日暮しトンボは日々MUSOUする

言葉だけの理解と身体に染み込む警告

街を歩いていると、いい音楽がたくさん流れてくる。
デパートや地下街、喫茶店でコーヒーを飲んでいる時も有線が聞こえてくる。 
ただカッコだけの意味のない歌もあるが、中にはキチンと真意を伝えようとする良い歌詞の歌もある。
考えてみれば歌に限らず、本や映画、テレビドラマ等でも
そこに織り込まれた製作者のメッセージを感じ取り、それを我が身の教訓とする事もある。
映画やテレビドラマを見ていて、忙しい日常の中で忘れがちだった大事な事に
ハッと気付かされ、今日から心を入れ替えて 自分もこの主人公のように生きよう… 
そう思ったりもする。
やがてそれも加速する日常に押し流され、ただ流行歌の順位が入れ替わるように忘れ去られる。
あの時の感動も、心に誓った事も当時流行った映画や歌と共に、
目の届かない記憶のスミに置き忘れたままになるのだ。
どうしても伝えたい言葉があり、ひとりでも多くの人に分かって貰いたい事があるから伝える。
伝える手段は様々だが、伝えなければならない理由が、その人なりに 確実に存在する。
それは人生の中で遭遇する様々な出来事、例えば犯した過ちや
深い悲しみ、あるいは感動や喜びなどの経験から
やっと導き出した答えだから、それを大事に伝えていきたいと願う。

しかしそれらのメッセージを受け取る側は、
自分で経験し得たものではないので、言葉だけの理解は所詮言葉だけのものになり、 
他人から伝わる言葉どおりの回答をそのまま頭に入れただけとなる。
答えだけわかっても、どうしてそうなったかが解らないと真に飲み込めた事にはならない。
実はもっとも肝心なのは、その答えに到達するにまでの心の動きの過程にある。
その言葉の裏に隠されたその人の人生まで、自分の心に引っ張り込むのは
超能力者でも無い限り不可能なのだ。

漫画や映画で、交通ルールを無視してスピードを競い合う街道レースものはけっこうある。
初期の「ワイルドスピード」シリーズや「頭文字D」のアニメなど、
そういったドラマの主人公たちは、ミスって事故ったりはしない。 
主人公だからクラッシュなんてみっともない姿は決して見せないのだ。
クールに勝ち進んでいく姿が実にカッコイイのだ。  
そんな主人公に憧れたり、なりきったりして車を大金かけてチューンナップし、
無茶な運転を繰り返し、挙句の果てに大事故を起こす。
その世界が創作であり、現実に背を向けた都合の良い世界で描かれているということを
認識出来ずにいるから、夜中の暴走行為が後を立たない。

あるドキュメンタリー番組で、改造車でスピードを競い合う走り屋たちが、
夜の首都高で命の危険もかえりみず、我が物顔で騒音を撒き散らしている。
誰もが自分のドライブテクニックを過信している。
死ぬ事などこれッぽっちも考えてないのだ。 
スリルと興奮に酔いしれて、有頂天のお祭り騒ぎ。
やがてスポットは、撮影中に事故ったばかりのドライバーに向けられた。
無残にフロントが潰れた車の横で、かろうじて命が助かったドライバーが
ガタガタと震えながら答える。

「怖かった、死ぬかと思った もう2度とやらない… 家族のためにも」

そう、この男には奥さんと幼い子供がいるのだ。
大事な家族がいるにも拘らず、無謀な暴走行為をやめられなかった。
そんな光景を目の当たりにしても、周囲の暴走行為は続く。
その連中には、紙切れのようにグシャグシャになった残骸を、
楽しいゲームに水をさす 哀れな脱落者としか見えてないのだ。

いくら言葉や文字だけの警告を発しても、犯罪や違反者はあとをたたない。
いたるところに警告があり、目にする機会は頻繁にあるのに、心に刻まれないのは何故だろう。
普段 そういったものにそっぽを向いているくせに、いざ己に災いが降りかかると
「なんで自分だけがこんな目に…」と天を仰ぐ。
人は身をもって経験するとその教訓が身体にしみこむ。
痛い思いをして身体に染み込ませないとおぼえないのだ。 人間なんて
いくら偉そうにしても、その愚かさは調教される犬やサルとなんら変わらないのである。
転んで膝をすりむき、痛い思いをしない限り、足元に注意して歩くことはない。
痛い思いが警告となって、二度と同じ過ちを繰り返さないためのストッパーになる。
だから痛い思いや苦しみは 人間にとって決して不必要というものでは無いと思う。
今の世の中、避けて通ろうと思えばいくらでも避けられるし、
見たくないものはいくらでも目をそらす事が出来る。
しかし それでは せっかく与えられた成長するチャンスを自ら拒むようなものだ。
成長した人間には心の中にストッパーが沢山あるのだろう。

きれいに避けて通ってばかりいると、何も感じない生物になってしまいそうだ。





エラそうなこと言ってゴメンね。
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