田舎に住んでる映画ヲタク

「映画大好き」の女性です。一人で見ることも多いけれど、たくさんの映画ファンと意見交換できればいいなぁと思っています。

嘆きのピエタ(피에타)

2013年06月30日 22時30分42秒 | 日記

 

 韓国の鬼才キム・ギドクが、第69回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したサスペンスドラマ。債務者に重傷を負わせ、その保険金で借金を返済させる非情な取立て屋のイ・ガンドは、親の顔も知らずに30年間、天涯孤独に生きてきた。そんなある日、ガンドを捨てた母だと名乗る謎の女、チャン・ミソンが突然現れる。当初は邪険に扱い、残酷な仕打ちもしたガンドだったが、ひたすら謝罪を繰り返し、無償の愛情を注ぐミソンを次第に母親として受け入れていく。やがてガンドが取立て屋から足を洗おうとした矢先、ミソンは姿を消してしまう。(映画.comより)

 

 

 キム・ギドク・・・自分でもこの監督のこと、好きなのか嫌いなのか、よくわかりません。ただ、気になることは確かです。「絶対の愛」なんか、印象が強烈過ぎてしばらく立ち直れないくらいでした。「うつせみ」だったかな、主人公が一言もしゃべらない映画ね、あれもしばらく頭から離れませんでした。「弓」は好きではありません。

ともかく、今回も心して鑑賞しました。おめめギラギラ(笑)。

しかし、今回の映画はわりとわかりやすいと思いました。ストーリー的には、充分そのシチュエイションは想像できるものでしたし、ラストシーンや母親の心情にしても、理解のできるものでした。

それだけにつらかったですね・・・。生まれてすぐ母親に捨てられて育つというのが、どういうものなのか。彼が幼少の頃はどうやって食べていたのか、その辺は全然描写されないのでわかりませんが、施設でも近所の世話焼きおじさんでもいいから、誰かが面倒みてくれていたから大きくなったのではないのかな、と思ってみたり。

それでも、母親に捨てられたという心の傷は癒えることはないですよね・・・。ましてや生まれてすぐなら、イメージすら湧かないかもしれませんし。

どちらにしても、主人公ガンドがどれだけ薄情で残酷な男であっても(借金の取り立ては仕事でもあるわけですし)、やはり同情の念を禁じ得ません。

絶対に払えない借金を抱えて、その取り立てにビクついている人々も、いかにもさびれた下町(?)の零細工場の人たちで、こんな世界も、やはりどこの国にも存在するんだろうなぁ、と思わせます。

それでも、取り立てられる人々には、家族がいます。母親がいたり、妻がいたり、子供がいたり。もちろん、そのつらい人生を一緒に歩まなければならないのですが、本当に一人なのは、ガンドだけなのです。

こんな細かい描写もうまいですね。

そして突然現れる「母親」と名乗る女性。これがまた若々しくて美しい。母親というより従姉か恋人のようです。ミステリアスで、母親である証拠も示してくれない。でも、ずっとつきまとい、「許して」「あなたを捨ててごめん」と謝り続け、なんとなれば、ガンドを罵った男の足をしかと踏みつけ「息子になんて口を」と一緒に腹を立ててくれる。

最初は怒りまくっていたガンドも、だんだん気を許すようになってきます。自分を受け入れてくれる存在、無条件で愛してくれる存在を知ったガンドは、そのうち足を洗うことを真剣に考えるようになってゆきます。

しかしそうなると、人ってそこが弱みになるのですね。今度は母を失うのが怖い、母になにかあったら生きてゆけない、と思うようになります。もちろん、それは自然な感情です。でも、「スタートレック2」の予告で見た、「人間の一番の弱みは愛だ」というカンパーバッチのせりふを思い出しました。

かわいそうなガンド。そのまま母と、ハッピーエンドになるのが理想だったんだけど・・・。

 

 

<ここからネタばれ>

 

母は本当の母ではありません。ガンドに追い詰められて自殺した青年の母親だったのです。ガンドに復讐するため、母になりすまし、彼が家族を失うのを恐れるようになってから、(息子の後を追って)死んでショックを受けさせてやろう・・・こんな魂胆だったのです。

しかし、自殺する前に母は言います。「ごめんね、息子よ。こんな気持ちが出てくるなんて、自分でも信じられないけれど、ガンドは本当に不幸な子なの。彼がかわいそうなの」ってね。

この気持ち、本当によくわかる。本当にわかる。つらい、つらかった・・・。

でも、このまま母を演じるわけにはいかない。母は予定通り息子のところへ。

すべてを知ってしまったガンドが取った行動も、そうだろうなと思いました。もうこのまま生きてはゆけない。こんな気持ちを知ってしまった上、嘘だったと・・・抱いた愛しささえすべて嘘だったと知ってしまった以上、どうやって生きてゆけばいいのか。

ガンドはこれで、幸せだったのでしょう。多分。

こんな、リアルだけれどつらすぎる話、よく作りましたね。ギドク監督は、やっぱり天才なんでしょうね。

 

 

 

 

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