アメリカでサブプライムローンどころではない本物の地獄の釜の蓋が開こうとしている。
英バロンズ誌で「(ファニーメイは)住宅市場に流動性をもたらすために大恐慌時に立ち上げられたものだが、近いうちに自身が救済の必要性に直面するかもしれない」と報じられ、株価が急激に下落したのである。
ファニーメイ(federal National Mortgage Association=連邦住宅抵当公社)とフレディマック(Federal Home Loan Mortgage Corporation=連邦住宅金融抵当金庫)は、どちらもニューヨーク証券取引所に上場している米国の民間企業だ。
これらは上場企業だが政府の援助企業であり、民間金融機関から買い取ったローン債権を証券化し、住宅ローン担保証券を発行し、この元利金支払いの保証をしている。
この2つの代表的なローン会社が、サブプライローン問題で下落した住宅価格の余波によって巨大な債務が露呈し、破綻の危機を迎えているのである。
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【米ファニーメイ、最終赤字3800億円・10-12月期 リンク 】
米政府系住宅金融機関の連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)は
27日、2007年10―
月期の最終損益が35億5900万ドル(約
3800億円)の赤字になったと発表した。前年同期は6億400万
ドルの黒字。住宅価格の下落やローンの焦げ付きで不良債権の
処理負担が増え、前の期に比べ赤字幅が約20億ドル拡大した。
1株当たり損失は3ドル80セントと、市場予想の1ドル20セン
ト―
ドル30セントを大きく超えた。
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四半期決算で3800億円という途轍もない損失であり、年間で軽く1兆円を超える赤字を計上する見込だ。しかも、この住宅ローンはサブプライムローンのように「昨日刑務所を出所してきた強盗犯」に対する「質の悪い」ローンではない。普通の人が借り手となって、「米国債に次ぐ安全性」と喧伝されてきた優良ローンなのである。
日本の場合、住宅ローンを借りるとき、たいていは生命保険に加入することを義務づけられる。これによって借り手が失業したりしてローンが返せなくなっても住宅を取り上げるだけではなく、ローン会社は生命保険から取り立てることが出来る。
しかし、住宅価格が将来にわたって上がり続けることを前提とすれば、生命保険を使わなくても、連帯保証人がいなくても購入した住宅の資産価値だけでローンを組むことが出来る。これが不動産ノンリコースローンと呼ばれるもので、借り手の債務が破綻しても、住宅を手放せば首を吊らなくて済むのである。
このことは、長らく日本の住宅ローン、あるいは住宅の価値の不透明性に対して、誰もが優良な住宅を手に入れられるアメリカの住宅ローンの健全性の象徴のように見られてきた。
つまり、日本では20~30年も経てば中古住宅の上物の価値はゼロになるため、住宅の質が問われない。住宅の資産価値が正当に評価されないので、住宅を建てる人も売る人も住宅性能の向上に投資しようとしないことの原因だと非難されてきたのである。
逆に、責任財産を限定し厳格に審査するアメリカ式のノンリコースローンは、耐震性や遵法性などの建物の性能を重く見るため、質の高い建築物が市場に供給されるとともに、中古住宅の市場流動性が担保されるという理屈で評価する経済評論家が少なくなかった。
しかし、右肩上がりの住宅価格を前提とし、個人が破産したら住宅を手放して終わりのノンリコースローンと、家族と自分の命を賭けて必死に返済する日本型の住宅ローンのどちらが貸し倒れリスクが少ないか、火を見るよりも明らかだろう。
さらに、住宅価格の下落に加え、連邦金利の度重なる利下げによって、期限前償還リスクも極大化している。金利の低下により破綻していないローンまでも繰り上げ返済が加速することによって、債権価値は実質的に低下しているのである。
そして、例によって住宅ローン担保証券は細分化され、モーゲージ証券(MBS=Mortgage Backed Secirity)となって世界中にばらまかれている。正体不明で新参者のサブプライムローンは日本の証券市場にそれほど深く入り込んでいなかったが、MBSはマーケットでは米国債に次ぐ信用力がある商品として、日本でも投資信託に組み込まれているのである。
ここまで来ると、サブプライムローンの騒ぎ自体が、アメリカ発世界経済崩壊の序曲に過ぎないことがわかる。
実は、崩壊の始まりを遅らせるために、最後の手段としてモラルも投げ打ってなりふり構わず、苦し紛れに編み出したのがサブプライムローンという最後の手段なのも知れない。
渡辺卓郎
英バロンズ誌で「(ファニーメイは)住宅市場に流動性をもたらすために大恐慌時に立ち上げられたものだが、近いうちに自身が救済の必要性に直面するかもしれない」と報じられ、株価が急激に下落したのである。
ファニーメイ(federal National Mortgage Association=連邦住宅抵当公社)とフレディマック(Federal Home Loan Mortgage Corporation=連邦住宅金融抵当金庫)は、どちらもニューヨーク証券取引所に上場している米国の民間企業だ。
これらは上場企業だが政府の援助企業であり、民間金融機関から買い取ったローン債権を証券化し、住宅ローン担保証券を発行し、この元利金支払いの保証をしている。
この2つの代表的なローン会社が、サブプライローン問題で下落した住宅価格の余波によって巨大な債務が露呈し、破綻の危機を迎えているのである。
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【米ファニーメイ、最終赤字3800億円・10-12月期 リンク 】
米政府系住宅金融機関の連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)は
27日、2007年10―
月期の最終損益が35億5900万ドル(約
3800億円)の赤字になったと発表した。前年同期は6億400万
ドルの黒字。住宅価格の下落やローンの焦げ付きで不良債権の
処理負担が増え、前の期に比べ赤字幅が約20億ドル拡大した。
1株当たり損失は3ドル80セントと、市場予想の1ドル20セン
ト―
ドル30セントを大きく超えた。
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四半期決算で3800億円という途轍もない損失であり、年間で軽く1兆円を超える赤字を計上する見込だ。しかも、この住宅ローンはサブプライムローンのように「昨日刑務所を出所してきた強盗犯」に対する「質の悪い」ローンではない。普通の人が借り手となって、「米国債に次ぐ安全性」と喧伝されてきた優良ローンなのである。
日本の場合、住宅ローンを借りるとき、たいていは生命保険に加入することを義務づけられる。これによって借り手が失業したりしてローンが返せなくなっても住宅を取り上げるだけではなく、ローン会社は生命保険から取り立てることが出来る。
しかし、住宅価格が将来にわたって上がり続けることを前提とすれば、生命保険を使わなくても、連帯保証人がいなくても購入した住宅の資産価値だけでローンを組むことが出来る。これが不動産ノンリコースローンと呼ばれるもので、借り手の債務が破綻しても、住宅を手放せば首を吊らなくて済むのである。
このことは、長らく日本の住宅ローン、あるいは住宅の価値の不透明性に対して、誰もが優良な住宅を手に入れられるアメリカの住宅ローンの健全性の象徴のように見られてきた。
つまり、日本では20~30年も経てば中古住宅の上物の価値はゼロになるため、住宅の質が問われない。住宅の資産価値が正当に評価されないので、住宅を建てる人も売る人も住宅性能の向上に投資しようとしないことの原因だと非難されてきたのである。
逆に、責任財産を限定し厳格に審査するアメリカ式のノンリコースローンは、耐震性や遵法性などの建物の性能を重く見るため、質の高い建築物が市場に供給されるとともに、中古住宅の市場流動性が担保されるという理屈で評価する経済評論家が少なくなかった。
しかし、右肩上がりの住宅価格を前提とし、個人が破産したら住宅を手放して終わりのノンリコースローンと、家族と自分の命を賭けて必死に返済する日本型の住宅ローンのどちらが貸し倒れリスクが少ないか、火を見るよりも明らかだろう。
さらに、住宅価格の下落に加え、連邦金利の度重なる利下げによって、期限前償還リスクも極大化している。金利の低下により破綻していないローンまでも繰り上げ返済が加速することによって、債権価値は実質的に低下しているのである。
そして、例によって住宅ローン担保証券は細分化され、モーゲージ証券(MBS=Mortgage Backed Secirity)となって世界中にばらまかれている。正体不明で新参者のサブプライムローンは日本の証券市場にそれほど深く入り込んでいなかったが、MBSはマーケットでは米国債に次ぐ信用力がある商品として、日本でも投資信託に組み込まれているのである。
ここまで来ると、サブプライムローンの騒ぎ自体が、アメリカ発世界経済崩壊の序曲に過ぎないことがわかる。
実は、崩壊の始まりを遅らせるために、最後の手段としてモラルも投げ打ってなりふり構わず、苦し紛れに編み出したのがサブプライムローンという最後の手段なのも知れない。
渡辺卓郎