Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

沼田まほかる「アミダサマ」

2012-04-04 00:05:30 | 読書感想文(小説)


産廃処理場に放置された冷蔵庫の中で眠っていた少女・ミハル。
彼女の“コエ”に呼ばれ、処理場にたどり着いた僧侶・浄鑑は、ミハルを引き取り、
母親とともにミハルを育てることにする。しかし数年後、ミハルのかわいがっていた
猫が亡くなったときから、浄鑑らの住む町は奇妙な出来事が起こるようになる。
一方、ミハルと引き離された悠人は、ミハルの“コエ”に呼ばれる日を待ち続けていた…



※ネタバレあります。要注意。









文庫本の裏表紙には「恐怖と感動が一度に押し寄せる、ホラーサスペンスの傑作」と書いてありますが、
個人的には、正直あまり“感動”はなかったです。荒んでるのかな、私…。

“感動”はなくても、「九月が永遠に続けば」のときと同様、ホラーでエログロな描写は満載で
暴力描写もかなり多くて、しかも男が無抵抗の女をボコボコに殴る場面が何度も出てきて、それがもう
これでもかというほど生々しくて、「もうやめてー」と叫びたくなるほど怖かったです。

その一方で、浄鑑が“この世のでないもの”と対峙する場面といった、ホラー要素は逆に
映像がイメージできにくいせいかあまり怖くなく…。山中でのクライマックスでも、何がどうなってるのやら
さっぱりわからず、いつのまにかラストシーンになってたので
「あれ?私読み飛ばした?」
と、不安になってしまいました。

それでも、作品全体に漂うどんよりとした禍々しい空気は、読み進めるうちにこちらの体に貼りついてくる
ようで、ずぶずぶとまほかるワールドに引きずり込まれていく感じがしてぞくぞくしました。

言葉少なく、儚げでどこか“人ではないもの”の雰囲気を持つミハルは、山岸涼子のホラー作品に出てくる
少女(家のあちこちにウロコを落とす女の子とか)のようで、セリフも出番も少ないけど印象に残りました。
そんなミハルに魅入られ、あやかしに憑りつかれた浄鑑の母・千賀子は、ページが進むにつれ人間離れ
していき、しかもそれが悪霊が憑いてる憑いてない関係なくこういう人はいそうな感じで恐かったです。

そして、この物語に出てくるもう1人の女性、律子。悠人の恋人というか愛人というか微妙な立場の女性ですが、
殴られても蹴られても悠人を許し、「大丈夫」とささやいて包み込んでくれる女性。現実にこんな女性がいれば
「目を覚ませ!」と、肩をつかんで揺さぶるのですが、この作品においては、悠人にとって律子は救いの女神であり
(その割には扱いがひどすぎる)、律子にとって悠人はずっとそばにいたい人、守るべき大切な人なわけです。
この作品においては。

…でも、そんな大切な存在のはずの律子なのに、結果的には大して役に立った印象がないのがある意味現実的。
だからこれ読んで錯覚したらいけないんだな、うん。

物語のカギを握る人物として、悠人の祖父・多摩雄が出てきますが、「わしは大事な秘密を握っているぞ」的な
匂いをぷんぷんさせておきながら、いまいちつかみどころがないまま退場してしまいました。でも、作者が描く
「落ちぶれた老人の描写」がこれでもかというくらい細かくて、目を閉じると安アパートのゴミ溜めのような部屋に、
垢じみた服を着て座っている多摩雄の姿が浮かんできました。うわ~。

というわけで、ストーリーそのものは特に印象に残りませんでしたが、トゥーマッチな演出と役者の怪演で
楽しめることができました。それがいいのか悪いのかはよくわからないけど。

沼田まほかるさんの本は他にも結構文庫化されてるので、また読んでみたいと思います。
できればもうちょっと明るいトーンの作品が読みたいな~。あればの話だけど。


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