ヌマンタの書斎

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センゴク天正記 宮下英樹

2017-01-19 12:00:00 | 

意外であった。

槍といえば、世界各地で古来より使用された武器である。刺突を目的として武具であることは間違いではない。しかし、それだけではなかったことが、最近の研究により分かった。

日本でも古来より、槍は武具として用いられていた。だが、戦国時代の末になると、異様に長い槍が用いられるようになっていた。同じ仕様の槍を作ってみたが、長い柄がしなり、まがるため突き刺すには不便であることが分かった。

では、どうやって使ったのか。

在野の研究者が、いろいろ試してみて、文献と照合した結果分かったのは、意外な結論であった。戦国時代末、特に安土桃山時代において、槍は突くものではなく、叩きつけるものであった。

長さ4メートルを超える柄の先に付けられた重さ3キロ余りの鉄の矢先を、持ち上げて敵の頭上、肩口に叩きつけて倒す戦法であった。それも横一列に槍をもった十数名の兵士が、いっせいに槍を持ち上げ、接近してくる敵に叩きつける。

3キロを超す槍の穂先の鉄塊が、3メートルの高さから叩きつけられるのだから、たとえ甲冑を身にまとっていても、その衝撃は敵を倒すに十分な威力であることが、実験により判明した。突き刺すには不便な柄のしなりが、叩きつける際にはより衝撃を高める効果を持っていたことも分かった。

恐るべき集団戦法であるが、戦国時代が終わり江戸時代になると無用の戦術であるため、槍は再び短くなり、突き刺して攻撃する武具に戻っている。そのため、長い間、槍は刺突するものだと思い込まれてしまっていたのだ。

正直、非常に驚いた。槍は突くものとの思い込みが強かったからだが、表題の漫画では、その長槍を使っての戦闘場面が描かれている。この漫画の主人公である仙石は、斉藤家の家臣であったが、信長の軍勢との戦いで、この長槍の攻撃に叩き伏せられても死なず、捕虜として捕まる。

信長直々の捕虜の処断の時に、その猪武者ぶりを見初められ、秀吉の部下に配されたことにより始まるセンゴクも、既に雑誌連載では九州遠征まで進んでいる。が、なんといっても白眉は、この天正記ではないか。

歴史上名高い明智の裏切りと、秀吉のとんぼ返りによるどんでん返し。日本史でも指折りの転換期である。これまで歴史小説を始め、TVドラマ、映画、そして漫画でも描かれてきたが、この漫画が興味深いのは、最新の歴史研究に基づいて描かれているからだ。

光秀の裏切りにしても、最新の学説では、四国の長宗我部の影響を指摘している。決定的な証拠などないのだろうけど、研究が進むにつれて従来の定説が崩れつつあるのも日本史の面白さである。

私が知る範囲で、長槍を突くのではなく、叩きつける方法で合戦の場面を描いた漫画は、これだけである。現在、連載されている戦国時代を舞台にした漫画では、ダントツの面白さがあると考えている作品です。手に取る機会があったら是非どうぞ。


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2 コメント

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Unknown (ヌマンタ)
2017-01-21 17:19:39
アブダビさん、こんにちは。完結した「死が二人を分かつまで」の主人公は、「俺に長巻を持たせたら、攻撃力3倍だぞ」と述べてます。
攻撃範囲の広い長巻や薙刀は、個人戦では最強との説もあります。実際、戦国時代では僧兵たちは、薙刀を用いていたようです。
ただ、合戦のような集団戦では味方を傷つけることから不向きとされたようです。替わって登用されたのが、異常に柄を長くした槍での集団攻撃であったようです。
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Unknown (ヌマンタ)
2017-01-24 12:37:58
漫画でも小説でも、いかなる最後が用意されているかで、その評価は大きく変わると思います。その点、「死が二人を分かつまで」は合格でしたね。「自殺島」はきりぎれに読んでいたので、いずれ完読してから取り上げたいと思います。
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