ロシアのしたたかかつ、現実的な資産戦略。
一方で、従米日本の脆弱な資産状況が見えてきます。
以下、「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」(平成30年7月26日)
「ロシアは保有してきた米国債券の殆どを売却していた そして金保有を高めていた。1944トンと日本の二倍半」(全文)です。
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プーチンはやはりしたたかだった。
ウォール街ではロシアが保有してきた米国債券の大量売却が話題となった。昨年末に920億ドルを保有していた米国債が、現時点(7月25日)に、149億ドルに減っていた。替わりにロシアは金保有を急増させ、7月だけでも106トンを追加購入していた。合計してのロシアの金保有は1944トン。時価に換算して4600億ドルになる。いまや世界六位の金保有国である。
第一にプーチンは米国を揺さぶるために、通貨の崩壊に備えているという政治的なジェスチャーを示す必要がある。
全世界の負債総額247兆ドル(世界すべてのGDPの318%)という異常なマネー市場をながめれば、ドル、ユーロなどで資産を保有するより、ゴールドに替えておいたほうが良いとする「戦争に備える」貯蓄の原則も手伝う。
第二はロシアの場合、新興財閥が持ち去ってしまった資産がドル建て、あるいはユーロ建て(一部は英国ポンド建て)のまま海外に置かれていて、しかも欧米の経済制裁を受けて、殆どが凍結された事態への対応だ。銀行の記録の残らない実物の金で保有するのは、昔から世界中の金持ちの常識でもあった。
第三はドルの崩壊に備えるというより、人民元の崩壊への備えだろう。
ロシアは中国への輸出代金をドルで受け取ってきたが、一部決済を人民元建てとしている。原油、ガスの相当量をロシアはパイプラインと、鉄道輸送で中国に輸出しており、このうえに武器輸出が加わっている。一部は金での支払いも行われている。
通貨とは所詮、紙切れである。
1971年のニクソンの金兌換停止以来、紙切れが市場に乱舞しているが、裏打ちされてきた金との兌換という保証がなければ、大変動がきた時に「紙くず」となってしまう。
こういう認識は安定した民主主義国家では考える人が少ないが、ロシア人は本能的に自国通貨の危機を知っている。同様に怪しげな人民元の脆弱性も知っている。
こうした事情をうけて、ゴールド市場は急騰する筈なのに、原油高騰に反比例して、むしろ金価格は下落している。
▲日本の危機意識の鈍さはゴールドの国家備蓄の少なさが象徴する
日本の場合、ドル建ての金価格ゆえにドル高状況下では、顕著な下げは見られず、また消費税を回避する密輸がさかんに行われてきたため、ブラックマーケットが形成されている。
消費税が金売買の取引のたびに課税されるのだから往復で16%であり、金価格がそれなら16&以上上げる日がくるのか、と投資に二の足を踏む人が多い。
個人的な備蓄を好むのは中国人、インド人、そしてアラブの人々であるが、國際市場では中央銀行がそれなりに金備蓄をしている。
ところが、国家としての金保有も先進国のなかで、日本が一番少ない。
以下は列強の金保有の一覧である。
米国 8733トン
ドイツ 3373(米国から預託分1700トンを取り返した)
IMF 2814(SDRの保証システムとも言える)
イタリア 2451
フランス 2450
ロシア 1944(2017年は536トンだったから急増している)
中国 1054(ほかに金企業と民間とで合計3000トン強と推定)
スイス 1040
日本 764(全量をアメリカに預託している)
オランダ 612
以下、トルコ、ECB,インドなどが続く。
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竹村誠一
一方で、従米日本の脆弱な資産状況が見えてきます。
以下、「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」(平成30年7月26日)
「ロシアは保有してきた米国債券の殆どを売却していた そして金保有を高めていた。1944トンと日本の二倍半」(全文)です。
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プーチンはやはりしたたかだった。
ウォール街ではロシアが保有してきた米国債券の大量売却が話題となった。昨年末に920億ドルを保有していた米国債が、現時点(7月25日)に、149億ドルに減っていた。替わりにロシアは金保有を急増させ、7月だけでも106トンを追加購入していた。合計してのロシアの金保有は1944トン。時価に換算して4600億ドルになる。いまや世界六位の金保有国である。
第一にプーチンは米国を揺さぶるために、通貨の崩壊に備えているという政治的なジェスチャーを示す必要がある。
全世界の負債総額247兆ドル(世界すべてのGDPの318%)という異常なマネー市場をながめれば、ドル、ユーロなどで資産を保有するより、ゴールドに替えておいたほうが良いとする「戦争に備える」貯蓄の原則も手伝う。
第二はロシアの場合、新興財閥が持ち去ってしまった資産がドル建て、あるいはユーロ建て(一部は英国ポンド建て)のまま海外に置かれていて、しかも欧米の経済制裁を受けて、殆どが凍結された事態への対応だ。銀行の記録の残らない実物の金で保有するのは、昔から世界中の金持ちの常識でもあった。
第三はドルの崩壊に備えるというより、人民元の崩壊への備えだろう。
ロシアは中国への輸出代金をドルで受け取ってきたが、一部決済を人民元建てとしている。原油、ガスの相当量をロシアはパイプラインと、鉄道輸送で中国に輸出しており、このうえに武器輸出が加わっている。一部は金での支払いも行われている。
通貨とは所詮、紙切れである。
1971年のニクソンの金兌換停止以来、紙切れが市場に乱舞しているが、裏打ちされてきた金との兌換という保証がなければ、大変動がきた時に「紙くず」となってしまう。
こういう認識は安定した民主主義国家では考える人が少ないが、ロシア人は本能的に自国通貨の危機を知っている。同様に怪しげな人民元の脆弱性も知っている。
こうした事情をうけて、ゴールド市場は急騰する筈なのに、原油高騰に反比例して、むしろ金価格は下落している。
▲日本の危機意識の鈍さはゴールドの国家備蓄の少なさが象徴する
日本の場合、ドル建ての金価格ゆえにドル高状況下では、顕著な下げは見られず、また消費税を回避する密輸がさかんに行われてきたため、ブラックマーケットが形成されている。
消費税が金売買の取引のたびに課税されるのだから往復で16%であり、金価格がそれなら16&以上上げる日がくるのか、と投資に二の足を踏む人が多い。
個人的な備蓄を好むのは中国人、インド人、そしてアラブの人々であるが、國際市場では中央銀行がそれなりに金備蓄をしている。
ところが、国家としての金保有も先進国のなかで、日本が一番少ない。
以下は列強の金保有の一覧である。
米国 8733トン
ドイツ 3373(米国から預託分1700トンを取り返した)
IMF 2814(SDRの保証システムとも言える)
イタリア 2451
フランス 2450
ロシア 1944(2017年は536トンだったから急増している)
中国 1054(ほかに金企業と民間とで合計3000トン強と推定)
スイス 1040
日本 764(全量をアメリカに預託している)
オランダ 612
以下、トルコ、ECB,インドなどが続く。
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竹村誠一