0時とふ時間の宮に湯を沸かしあしたを産める妊婦がひとり 薬王華蔵
*
誰なんだろうね、ほんとに。明日を産んでいるのは誰なんだろう? 産むと言うからには妊婦さんがいるはず。どこに? 時間のお宮さんに。0時という時間は、1秒を過ぎても行けない。過ぎたら明日になっているから。限りなく短い時間に妊婦さんが一人いる。お腹を大きくした妊婦さんが。それを絵図に描いたらおもしろいだろうなあと思った。湯を沸かしているのは、では誰か。家族の者だよね。檀那さんなのかな。
僕の母親は助産婦だったので、荷物持ちの小僧としてついて回った。なぜか、どこの家でも赤ちゃんが生まれると竈に火を焚いていた。分かった。赤ちゃんに産湯を使わせるからだったんだ。産湯って、ぬる湯だよねえ。限りなく。じゃ、お湯はちょっとでよかったんだろう。
明日を孕んでそれを瞬時に産んでくれる妊婦さんって、偉いよねえ。豪傑だよねえ。美人なのかなあ。どれくらいの大きさなんだろう。どんな顔をしているんだろう。