Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

東野圭吾「レイクサイド」

2006-05-13 00:56:39 | 読書感想文(国内ミステリー)

湖畔の別荘で私立中学受験のための合宿を行う4組の親子。並木俊介は妻美菜子の連れ子章太のために、他の親たちから少し遅れて合宿に合流した。しかしそこに俊介の愛人である英里子が現れる。美菜子に愛人がいると睨んでいた俊介は、英里子に美菜子の愛人が誰なのか調べるよう頼んでいたのだ。しかし、俊介がその報告を
受ける前に英里子は別荘で死体になっていた―
「あたしが殺したのよ」愕然とする俊介に美菜子が言った。4組の夫婦は子供達の受験への影響を恐れて、英里子の死体を処分して犯行を隠蔽しようとするのだが…。


※ここから先はネタバレあります。要注意!!



「レイクサイド」の探偵役は、被害者の愛人だった俊介です。探偵役に「正義の人」を選ばないところが物語に人間くささを与えています。もとを正せばこうなってしまったのは、家庭を顧みないで浮気を繰り返していた俊介に非があるわけですから。読んでいる最中、俊介に向かって「そもそもお前が…」と言い出したくなったことが何度かありました。夫婦って、そんな
単純なものじゃないってことはわかってるんですけどね。英里子が生きてると見せかけるために、美菜子が英里子の振りをする場面で

「(美菜子と英里子が)並木さんが選んだ女性なんだから、印象が似て当然でしょうね」
と、ある登場人物が呟くのが、気色悪いながらも心に残りました。浮気相手に奥さんに似た人を選ぶのって、よくあるんでしょうか。それなら奥さんだけでいいじゃん!

殺人事件を隠蔽する話、と聞くと思わず夏樹静子の「Wの悲劇」を思い出しますが(←古い)、「Wの悲劇」では外部の物取りの犯行と見せかけたのに対し、この小説では英里子の死そのものを隠蔽するために、死体を湖畔に沈めます。身元をごまかすために、俊介は英里子の顔を砕いて歯型をわからなくするのですが、ここは読んでて気味が悪かったです。しかもその後その湖畔でバーベキューするし。そんな時に肉なんか食べられないって。あと、本編とあまり関係ないけど、朝食にスパゲティを食べるのは一般的でないのでは。普通はパンでしょう。もしくはごはんとお味噌汁。

子供を有名私立に合格させるために親たちが必死になっているのに、当の子供たちが妙に覚めてるのが印象的でした。受験のために親が無理をしすぎて空虚になっていることを、子供たちも感じている、ということなのかなぁ。

ラストは賛否両論を呼びそうな終わり方をしてましたが、分厚い長編ではなくてあっという間に読める長さの中編小説なので、私はこのオチもありかなー、と受け入れることができました。この先、彼ら4組の家族がどうなっていくのかを考えると薄ら寒い気もしますけど。

美菜子の浮気の真相はこの悲劇の核となる部分なので、ここでは詳しく書けませんが、個人的には「こんなのってアリ??」でした。だって向こうだって来た人誰でもいいってわけじゃないだろうし。でも美菜子が追い詰められていた自分の心境を語る場面は、読んでて切なくなりました。ほんとに俊介って、事件の真相をあばく権利ないよなー、なんて思ったりして。


ところで、この「レイクサイド」が映画化したときに「あたしがやったの」と最初に告白する美菜子の役は、映画「Wの悲劇」で
「私、お祖父様を刺し殺してしまった!」
と叫んだ薬師丸ひろ子でした。やっぱりキャスティングするとき、あの映画を意識したのかなー?

…でも
「顔をぶたないで、私、女優なんだから」
とかって、今の若い人は全然知らないんだろうな。ああ、角川映画…。


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