引っ越し

　引っ越しの際には、いらないものをどんどん捨てる。なるべく身軽にする。
自分は引っ越しが多かったから、本当にたくさんのものを捨ててきた。

　それはそれでよかったのだが、あとでさみしく思うこともある。思い出の品、が、ほとんど身近にない。
あればあったでガラクタだから邪魔くさいのだが、全くないと、自分という人間の、ささやかな歴史さえどこかに行ってしまったかのようだ。

　引っ越しをしなければこういうことにはならなかっただろう。だが、引っ越しを決意した時点で、変革を意図したのだから仕方がない。

　それでも、もうすこし、小さなものは大事にすればよかったかな、と思う。若いころは「それでも思い出は残るのだから十分だ」
と思っていたのだが、年と共に記憶が薄らいでいく、ということを若いころは計算していなかった。

　まあ、仕方がない。まだ墓に入るまではややしばらくあるので、これからは、そのような反省のもとに生きていきたい。