音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ベートーヴェン「月光」の自筆譜は、メッセージに満ちている、推敲の跡からどう弾くべきかも分かる■

2019-09-05 16:28:26 | ■私のアナリーゼ講座■

■ベートーヴェン「月光」の自筆譜は、メッセージに満ちている、推敲の跡からどう弾くべきかも分かる■

~アカデミア・アナリーゼ講座:Beethoven《月光》ソナタ第1楽章及び、Chopin前奏曲《雨だれ》~

            2019.9.5     中村洋子

 

  

 

★本棚の整理を始めますと、思わず昔の本を読み耽ってしまい、

お片付けは一向にはかどりません。

 

★その一冊、

「圓生古典落語1」(1979年第1刷、1992年版第1刷)~集英社文庫。

この三遊亭圓生は六代目(1900-1979)で、大名人でした。

その中の演目の一つ「掛取り万歳」の枕が大笑いです。

(枕とは、落語の冒頭に話される小話、お客さんの興味をその演目へと

  引き付けます)

そこを書き写してみます。

 

★四季を詠みました歌に、

 春 椿 夏は榎で 秋 楸(ひさぎ) 冬は梓で 暮れは柊(ひいらぎ)

 この歌をもじりまして、式亭三馬という人が、

 春 浮気 夏は元気で 秋ふさぎ 冬は陰気で 暮はまごつき    

という、まことにうまいことをいいましたが・・・。

  

★浮世風呂の作者である式亭三馬(1776-1882)の時代には、

いまほど夏は酷暑でなかったでしょうから、「夏は元気」で、

秋はしみじみと季節の哀感に浸ったのでしょうね。

  

★酷暑の8月も過ぎ、残暑はありますが、秋の陽射しが長く延びる

ようになりました。

10月19日の、アカデミア講座で取り上げます

Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)の「月光」、

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)の「雨だれ」の勉強中です。

  

★この二曲につきましては、私の著書

≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり≫p25~29の、

【ベートーヴェンの自筆譜は、指摘されているように乱雑なのでしょうか?】

~「音楽的でイマジネーションをかきたてる自筆譜」、

 「あえて符頭から始めないスラー」、

 「曲の構造が一目で分かる親切なレイアウト」、   

 「雨だれの調性設計は、『月光ソナタ』と同じ」~ を、

 是非お読み下さい

 

 

 

Beethovenの「月光ソナタ」第1楽章の自筆譜は、

 https://www.academia-music.com/products/detail/23343

冒頭1小節目から13小節目までを除いて、14小節目から最後の69小節目まで

現存しています。

・1ページ目  14~26小節  横書き大譜表4段

・2ページ目  27~37小節  横書き大譜表4段

・3ページ目  1ページ分何も書かれていない空白の五線紙

・4ページ目  27~37小節(2ページ目の推敲原稿)

・5ページ目  38~46小節  横書き大譜表4段

・6ページ目  47~60小節  横書き大譜表4段

・7ページ目  61~69小節  横書き大譜表4段  

 3ページ目は、何も書かれていないので計6ページ分です。 

2ページ目と4ページ目は、同じ27~37小節ですの、実質5ページと言えます。

  

各ページには、驚くほど多くの、Beethoven本人からのメッセージが、

発信されています。

今回は、その中から6ページに記譜されている60小節目を、何故

Beethoven は、一度書いた小節を波線で削除し、新たに書き直したか、

それがどういう意味を持つのか、を考えてみます。

  

★6ページ目も、その他のページと同様に大譜表4段で、記譜されています。

1段目   47~49小節

2段目   50~53小節

3段目   54~57小節を記譜した後に、

       58小節目を五線紙右端の余白に追加しています。

 4段目   59小節、波線で消した2小節分、さらに60小節目

  

★57小節目は、3段目右端に記譜されました。  

  

 

その右側にはもう五線紙は印刷されていませんので、Beethoven は

自分で五線を書き、58小節目を記譜しました

 

  

Beethoven の当初の構想は、現行57小節から59小節につながるもの

でした。

 

  

★Beethovenは、59小節目に続く小節を、このように波線で削除しました

この2小節分は、現行の「62、63小節」及び「64、65小節」と、

大変よく似ています。

  

  

★その後、Beethoven は新しい60小節目を最下段4段目の右端に

書き込み、この6ページ目は、ここで終わります。

  

  

★こうして見ていきますと、Beethoven は当初、現行の57小節目から

59小節に進行し、その後すぐに62小節目又は64小節目に進行しようと

発想していたのではないでしょうか。

  

   

★このブログをお読みの皆さまも是非、

57→59→62→63→64→65→66→67→68→69小節の順に、

あるいは、57→59→64→65→66→67→68→69小節の順に

弾いてみて下さい。

「58小節目」の追加が、この曲の深みをさらに増しているのが、

よく分かります。

それに伴い、60、61小節のコーダの開始が鮮明になります。

 

 

★さて、62、63小節と、64、65小節は、酷似していますが、

Beethoven は実は、64、65小節を62、63小節の単なる反復ではなく、

異なる演奏をするように、要求しています。

62、63小節目の自筆譜はこのようになっています。

 

 

  

64、65小節目も自筆譜は、こうなっています。

 

 

 crescendo、 diminuendoの位置をじっくり自筆譜で、確認下さい。

どのように演奏したらいいのか、豊かなアイデアが湧いてくることでしょう。

 

 

★しかし、「月光ソナタ」の初版譜となりますと、

もう、「cres.」 「dim.」の位置が自筆譜とは異なってきています。

それでも62、63小節と、64、65小節の差異を認識はしているようです。

  

  

★ところが、現代の定評ある実用譜では、もうこのように、

  

  

無表情な楽譜になってしまっています。

  

★Beethovenが作曲した時の、息遣いは見事に消滅しています。

 嘆かわしいですね。

Beethovenの自筆譜を読み込めば読み込むほど、

豊饒な世界が、眼前に広がります。

講座で詳しくお話いたします。 https://www.academia-music.com/user_data/analyzation_lecture

 

 

 

 

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