ヌマンタの書斎

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サラリーマンの節税 その三

2022-10-17 10:03:24 | 経済・金融・税制
この二十年ちかく私が気になっているのが、税法の無用な詳細化である。

やたらと細かく規定して、そのとおりにしないと課税だとする安易な税制改正がしばしば散見された。法人税の役員報酬関連は、企業の実態無視の規制を法律化して、過度な節税を防ごうとしたが、結果的にダメな改正の典型例となっている。

最近の税務署は現場経験が不足しているせいか、やたらと規制により行き過ぎた節税を防ごうとする。今年一番のお馬鹿な改正案が、7月にパブリックコメントとして出た300万円規制である。

これは前回、前々回と書き述べた事業所得と雑所得の区分基準である。要するに年商300万以下ならば、それは雑所得となると規定してくださるようである。

お馬鹿! としか言いようがない。ビジネス(事業)に無頓着な役人らしいおバカな発想である。案の定、このパブリックコメントには異論噴出で、あまりの反対の多さに国税当局もめげたようだ。先週になり、これを否定する発表があった。

前代未聞だと思うが、私は敢えて評価したいよ。よくぞまあプライドのお高い霞が関のエリート様が断念したと思う。そのかわり帳簿云々を言いだしたが、私に言わせれば、それは当然のこと。多分帳簿に反対するのは、未だに白色申告が有利だと主張している一部の民間団体様だけだと思う。

師匠から聞いた話だが、昔は税務署の職員になるのは個人商店の次男坊とか農家の末子とかが多く、みな親が商売で苦労していたのを知っていたし、またどうやって節税に苦労しているかも聞いていたらしい。

だから税務署の調査官として納税者の元を訪れて税務調査をしても、そのさじ加減は現場を理解したものであったそうだ。しかし高度成長の頃からサラリーマン家庭出身の税務署職員が増えてくると、商売の機微が分からない人が増えて、現場でのトラブルが多くなったと師匠は話していた。

そのため、税務調査ではベテランと若い職員を組ませて赴かせ、実地教育で円滑な仕事を学ばせていたそうだ。しかし、KSKシステム(国税庁のコンピューターによる収税機構)が導入され、そのための研修が増加した頃から税務調査自体が減ってきた。時間が十分にとれなかったと聞いている。

また団塊の世代の大量退職が続き、経験不足の税務調査官が増えると、細かく上から指示してやらないと判断できない事例が増えた。これには霞が関も頭を抱えるようになった。

その頃からだと思うが、確定申告の最盛期である2月から3月にかけて、国税庁より各税理士会支部に応援の要請が増えた。従来は高齢の税理士と、稼ぎの少ない若手税理士が応援に応じていた。しかし、税務署長から直々にベテランの働き盛りの税理士を派遣して欲しいと要望が出るようになった。

当時、税理士会K支部で幹事を務めていた私にもお声がかかり、やむなく大手町の国税庁へ応援にいったり、職員の数が少ない遠隔地の税務署へ応援に行くことが増えた。そこへ行くと、税務署の職員と机を並べて一緒に仕事をするのだが、私が驚いたのはその職員たちの能力差であった。

私が教えを乞うほどの能力の高い職員も必ず配置されていたが、大半は所得税の基礎的な知識はあっても、応用的な判断に難がある人が多く、納税者からの質問よりも税務署職員からの質問が多いこともあるほどだった。

事情を訊くと、致し方ないと云わざるを得ないことも分かった。彼らは法人課や資産税課、源泉所得税など細分化された部署で日頃仕事をしているため、所得税については詳しくない。

これには同情を禁じ得ない。連結納税や外国人納税者の増加などで、税務も驚くほどに多様化し、細分化され、それに対応するため税務署職員も専門分野に縛られがちになる以上、年一回の所得税の確定申告には十分対応できないのは当然だった。

いや、税理士の私だって連結納税や海外資産の税務、国内の外国人対応などは、研修での知識に限られており、とても自信はない。かろうじて毎年やっている所得税の確定申告は相応な自信をもって出来る程度なのだ。

とはいえ、そうそう税理士も応援ばかりしていられない。だから税務署職員には頑張って欲しいが、けっこうキツイだろうとも思っている。ちなみに税務署では職員たちが判断に迷うようなことがあると、霞が関の国税庁に問い合わせる。

だが霞が関の勉強が得意なエリート官僚でも、世界基準に常に動く経済の仕組みを完全に把握するのは難しい。下級職からの問い合わせに対しても、詳細に個々の事案を調べて解答する余裕は少ない。

すると必然、過去の事例に模範解答を求め勝ちとなる。これがまた実態に合わないことがままある。納税者が納得するわけもなく、結果税務訴訟となる。従来は国税庁の勝率98%であったのだが、近年変りつつある。(その四に続きます、多分最終回)

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