Hungry fungi chomp on radiation Nature Web News 5/23
「背に腹は代えられない」とは言いますが、ひもじくなった「fungi:菌類 (キノコが身近ですね)」は、放射線を食べるそうです。
「菌類」は非常に強壮なエネルギー獲得能力を持っています。以前にも自然界 には非常に耐久性の高いフェノール樹脂というプラスティックを分解して 「食べてしまう」能力を持つ菌類が
存在している(やっかいな廃棄物処理に使えるかもしれない)という事を お伝えしましたが、すでにその一部が放射性物質を「食べている」事も知られ ています。
でも今回の話は、ちょっと性質が異なるものです。これは、植物が光合成の 為に「可視光(これもつまりはradiationなのですが)」の一部を葉緑素に よって捉え、それから成長の為のエネルギーを取り出しているのと同じ意味 合いで、何種類かの菌類が「radiation(放射線)」をエネルギー源として 使っている事が確認された、という凄い話なのです。
参考情報:「
放射線とは」 エネルギー総合工学研究所
放射線を「食べる」というこのびっくりする様な性質は、炉心融合というきわめ て危険な事故を起こし、周辺の広い領域に放射能汚染をもたらした「Chernobyl Atomic Energy Station(チェルノブイリ原発)」で、「black fungi(黒い 色をした菌類)」が爆発的に増加した事によって見つかった様です。研究者達は、 その種が「放射線」を成長の為に使用しているのかもしれないと考え、3種類の 異なった菌類を「caesium-137(セシウム-13)」が放射する「beta-radiation (ベータ線)」に曝し、それらが実際により迅速に成長した事を確認しています。
それらの菌類で、植物が光を捉える為に使っている葉緑素の役割を果たして いるのが、「melanin(メラニン)」と呼ばれる色素で、良く知られている 様に人間の皮膚にも存在していて、日光に反応して皮膚が黒くなる日焼けを 生じたり、シミそばかすといった色素斑を作り出して女性達を悩ませたりし ています。研究者達によると、それらの菌類では放射線に曝されて色素が 変形し、結果として新陳代謝能力が通常の4倍に高まっていたそうです。
人間の皮膚にもメラニン色素は存在してはいますが、それが放射線によって 菌類の場合と同様に変形したとしても(この場合他の悪影響は無視する)、 それによって人間が活動できるだけの量のエネルギーを取りだす事は無理のよう です。ですが研究者達は、その性質を利用して長期の宇宙旅行の際などに周囲 に豊富に存在している宇宙放射線によって菌類を栽培し、「人間の食料として それを利用する」事が可能かもしれない、と考えているそうです。
飛行中に限らず、定住するための宇宙基地の食料としても使われる可能性が あるわけですが、どうもこの「black fungi」達は、あまり美味しそうな外見 は持っていないようです。「蚕」を宇宙基地で養殖して蛋白源にする話も出て いましたが、未来の宇宙飛行士達に要求されるのは「なんでも好き嫌い無く 食べられる」という菌類と同じ様な強健な食性なのかもしれません。
普通に見られる色素が、奇妙な食習慣を可能にしているのかもしれ ません プラスチックとアスベストの間に存在する、また段ボールとジェット燃料 の間に存在する、非常に幅広い範囲に含まれるもののほとんどを「fungi (菌類)」は食べる事が出来るでしょう。
今回研究者達は、菌類達の食卓にこれまでとは異なった皿を発見しています。 その皿には「radiation(放射線)」が載っていたのです。誤解が生じない ように繰り返しますが、新たに彼等の食卓で発見された物は「radioactive compounds(放射性化合物)では無く(ずいぶん昔から、菌類が放射性 化合物をメニューに載せている事は知られています)、「放射線」その ものだったのです。
ニューヨークに有るAlbert Einstein College of MedicineのEkaterina・ Dadachovaと彼女の同僚達は、いくつかの菌類が、「melanin(メラニン)」 と呼ばれる、人間の皮膚にも存在している色素を、放射線からエネルギー を取り込む為に使用する能力を持ち、それを自らの成長の為に使用している、 という事を発見したのです。
これは、宇宙飛行士達が長距離の宇宙旅行の際に、放射線が豊富に存在して いる宇宙空間で、そのような種類の菌類を育てることができるかもしれない、 という見込みを高める物だ、とDadachovaの同僚であるArturo・Casadevall は示唆しています。その菌類は特においしそうだとは言えません。それらは、 汚いシャワー・カーテンの上に生えてくるmould(糸状の菌類)に似ています。
1986年に炉心溶解事故を起こして以来、「Chernobyl Atomic Energy Station (チェルノブイリ原子力エネルギーステーション)」では、メラニンを豊富 に含む「black fungi」の数が爆発的に増加しました。Casadevallは、その 菌類が、原子炉の崩壊によって漏れだした放射線を「食べる」能力を持って いるのかもしれない、と推測したのです。
DadachovaとCasadevall、そしてその同僚達は、3種類の異なった菌類が 「caesium-137(セシウム-13)」から発生している「beta-radiation (ベータ線)」にどの様に反応するかをテストしました。(ベータ線は、 ウランとプルトニウムが核分裂を生じる際に産み出される放射線です)
研究者達は、「
Cladosporium sphaerospermum」、「
Cryptococcus neoformans」、「
Wangiella dermatitidis」というテストされた 3つの種の全てが、同位元素の前に置かれた時により迅速に成長している、 という事を発見しました。今回得られた結果は、「PLoS One」で発表され ました。
赤外線の探知 いくつかの菌類は、チェルノブイリ原子炉の残骸の中の「hot graphite (熱い石墨)」などの様な放射性物質を分解する能力を持っています。 これまでの研究では、汚染された領域で発見された菌類のほとんどが、 様々な放射線源の方向に向かって成長している事が明らかにされていま した。それらは、放射性化合物に到達しようとしているかのように思わ れる状態を作り出していたのです。
その様な菌類は、「melanin(メラニン)」という色素を作り出す傾向も 持っていました。メラニンは、さまざまな環境ストレスから菌類を保護し ているのだと考えられていました。「電離放射線に曝されるというストレ スが存在している状況では、土壌中に存在している菌類の共同体は、 メラニンを含む種類の菌類をより高い割合で発生させます」、とニュー ジャージー州にあるRutgers Universitの微生物学者のJohn・Dightonは 語っています。
Dadachovaの研究チームは、放射線に曝された事によって菌類のメラニン 分子が変形した事を発見しています。それによって、その分子は新陳代謝 の化学反応を実行するのが、通常より4倍効率的になっていたのです。
メラニン色素を持たない種類の菌類は、一般的に放射線に曝されても成長は 促進されてはいませんでした。
人間の皮膚細胞の中に存在しているメラニン色素も、同様に放射線を食物 に変えることができるのでしょうか? Casadevallは、そういった機能が 生じる事が有りうるかもしれない、と推測していますが、それによって 提供されるエネルギー量はたぶん非常にわずかなものでしょう。明らかに、 忙しい宇宙飛行士達にとって十分なものではありません。
「現時点では、そういった証拠は一切存在していませんが、それが菌類で 生じたという事実は、同様の事が動物と植物でも起こるかもしれない、と いう可能性を高めるのです」、とCasadevallは語っています。
猫反省する
この話の題名をRSSで読んで、私は「放射性物質の汚染除去」に使えそうな 放射性物質分解能力の高い新種の菌類が発見されたのだろうか? という 程度ののどかな誤認をし、記事の確認を後回しにしました。
実際は、菌類は「放射線をエネルギーとして取り込んで成長する能力」を持ち、 それを可能にしているのが人間も持っている「メラニン色素」の変化バージョン なのかもしれない、という凄い話でした。やはり後で読もうではなく、おおざっ ぱにでも目を通さないとダメなのだ、という事です。
googleがついに「母語検索」に対応してくれました。日本語は現時点では英語 対応のみですが、そのうち拡充されるでしょう。「RSS」の日本語化も欲しいな ぁ、とか思ってしまった今日この頃です。
この話に関しては、
BBS:キノコは本当に放射線を食べたのか? という 検証部分が存在していますので、そちらもご一緒にどうぞ。
追記 はてブのコメントに「腐海の生態学」というのが有りました … あり得る?
物語の設定によると土壌は汚染されていて植物による浄化が続いている世界です。 多分放射線は大量に存在しているから、それを利用して急速に成長した菌類を ベースにする生態系は、もしかすると存在しうるかもしれない。
放射性物質に汚染された土壌にも植物が割合早く生える、という事は実証され ている(特に日本には身近な例が実在する)し、もちろん「腐海」には太陽光 を利用する植物も存在している設定だったと思う。それらはより効率よくエネ ルギーを吸収するわけだけれど …
架空の設定について考える無理は承知の上で、それでも汚染の初期の植物が 存在し得ない段階では、直接「太陽光を食べられない」多数の生命体が「植物」 に依存しているのと相似形で、「放射性物質が発生させている放射線を食べら れない」、でも放射線には比較的強い生命体が「放射線を利用できる菌類」に 依存する生態系が形成される可能性は有るのかもしれない。
放射線で成長する菌類を食べる様に改良された「蚕」を作り出して飼育し、 それを「人間を放射線から防御する為に設けられる水圏」で飼育される魚の 餌にして、魚を人間が食べる … という程度ならなんとかなるかしら? (はてブでコメントされていましたが、恒星間宇宙船の規模では無理らしい)
多分「食物に関するストレス」には、人間は弱いと思うから。
「
放射線をエネルギー源に使う菌類」