テレビ電話

　サラリーマン時代は携帯電話が支給され、緊急時にはどこにいても、この電話で話が出来て便利にはなったが、居留守は使えなくなり、ある意味不便になった。

　それから15年が経ち、定年退職をして今日まで、大した使い方はしていないが、余分の機能が何もついていないシンプルな携帯電話を持っていた。

　シンプルがベストと思っていたが、頼りのその携帯電話の回転式検索ロールを、いくら回しても画面が変わらなくなり、電話帳もめくることが出来なくなった。

　これでは使えない。携帯電話が出回り始めたころに買ったもので、名残は惜しいが、意を決して新しいものに機種変更をすることにした。

　近くのドコモ・ショップに出かけた。広い展示場に、あるわあるわ。何十種類もの色とりどりのものが展示してあり目が回る。

　「携帯電話が壊れたので取り替えたいのですが…」「どれにしますか？」「どれがいいんでしょうか？」「どんな機能が欲しいですか？」「通話さえ出来れば…」

　どんな機能と言われても、話が出来れば満足の私と、店員さんとの会話が少しばかりかみ合わない。

　しかし時代であろう。どの機種でもカメラは付いている。GPS装備の最新式ではないが、テレビ電話が付いているものを買うことにした。

　「使い方は分かりますか？」「取説を見ながらやってみましょう」と強気の姿勢で家に持ち帰り、早速勉強を開始した。

　取説は何と444ページもある。ほとんどは日頃使わない機能のようだ。初期の設定を済ませたころ、東京の嫁から電話が入ってきた。

　同じ機種を使っているという。「テレビ電話でお話しましょう」と言うが、まだそこまではマスターしていない。テレビ電話を使って、改めて電話するからと言って電話を切った。

　さあ取説を読んで、まだ孫の目が覚めているうちに、テレビ電話をしてみたい。声だけでなく、表情を見ながらの電話も楽しそうだ。

　小さな楽しみが増えたと思ったが、夜遅くまできちんとした身だしなみをしていなければならない嫁にとっては、苦痛の種が増えたことになるかもしれない。

　文明の利器も、良いことずくめではないような気もしたが、テレビ電話のキーを押すかどうかの選択権は嫁にあることに今気がついて安心した。
　　（写真は、広くて豪華な「ドコモショップ」