Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

湊かなえ「リバース」

2017-04-14 00:36:37 | 読書感想文(国内ミステリー)



明日から藤原竜也主演でドラマが始まる、湊かなえの「リバース」を読みました。

この前、陰惨なミステリーを読んだばかりなのに、時間の都合上とはいえイヤミスを読んでしまったのは一生の不覚…。

※ここから先は微妙なネタバレがあります。ご注意ください。








平凡なサラリーマン、深瀬和久の唯一の楽しみは、近所にある「クローバー・コーヒー」に通うことだった。
深瀬はこの店で恋人の越智美穂子と出会い、2人の交際は順調に進んでいた、はずだった。
ある日、美穂子のもとに「深瀬和久は人殺しだ」と書かれた手紙が届き、美穂子は深瀬を問い質した。
動揺する深瀬は、大学4年の夏に起きた出来事を語りだした-


えー、感想を書く前にドラマの公式サイトを覗いたら、上に書いたあらすじとドラマの設定がだいぶ違ったので、「ほんとにこの小説がドラマになるんだろうか」と不安になってきました。あと、主人公以外は誰が誰を演じるのか知らずに読んだので、私の脳内キャストと実際のドラマのキャストもかなり違っていて戸惑っています。まさか小池徹平が広沢の役とは…イメージ違い過ぎるやーん!

広沢というのは、大学4年の夏に不慮の事故で亡くなった、深瀬にとってたった1人の親友です。藤原竜也と小池徹平、映画版夜神月と舞台版Lが親友役で共演です。藤原竜也と戸田恵梨香が恋人同士の役、というだけで制作側のチラッチラッが透けて見えてもやもやしていたのですが、ここまでくるといっそ清々しいです。でもまあ、最近のドラマは視聴率だけでなく「SNSで話題になってるかどうか」も重視されているようなので、間違っちゃいないんでしょうね。しかし、キャストよりも一番私のみぞおちにぐっときたのは、主人公の深瀬が事務用品の販売会社の営業マンだということ。事務用品、つまり文房具。文房具と言えばノート。つまり、

藤原竜也がノートを売りにやってくる

という、インパクトのある絵面が期待できることです。しかも、深瀬にとってノートはただ売るだけのものでなく、広沢という人物を深く知るために、広沢のことを書き綴っていくために欠かせないものとして出てきます。広沢について知っていることをすべてを、「広沢は…」で始まる文章で、ノートをひたすら埋めていく藤原竜也もとい深瀬…うん、ただ単に小説の内容を書いているだけなのに、ネタバレしている気になるのはなぜだろう。

主人公の深瀬は、親友と呼べる人が広沢しかいなかったくらい、人付き合いが苦手で、地味で、目立たなくて、冴えない人物です。それなりに良い大学を出てるのに、就職活動で失敗して、小さな事務用品の販売会社で営業をしています。唯一の特技は、コーヒーを淹れること。職場でも、大学のゼミでも、「美味しいコーヒーを淹れる」ことで、自分の居場所を確保していました。当然ながら、モテません。こんな絵に描いたような非リア充を、「口から出る御言葉にすべて濁点がついている」以外に欠点がなさそうな藤原竜也が演じても違和感あるんじゃないかと心配していたのですが、小説を最終章まで読むと、それは取り越し苦労だということがわかりました。

小説の最後の章のひとつ前の章で、過去を遡る深瀬の旅は終わったかのように見えました。なので最後の「終章」はエピローグのようなものかと思っていたのですが…少し前に「山女日記」なんて読んじゃったせいで、油断していました。忘れていました。湊かなえがイヤミスの女王だってことを。コーヒーカップの底に、溶けきらずにのこっていた蜂蜜を、無理にのどに流し込んだような-終章を読み終えた時に感じたこの不快感を、どこに持って行ったらいいのやら。

しかも、嫌な余韻はあるものの、振り返ると小説のそこかしこに結末へのヒントは隠されていて、この結末は意外でもなんでもないのだ、と読者に納得させるつくりになっています。もう一度最初から読み返せば、この嫌な感じは消えるのかも…ってそれは絶対ないな。うん。何度読んでも広沢は死ぬし、広沢を死に至らしめた原因を作るのは同じ人なんだ。

そういうわけで、この衝撃の結末を演じられるのは、これまで数々の映画で悲惨な目に遭って来た(役の上で)藤原竜也以外に考えられません。そして、おそらくはドラマで語られるであろう、文庫版の解説で触れられていた、終章の先の物語を演じられるのも。これまでTBSで作られた湊かなえ原作のドラマは、どれも原作より救いのある終わり方にアレンジされているので、そこは少し期待しています。

「リバース」は湊かなえ作品には珍しく、男性が主人公でその周りの登場人物も恋人を覗いてほとんどが男性、というのが新鮮でした。世の男性がこの小説を読んでどう思うのかはわかりませんが、湊かなえの小説の持つイヤな後味が、「女性が主人公だから」「女同士の話だから」ではないのだと証明できた気がしてちょっとすっきりしました。ドラマではどうなるのか、まだわからないけど。

ミステリー小説なので、謎解きも小説の重要な要素ではありますが、人間の弱さが多面的に描かれていて、読みながら深瀬や広沢に共感したり凹んだり忙しかったです。主人公の深瀬だけでなく、深瀬が親友だと思っていた広沢についても。小柄な小池徹平は広沢のイメージと違うけど、ドラマの広沢がどんな人物になっているのか、興味はあります。

それにしても、読み始めた頃は「蜂蜜入りコーヒー、やってみようかな」なんて思っていたのに…。原作を知らずにドラマで見て、やってみる人は続出すると思うんだけど、最後まで見たら後悔するんじゃないかしら。

とりあえず、ドラマは見ます。コーヒーを飲みながら…ブラックで…。



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