映画なんて大嫌い!

 ~映画に憑依された狂人による、只々、空虚な拙文です…。 ストーリーなんて糞っ喰らえ!

晩春 ~映画の読解 (14)

2011年01月19日 |  晩春
     ■『晩春』 (1949年/松竹) 小津安二郎 監督


 『晩春』の作風が一種独特な理由を探っていたのですが、その答えは案外と簡単に見付けられたように思います。小津さんが学生時代に夢中になって読んでいたという芥川龍之介や、生涯に亘って尊敬し続けた志賀直哉の小説に、そのヒントはありました。小津さんが『晩春』で取組んでいた事は、後述する『麦秋』での試みともおそらく共通するものです。《泥中の蓮》にも喩えていましたが、如何にして行間を描けるか…。その一点です。目に見えない物を描くのとは少し違い、描きたい物を敢えて伏せる試みです。ややもすれば見逃してしまうような箇所に、作中の核心を忍ばせています。これは芥川龍之介や志賀直哉の作風とも共通するものです。もしかすると“小津安二郎”という名は、映画史よりも寧ろ文学史(白樺派・民藝運動)の系譜に名を連ねる方が、より適切なのかも知れません。そう思える程に、芥川龍之介や志賀直哉の影響を強く受けています。単に物語をなぞっただけの文芸映画とは似ても似つかない、文学的な構造を映像上の表現として転化させる事に成功した極めて稀有な作家と言えるでしょう。恒常化した映画文法を小津さんが否定していたのも頷けます…。


 ※以下、その補足です。

●『映画新潮』(河童書房)1951年11月号、「映画への愛情に生きて」
― 『麦秋』は『晩春』に一番よく似ている訳ですが、自分としては、あの中で何を出しみたいかと言えば、これは果たして出来るか出来ないかは分からないけれども、兎に角、劇的な物を減らして、表現されている物の中から余情という物が何となく溜まって来て、そういう物が、つまり一つの物の哀れになり、それがこの映画を見た後で、大変後口の良い物になる―というような物が出来れば良いと思って、遣り始めてみたのです。もっとも、それは出来上がってみて、写真にそれが出ていなくては何にもならない事だし、完成した上でないと何とも言えない話なのだけれども、狙いはそういった物なのです。つまり写真に充分芝居を盛り上げて行くのではなくて、七分目か八分目を見せて置いて、その見えない所が物の哀れにならないだろうか、というのが狙いで、これが面白く行けば、僕は将来そういったものを撮ってみたいし、又もし今度上手く行かないならば、勉強し直して、どうやったら今後それが上手く行くかを考えてみるつもりなのです。繰り返して言うようだが、つまり、小説なんかで言えば、行と行の間のニュアンスというか、日本画で言えば、余白の良さというか、兎に角、感情を剥き出しにして噛み合って行くというのでなしに、どこかで、何となく、そういう物を味わえる物―という事なのです。だから、題材は、自分自身としては割合に冒険しているつもりなのです。 (「僕はトウフ屋だからトウフしか作らない」小津安二郎著/日本図書センターより)

                         (※写真:1) 

●脚本家の斎藤良輔さんが語る『風の中の牝鶏』
― 小津さんは大変、この……志賀さんとか里見さんを尊敬して、心酔していましたからね。ですから、小津さんの頭の中にはいつも『暗夜行路』とか『安城家の兄弟』だとかいうものが入っていたと思うんですよ。そいでその……夫婦のね、問題を戦後の世相をバックにして、やってみたいというような事になって、それであの『風の中の牝鶏』の本が出来たんですけれどもね…。 (「陽のあたる家 小津安二郎とともに」井上和男編著/フィルムアート社より)

●『東京物語』のロケハンで尾道を訪れた当時を振り返って、撮影監督の厚田雄春さんが語った小津さんとの想い出
― 志賀直哉先生の『暗夜行路』の書かれた家の辺りを見て回りましたが、何かもう感じが違っているなって言っておられたのを覚えています。 (「小津安二郎物語」厚田雄春、蓮實重彦共著/筑摩書房より)

●『志賀直哉全集』(岩波書店)の宣伝用パンフレットへ寄せた推薦文 (※小津の日記…《1955年3月20日、岩波から出る志賀直哉全集の推薦文をかく》)
―  「爽かな後味」   小津安二郎
 志賀先生にお目にかゝると、いつも、それからしばらく、何とも云へない爽かな後味がのこつて、僕の心のどこかを、涼しい風が吹き抜けます。今度、先生の全集が岩波から出ることになり、それには、先生の手紙や日記も含まれる由、出版が待たれてなりません。これは、どなたにも、是非、読んでいたゝだき度いと思ひます。きつと、清涼な後味が爽かな風になつて、どなたの心の中にも吹きぬけると思ひます。 (「小津安二郎文壇交遊録」貴田庄著/中公新書、「小津安二郎周游」田中眞澄著/文藝春秋より)

 ……完。


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