夜の月に愛されているから
 短生種の何倍も長く生きられて、 何倍も大切な人と一緒にいられるって。

 ラドゥ・・・、 わっ 汝の髪!! 太陽にあたるときれいな青になるのだな!!
 空と海の色だ。 うん! ずっと一緒だぞ 相棒(トヴァラシュ)!”

どこで間違えたのか、と。
なぜ、いまあの思い出が浮かぶのか、と。
イオンはかつての親友と戦いながら、涙を流しながら自問する。
「まだ引き返せる。本当は、自分を殺したくはないのだろう。まだ間にあう!」と懇願するイオンに対して、
「もう引き返せないのだ・・・」と答えるラドゥ。

やがて訪れる朝日の光。彼ら二人の体を灼く太陽の光。
「イオ・・・」
自身、死に掛けながらも、親友の体を灼く光から庇おうと手を差し伸べるラドゥ。
しかし、護衛が撃った銃弾が、彼の頭を貫く。
最後に頭に浮かんだ言葉は、彼を最後まで想ったイオンの、
「ずっと一緒だぞ 相棒(トヴァラシュ)!!」
という言葉。
眦に涙を浮かべながら、ラドゥは空中船から海へとおちていく・・・。

アリア『Lascia ch'io pianga』。“このむごい運命を涙して・・・”。
どうか泣かせてほしい・・・と歌う、このアリア。
親友を裏切ってしまったという、このむごい運命。全編に流れる悲哀。
コミックを読みながら、ああ、これこそ、むごい運命だな・・・と思ったものです。
作中では、イオンたちは「長生種」と呼ばれる、寿命三百年の種族。
三百年、永遠ともいえる時間・・・。長命であるがゆえに、永の時間を共に過ごす相手に飢える。
伴侶でもいい。親友でもいい。共に笑い、泣き、生きていけるなら。
そう思う彼らだからこそ、トヴァラシュと呼ばれる親友はかけがえのない大切な相手。
人間以上に人間らしい、友愛を身に備える彼らにつよく心動かされたのです。
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