花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「蔦文様」について

2011-06-08 | 文様について

presented by hanamura


梅雨に入り、日増しに暑くなってきました。
雨の恵みを受けて育った若葉は、
青々とした葉を空に向かって広げています。

家々の庭先や塀などを眺めてみると、
蔦がお日さまに向かって上へ上へと
その蔓を伸ばしています。
自然のもつ生命力の強さが感じられる光景です。

今日は、その蔦の文様についてお話ししましょう。

蔦は、世界各地に自生する植物で、
西欧では「アイビー」の名前で古来より親しまれてきました。
古代エジプトでは悪酔いを防ぐといわれ、
薬草にもされていました。

古代ギリシャの遺跡からは、
蔦と唐草を組み合わせた蔦唐草文様の陶器などが
多く出土しています。

西欧では、家の壁に這わせた蔦が、
邪気を払うと考えられ、
茂った蔦が裕福の象徴ともされました。

日本でも蔦は古くから一般的で、
すでに平安時代には絵巻物などに描かれています。
ただし当時の日本で蔦と言えば、
青々とした様子よりももしろ赤く紅葉した様子が好まれていました。
そのため、蔦を題材にして当時詠まれた和歌には、
秋の風情を感じさせるものが多いようです。

以前から文様としても多く用いられてきた蔦は、
桃山時代になると、着物の意匠にもあしらわれるようになりました。
当時、勢いがあった武家の間で、
生命力のある蔦は、縁起の良いものとされました。

江戸時代になると、
徳川吉宗が蔦の文様を好んで用いたことから、
町民の間にも蔦文様が広まりました。
一方、芸妓や遊女たちの間でも
蔓が絡まり伸びることから、
客が離れないとして人気を得ていました。

また、当時活躍した絵師の俵屋宗達は、
「伊勢物語」にも書かれた
宇津の山にある蔦の細道を題材に、
下の写真の屏風絵「蔦の細道」を手がけました。



悠々とした山並みに生い茂った蔦を
緑青色であらわした屏風絵に添えられた和歌は
それ自体も蔦の一部のようにも見え、
無限に蔓を伸ばす蔦の生命力が感じられる名作です。



上の写真は、
蔦文様が紗に織り込まれた夏季用の名古屋帯です。
金糸であらわされた典雅な趣きの蔦文様が光の加減によってきらめき、
蔦の持つ生命力がその輝きとともに強く感じられる帯です。

生命力がみなぎる夏に向かい、
蔦のように伸びやかに、そしていきいきと
日々を過ごしていきたいものですね。

※写真は花邑 銀座店にてご紹介している名古屋帯です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は6月15日(水)予定です。

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