■ 佐川さんの器 ■ ~漆と漆器のお話~
2007/1/18(木)
★私が「本物の日本人」と敬愛しております塗師(ぬし)・「山本英明」さんの
弟子・「佐川泰正」さんの展示即売会が1月26日と27日の両日、東京で開かれます。
正確に申しますと、佐川さんは、お「弟子」さんではなく、「押しかけ弟子」です。
このお二人の本物度は、次のような一端からも分かります。
★現在、漆器用に生の漆を自分で精製する方は、ほとんど皆無だそうです。
精製は、次のような重労働です。
漆の木から掻き取ったばかりの生漆は、どろりと濁り、ちょうど黄砂の色です。
真夏の炎天下、お庭に巨大な鉢をどっかりと据え付けます。
大鉢を斜めに傾け、そこにバケツ2杯分の生漆を注ぎます。
山本さんと息子の隆博さん(彼も名人です)、佐川さんの3人で、直射日光を当てながら、
5時間という長い間、ひたすら漆を捏ね回し、かき混ぜ続けます。
漆に25%~30%含まれていた水分が、2~3%にまで激減します。
メープルシロップのような色をした透明な液体になります。
陽光に晒す、という過程が必要なのでしょう。
それを極上の薄い和紙で漉し、不純物を取り除く作業を繰り返します。
そういう過程を経て、やっと、本物の「漆」ができます。
愚直なまでに手抜きをしない山本さんと佐川さん。
一方では、電熱器で温めて水分を飛ばしただけの「漆」が、たくさん売られており、
塗師は通常、それを購入して使うそうです。
★「国産であるか、中国産であるかは関係ない。その漆がもつ本来の質が問題だ」
これは、山本さんが、いつもおっしゃることです。
つまり、「いい物はいい。産地は関係ない」ということです。
一樽が数百万円ともいわれる「生漆」は、一樽一樽すべて個性があり、異なるそうです。
そうした個性豊かな「漆」たちを、10何種も手元に常に備え、
個々の木地に最も適した「漆」を選び出すのも、塗師の技のうち。
★ちなみに、漆に色がついているのは、さまざまな染料を加えるからです。
「黒漆」は、水酸化第一鉄を微量加えることで、化学反応して真っ黒に、つまり「漆黒」に。
「朱漆」は、朱の顔料を少し加えます。
何も加えない漆は、塗った後、空気に触れますと、淡い茶色に変化します。
★佐川さんは、最近、ヒノキの木地を使ったお椀を造り始めました。
手に取ると、木地がとても薄く、重さを感じないほどの軽さ。
少々小ぶりのお椀で、手の内にすっぽり、これでいただく軽いお茶漬けの味は、格別です。
★ヒノキのお椀が何故、いままで造られなかったか、奇異に思われるかもしれません。
さまざまな理由が重なっていたようです。
良質のヒノキは高価なうえ、轆轤を回して木地を造る際、他のケヤキ、トチなどと比べ、大変に厄介。
ヒノキには、硬い部分と柔らかい部分が混在しており、轆轤の刃を、飛び切り鋭利にする必要があります。
いつも鋭利でないと、ヒノキの柔らかい部分が、ぼろぼろに削れるそうです。
よく乾燥させる必要もあります。
一方、トチの木は、素材に硬柔がないため、乾燥させないものを簡単に削ることが可能です。
木地師にとって、最も嫌な、手ごわい相手がヒノキでした。
★漆を木地に塗る工程は数え切れないほど何段階もありますが、そこでも苦労が多いようです。
まっさらなヒノキの木地に、初めて漆を塗ると「すべて吸われてしまう」。
そう愚痴りたくなるほど、大量の漆が木地に吸収されるそうです。
その後、外縁部や底に「布着せ」をしたり、地の粉を塗ったり、研いだり、たくさんの作業があります。
大量の漆が吸われるということは、強度が増すことでもあり、逆にコストアップにもなります。
★「塗師が、漆を思う存分、自由に使えるようになったのは、ここ数十年のこと」
これは、かつて、山本さんから伺った話です。
戦前は、生産された漆のほとんどすべてが、軍に徴発されました。
弾丸、砲弾の錆止めとして、漆は最高の性能をもっています。
「戦前の漆器には、まともな漆がほとんど使われていない」(山本さん)
戦後もかなりの間、「叙位叙勲」の箱などを塗装するため、大量の良質漆が使われました。
この間、塗師は、そこそこの質の漆や、混ぜ物漆を使うことで妥協せざるを得なかったようです。
戦争が、伝統工芸の世界でも、戦後の長い間、暗い影を落としていたのです。
★佐川さんのお人柄は、とても暖かく誠実な方で、お話をしていますと、心洗われます。
音楽についても、なまじのプロといわれる音楽家より、クラシック音楽を深く理解されています。
毎日、工房でいい音楽を聞きながら、お仕事をされています。
私の好きなCDを差し上げますと、ご丁寧なお礼のお手紙が参ります。
ご自身の近況に加え、差し上げたCDの演奏について、評価の的確なこと。
そして、本物の音楽を聴く喜びを、ご自身の言葉で見事に綴られます。
佐川さんの器には、そうした性格のすべてが、巧まずして反映しています。
山本さんの天才的な鋭い世界とは別な、味わい深い優しい世界です。
★展示会では、佐川さんから漆にまつわるお話をうかがいながら、佐川さんの器で、
新宿「龍雲庵」後藤紘一良さんが入念に用意された、軽い懐石料理をいただきます。
お料理は、器に負けない、真剣勝負の優れた美しい一品の数々です。
料亭に詳しい、山本さんの子息の隆博さんからうかがった話ですが、
最高級の京都の料亭でも、山本さんたちの器を使うことはありません。
一軒だけ、最後の水物をお出しするときに、隆博さんの作品が使われているそうです。
佐川さんや山本さんの入魂の器を、決して高価でないお値段で購入でき、
自分の家庭で毎日、存分に使うことのできるこの幸せ。
★佐川さんの工房は、山本さんと同じく、福井県鯖江市から内陸部の河和田という山里にあります。
●展示会は、1月26日と27日の両日、開始時間が午前11時と午後2時の2回。
東京駅近くのホテル「八重洲龍名館」3階「牡丹の間」=東京都中央区八重洲1‐3‐22=
●「漆宝堂」が主催、予約が必要で、参加費は2000円。
フリーダイヤル 0120-4810-55 電話 048-622-2725
漆宝堂http://www.shippodo.jp/index.html
▼▲▽△▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
2007/1/18(木)
★私が「本物の日本人」と敬愛しております塗師(ぬし)・「山本英明」さんの
弟子・「佐川泰正」さんの展示即売会が1月26日と27日の両日、東京で開かれます。
正確に申しますと、佐川さんは、お「弟子」さんではなく、「押しかけ弟子」です。
このお二人の本物度は、次のような一端からも分かります。
★現在、漆器用に生の漆を自分で精製する方は、ほとんど皆無だそうです。
精製は、次のような重労働です。
漆の木から掻き取ったばかりの生漆は、どろりと濁り、ちょうど黄砂の色です。
真夏の炎天下、お庭に巨大な鉢をどっかりと据え付けます。
大鉢を斜めに傾け、そこにバケツ2杯分の生漆を注ぎます。
山本さんと息子の隆博さん(彼も名人です)、佐川さんの3人で、直射日光を当てながら、
5時間という長い間、ひたすら漆を捏ね回し、かき混ぜ続けます。
漆に25%~30%含まれていた水分が、2~3%にまで激減します。
メープルシロップのような色をした透明な液体になります。
陽光に晒す、という過程が必要なのでしょう。
それを極上の薄い和紙で漉し、不純物を取り除く作業を繰り返します。
そういう過程を経て、やっと、本物の「漆」ができます。
愚直なまでに手抜きをしない山本さんと佐川さん。
一方では、電熱器で温めて水分を飛ばしただけの「漆」が、たくさん売られており、
塗師は通常、それを購入して使うそうです。
★「国産であるか、中国産であるかは関係ない。その漆がもつ本来の質が問題だ」
これは、山本さんが、いつもおっしゃることです。
つまり、「いい物はいい。産地は関係ない」ということです。
一樽が数百万円ともいわれる「生漆」は、一樽一樽すべて個性があり、異なるそうです。
そうした個性豊かな「漆」たちを、10何種も手元に常に備え、
個々の木地に最も適した「漆」を選び出すのも、塗師の技のうち。
★ちなみに、漆に色がついているのは、さまざまな染料を加えるからです。
「黒漆」は、水酸化第一鉄を微量加えることで、化学反応して真っ黒に、つまり「漆黒」に。
「朱漆」は、朱の顔料を少し加えます。
何も加えない漆は、塗った後、空気に触れますと、淡い茶色に変化します。
★佐川さんは、最近、ヒノキの木地を使ったお椀を造り始めました。
手に取ると、木地がとても薄く、重さを感じないほどの軽さ。
少々小ぶりのお椀で、手の内にすっぽり、これでいただく軽いお茶漬けの味は、格別です。
★ヒノキのお椀が何故、いままで造られなかったか、奇異に思われるかもしれません。
さまざまな理由が重なっていたようです。
良質のヒノキは高価なうえ、轆轤を回して木地を造る際、他のケヤキ、トチなどと比べ、大変に厄介。
ヒノキには、硬い部分と柔らかい部分が混在しており、轆轤の刃を、飛び切り鋭利にする必要があります。
いつも鋭利でないと、ヒノキの柔らかい部分が、ぼろぼろに削れるそうです。
よく乾燥させる必要もあります。
一方、トチの木は、素材に硬柔がないため、乾燥させないものを簡単に削ることが可能です。
木地師にとって、最も嫌な、手ごわい相手がヒノキでした。
★漆を木地に塗る工程は数え切れないほど何段階もありますが、そこでも苦労が多いようです。
まっさらなヒノキの木地に、初めて漆を塗ると「すべて吸われてしまう」。
そう愚痴りたくなるほど、大量の漆が木地に吸収されるそうです。
その後、外縁部や底に「布着せ」をしたり、地の粉を塗ったり、研いだり、たくさんの作業があります。
大量の漆が吸われるということは、強度が増すことでもあり、逆にコストアップにもなります。
★「塗師が、漆を思う存分、自由に使えるようになったのは、ここ数十年のこと」
これは、かつて、山本さんから伺った話です。
戦前は、生産された漆のほとんどすべてが、軍に徴発されました。
弾丸、砲弾の錆止めとして、漆は最高の性能をもっています。
「戦前の漆器には、まともな漆がほとんど使われていない」(山本さん)
戦後もかなりの間、「叙位叙勲」の箱などを塗装するため、大量の良質漆が使われました。
この間、塗師は、そこそこの質の漆や、混ぜ物漆を使うことで妥協せざるを得なかったようです。
戦争が、伝統工芸の世界でも、戦後の長い間、暗い影を落としていたのです。
★佐川さんのお人柄は、とても暖かく誠実な方で、お話をしていますと、心洗われます。
音楽についても、なまじのプロといわれる音楽家より、クラシック音楽を深く理解されています。
毎日、工房でいい音楽を聞きながら、お仕事をされています。
私の好きなCDを差し上げますと、ご丁寧なお礼のお手紙が参ります。
ご自身の近況に加え、差し上げたCDの演奏について、評価の的確なこと。
そして、本物の音楽を聴く喜びを、ご自身の言葉で見事に綴られます。
佐川さんの器には、そうした性格のすべてが、巧まずして反映しています。
山本さんの天才的な鋭い世界とは別な、味わい深い優しい世界です。
★展示会では、佐川さんから漆にまつわるお話をうかがいながら、佐川さんの器で、
新宿「龍雲庵」後藤紘一良さんが入念に用意された、軽い懐石料理をいただきます。
お料理は、器に負けない、真剣勝負の優れた美しい一品の数々です。
料亭に詳しい、山本さんの子息の隆博さんからうかがった話ですが、
最高級の京都の料亭でも、山本さんたちの器を使うことはありません。
一軒だけ、最後の水物をお出しするときに、隆博さんの作品が使われているそうです。
佐川さんや山本さんの入魂の器を、決して高価でないお値段で購入でき、
自分の家庭で毎日、存分に使うことのできるこの幸せ。
★佐川さんの工房は、山本さんと同じく、福井県鯖江市から内陸部の河和田という山里にあります。
●展示会は、1月26日と27日の両日、開始時間が午前11時と午後2時の2回。
東京駅近くのホテル「八重洲龍名館」3階「牡丹の間」=東京都中央区八重洲1‐3‐22=
●「漆宝堂」が主催、予約が必要で、参加費は2000円。
フリーダイヤル 0120-4810-55 電話 048-622-2725
漆宝堂http://www.shippodo.jp/index.html
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