花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

花邑日記

2008-10-21 | 花邑日記

presented by hanamura


「粋」な着物として、むかしから人々に愛用されてきた「江戸小紋」。
前回にひきつづき、今回も「江戸小紋」の「粋」をつくりだす
職人さんのお話しをします。

江戸小紋の「粋」は、職人の卓越した技がつくりだしています。
しかしその「技」を習得するには、長年の経験と努力が必要です。
このことを改めて感じたのは、
「型付け」の作業を実際に体験させていただいた時でした。

「型付け」とは長板に白生地を張り、
その上に型紙を乗せて、ヘラで防染糊を置いていく作業のことをいいます。
このときに、彫りぬかれた部分が白く抜かれて染められます。

「型付け」のときに、均等に糊が置かれないと、
染め上げたときの文様にムラができてしまいます。
江戸小紋のシンプルで精緻な文様は、
ほんの少しのムラさえも目立たせてしまいます。
そのため、少しのミスなく染めなければなりません。
失敗の許されない、大変な作業です。



この「型付け」では、へらと、防染糊、型紙を用います。

「防染糊」はもち米、ぬか、塩そしてすこしの炭をいれてつくられます。
これらの原料を混ぜ、だんごにして蒸し、
良く練ったものが用いられます。

型紙は伊勢の白子でつくられたものを用います。
「型付け」の体験のときに用意された型紙は、
「梅に松葉」の可愛く、女性らしい文様でした。
文様の美しさと、細かさにおもわずため息をついてしまいます。

さて、作業場に移動して、
いよいよ「型付け」の体験がはじまりました。

本来ならば長板に白生地を貼るのですが、
今回は白い紙を貼って、その白い紙に染めていきます。

この長板の長さは7メートルほど(一反の半分)、
巾は40cmぐらいの、つなぎ目のない1枚板を用いています。
この長板の原料はモミの木が1番だそうです。
しかし、長板になるモミの木も数が少なくなっているようです。
現在では、モミの木でつくられた長板は
人からもらいうけたものが多いのだそうです。



はじめに、おはなしをしてくれている職人の息子さんが
「型付け」の作業をみせてくれました。
息子さんも10年以上も江戸小紋を染めているベテランです。

型紙の隅に盛られた糊を少しへらにとり、
流れるような滑らかな手つきで、
糊を端から端に流すように置いていきます。
端まで置くとまたへらに糊を少しとり、
端から端へ置いていく作業を繰りかえします。

糊はまるで測られたように、毎回同じ分量がヘラにとられ、
隅から隅へ均等に伸ばされていきます。
その作業に見入っていると、
あっという間に型紙の上には糊が一面にひかれていました。
その表面は、凹凸が全くなく平らです。



1枚目の「型付け」が終わると、「型紙送り」をします。
この「型紙送り」とは、
型紙の「ほし」と「ほし」を合わせて文様を繋ぐ作業のことです。
型紙の長さはふつう20cm~30cmほどです。
そのため、文様を全体に染めるには、
文様と文様を繋ぎながら染めなければいけません。

江戸小紋の型紙はその端に、とてもちいさな「ほし」が彫られています。
糊を置いた文様の「ほし」と、
次に糊を置く型紙の「ほし」を合わせることで、
文様と文様が繋がっていくのです。

職人の息子さんはあっという間に「ほし」と「ほし」を合わせて、
先ほどと同じ作業をスムーズに繰り返し、糊を一面に置きました。
そして、型紙を取って紙についた防染糊をみせてくれました。
まるで印刷されたように、きれいについている
梅と松葉の文様におもわず感嘆の声があがりました。

「染めの工程のときには、型紙が乾かないように、
手早くやらなくてはいけないんです。
ほしを見つけるのにてまどったりすると、型紙が乾いて、
染めにむらが生まれますから。」
と職人さん。

さて、いよいよ「型付け」の体験です。

職人さんはあんなにスムーズに伸ばしていた糊。
液体のように軽いものなのかと思っていました。

しかし、じっさいにヘラの上に乗せてのばしてみると、
意外と「重い」ということに気がつきました。
そして、ある程度力をいれないと伸びていかないのです。
しかし、力みすぎてもいけません。
それでも力が入ってしまうと、糊が途中で切れてしまいました。



また、へらの角度によっても糊が伸びる分量が違います。
しかしへらの角度に気を使うのも大変です。

それでもなんとか、終えてみると、
糊と糊の境目に太い糊の線がくっきりと残っています。
「…。」

次は「紙送り」の作業です。
糊を置いた「ほし」がなかなか見つけられず、
「ほし」と「ほし」を合わせることができません。
「???」という状態が何分も続きました。
型紙に彫られた細かな梅と松の文様と「ほし」の区別がつかないのです。
その様子を見ていた職人さんに助けていただき、
なんとか合わせることができました。

さんざんな結果です。
そして、大変な仕事だと言うことが良く分かりました。

「簡単にできてしまったら、わたしたちは必要ないですからね。」
と職人さんは、笑顔で言ってくれました。

そしてその笑顔に、江戸小紋をずっと染めてきた職人の誇りのようなものを感じました。
その職人の誇りが江戸小紋の「粋」をつくりだしているのかもしれません。

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次回の更新は10月28日(火)予定です。


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