写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

かわたれの機上より

2005年06月17日 | 旅・スポット・行事
 孫の待つ「横浜行き」、いよいよ決行の朝が来た。ネットで手にした格安の航空券とホテル予約券を固く手にして、早朝、車で家を出た。

 広島空港までは約100km。日曜日・朝5時半の高速道路は、後にも先にも車はいない。本当に皆無であった。時々、対向車とすれ違う。

 私の車だけが走る。もったいない気持ちでハンドルを握る。スピードメーターは、自覚症状なしに軽く百数十kmを指していた。

 充分に時間はあるのに、何故かスピードが出る。車をコントロール出来ないほど、私の気持ちが高まっているせいかもしれない。

 山間部の濃い霧の中を、フォグランプをつけ「安全運転、安全運転」と言いながら慎重に運転したが、予定よりも早めに空港に着いた。

 そのあたりは霧もなく、朝一番の便は無事定刻に離陸した。進行方向左窓側に座った妻は、熱心にずっと下界を眺めている。

 まだ水平飛行に移っていない内に、遠く雲間に鳥取・大山の頂が横に細く長くうっすらと見える。全てが白と薄青色の世界である。

「あれが大山」「えっ、あれが?」低い梅雨雲を突き抜けて、まず鳥取の大山が、軽く会釈をして迎えてくれた。

 ややあって琵琶湖上空を横切ったと思ったら、直ぐ真下に、二の字の滑走路を持つ名古屋セントレアが、海上南北に浮かんでいるのが見える。

 盛大に繰り広げられている愛・地球博を思いつつ、熱いコーヒーを飲む。やがて、待ちに待っていたものがはるか左前方に点のように見え始めた。

 あたり一面の雲の中から、形あるものがたったひとつ覗いている。日本一の富士の山である。動きのない、薄い影絵のように見える。

 頂が、取り巻く雲に時々隠れるが、ふたりの眼はずっとそれを追う。「わー、きれい」言葉はそれだけである。沈黙が続く。

 手にした新聞を開かないうちに、早くも着陸のアナウンスが流れた。JAL機ではあったが、前輪がパンクすることもなく、大きな振動と共に無事羽田空港に着陸した。

 最近のニュースを聞けば聞くほど「ラッキー」という表現がぴったりか?数日後の、あの着陸事故のことを思えば。

 まずはめでたく羽田に着いた。梅雨の中休みの中、楽しくもハードな旅はこうして始まった。予期せぬことが起きるとはツユ知らずに・・・
  (写真は、久しぶりに対面した梅雨の雲間の「富士の山」)