知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

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冒認出願を理由として請求された無効審判における主張立証責任

2017-01-31 22:20:52 | Weblog
平成27(行ケ)10230  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟
平成29年1月25日  知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦, 裁判官 大西勝滋, 杉浦正樹


本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担するものと解するのが相当である。

もっとも,そのような解釈を採ることが,すべての事案において,特許権者が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならないことを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認させる上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特許権者の行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって左右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求人が冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付けとなる証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的に指摘し,その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはないものと考えられる。

特許発明の解釈に包袋禁反言を適用した事例

2013-10-03 23:30:30 | 特許法70条
事件番号 平成25(ネ)10030
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月 平成25年08月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 田中芳樹、荒井章光
特許発明の特許請求の範囲の解釈

ア 控訴人は,本件手続補正書の「3-1)」及び「3-2)」は,・・・,原本性を証明してもらうためのデータを,原本性を証明する処理のために受け取ることを否定する陳述ではないから,ダイジェスト照合によって実現しているサービスに,原本性を証明してもらうためのデータを受け取り保管することを加えることをもって,構成要件6及び7の充足性を否定する根拠とはならない旨主張する。

 しかしながら,・・・,控訴人は,本件特許の拒絶査定不服審判において,本件発明は,「伝達情報」等を発信者装置A及び受信者装置Bから内容証明サイト装置Cに送信せず,「伝達情報」を内容証明サイト装置Cが保管しないことによって,引用文献等記載の発明と異なり,通信量(情報量)が多くならず,多くの情報量を保管する構成でもなく,公証人等による伝達情報への不正関与の可能性を高くしないという効果を奏すると陳述し,本件発明は,控訴人のかかる陳述を踏まえた上で,特許査定がされたものであるから,本件発明の構成要件6及び7の意義は,契約当事者双方が契約書の「原本」を管理し,内容証明サイト装置は原本が改ざんされていないことを伝達情報のダイジェスト又は伝達情報を暗号化した暗号情報のダイジェストのみに基づいて検証することで証明するサービスであると解するのが相当である。

 したがって,原本性を証明するためのデータではなく,原本性を証明してもらうためのデータであれば,「伝達情報」を受け取り保管することもできるとする控訴人の主張は採用することができない。

独立特許要件の特許法29条1項3号が不意打ちか争われた事例

2013-09-09 10:40:27 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10348
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年08月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 大鷹一郎 ,荒井章光


もっとも,本件拒絶査定には,・・・との記載があり,上記記載の括弧書きの部分は,・・・「q」が「0」であることを前提とするものではなく,この点において「q」が「0」であることを前提とする本件拒絶理由通知とは異なるものといえる。しかしながら,上記記載の括弧書きの部分は,原告が・・・意見書(乙3の1)で「・・・引用文献5の化合物を除くためにR3の定義の中でアリールを削除し…。」(2頁)と主張したのに対応して,そのような補正によっても拒絶理由が解消されないことを述べたものにすぎず,本件拒絶査定が本件補正前の請求項1について本件拒絶理由通知記載の拒絶理由と同じ拒絶理由があることを指摘したとの上記認定と相反するものではない

ウ 一方,本件審決は,本願補正発明1は,引用発明(引用例の化合物20)と同一であり,特許法29条1項3項に該当するので,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないと判断したものであるところ,本件補正後の請求項1記載の「アリール」,「アルキル」,「アリールアリキル」等の定義に照らすと,本願補正発明1が同号に該当するとの理由は,本件拒絶査定における拒絶理由と同一であると認められる。

エ ・・・
 したがって,本件審決で本件補正を却下した本件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法50条本文に反するとの原告の主張は,その前提を欠くものとして理由がない。

(2) その他の手続違反の有無
ア 原告は,
 ・・・本件審尋書(甲9)が引用する「《前置報告書の内容》」には,本件補正後の請求項1に記載された発明が独立して特許を受けることができない理由として,特許法旧36条6項1号,2号に規定する要件を満たしていないことのみが記載され,特許法29条1項に関する記載がないことによれば,前置審査をした審査官と原告との間には,本件補正により,「特許法29条1項3号の拒絶理由は解消している」との判断について了解が成立し,本件審尋書による審尋をした審判官も,同様の判断をしていた
 本件審決における本願補正発明1が特許法29条1項3号に該当するとする理由は,本件拒絶査定の拒絶理由と異なるにもかかわらず,本件審決の審決書が原告に送達されるまで原告に対して指摘されておらず,本件審決は,不意打ちで本件補正を却下したものである,
 ・・・,原告は,「《前置報告書の内容》」に記載された特許法旧36条6項1号,2号の拒絶理由については意見を述べることができたが,「《前置報告書の内容》」に記載のない特許法29条1項3号の拒絶理由については意見を述べる機会すら与えられなかったから,本件審判手続は,特許出願人である原告に対して極めて不公正なものであって,適正手続違反に該当するなどと主張する。

しかしながら,本件審尋書(甲9)は,特許法134条4項に基づく審尋の方法として原告に送付されたものであり,その書面の性質上,前置審査をした審査官と原告との間に原告が主張するような合意が成立していることを示すものとはいえず,また,本件審判事件を審理する審判体の見解や判断を示すものではないから,原告の上記①の主張は理由がない。

 次に,前記(1)認定のとおり,本件審決における本願補正発明1が特許法29条1項3号に該当するとの独立特許要件違反の理由は,本願補正発明1が引用発明(引用例の化合物20)と同一であるというものであって,本件拒絶査定における同号の拒絶理由と同一であり,しかも,本件拒絶理由通知においても指摘されていたものであるから,本件審決が上記独立特許要件違反を理由に本件補正を却下したことは原告に対する不意打ちとはいえず,原告の上記②の主張も理由がない。

 さらに,原告は,本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定における引用発明(引用例の化合物20)と同一であることを理由とする特許法29条1項3号の拒絶理由について意見を述べる機会を与えられ,現に上記拒絶理由に対して平成21年6月19日付け意見書を提出して意見を述べたり,同日付け手続補正及び本件補正を行っているのであるから,原告の上記③の主張もまた理由がない。

先願明細書に記載されているに等しい事項

2013-08-25 21:31:32 | 特許法29条の2
事件番号  平成25(行ケ)10022
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年08月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 西理香,神谷厚毅
特許法29条の2

(4) 一応の相違点に関する判断について
ア 前記(2)に認定した先願発明の内容及び先願発明における求職クライアント信用評価情報の内容に照らすと,先願発明においても,求職クライアント信用評価情報記憶部には記憶容量の限りがあること,及び,古い求職クライアント信用評価情報は現実性を失い価値が無くなるため常にデータを新鮮にする必要があることが認められる。そうすると,先願発明においてこれらに対処することは,先願明細書に明示されていなくても当然に行われるものであるといえ,先願発明に本件周知技術を付加し,あらかじめ設定された蓄積期間が経過した古い求職クライアント信用評価情報を削除し,常にデータを新鮮なものとする構成とすることは,先願明細書に記載されているに等しい事項といえる。

イ そして,本願発明と上記ア認定の先願発明に本件周知技術を付加した構成とを対比すると,
・・・

ウ 以上によれば,本願発明と先願発明との一応の相違点に係る構成は,先願発明に上記周知技術を単に付加した程度のものであり,かつ,新たな作用効果を奏するものでもない。したがって,本願発明と先願発明とは実質的に同一であるとした審決の判断の結論に誤りがあるとはいえない。
・・・

オ 原告らは,先願発明に何ら記載も示唆もない本件周知技術を先願発明に足し合わせることによって,本願発明と同一であるという帰結を導くことは特許法29条の2に該当するかどうかを判断する際には許されない旨主張する。
しかし,前記(4)アに認定したところによれば,原告らの上記主張を採用することはできない

臨界的意義のない本願発明の数値と技術的意義の異なる引用例の数値の対比

2013-07-03 22:11:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10165
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌


エ 相違点2の容易想到性
 前記のように,引用例2は,ティシュペーパーの取出し性の改善を目的とする点では本件補正発明と共通するものの,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とするもので,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とする本件補正発明と,前提において相違する。そして,このような前提の相違に起因して,両者は,ティシュペーパーの取出しを妨げる静摩擦力の発生メカニズムが相違し,その大きさも異なるものである。そうすると,静摩擦力を規定する静摩擦係数についても,引用例2における板紙とティシュペーパーとの静摩擦係数の範囲を定めた意義は,本件補正発明におけるティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲を定めた意義とは全く異なるものである。このような静摩擦係数の意義の相違に鑑みれば,引用発明に,引用例2に記載された「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4~0.5」を組み合わせて,本件補正発明における「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数0.20~0.28」を導き出すことは,困難である
・・・
(ウ) 被告は,本願明細書の表2によれば,静摩擦係数と使用途中の落ち込みとの関係は明らかでなく,さらに,0.20を下限値とする根拠はなく,出願人が感覚的に設定したものであると主張する。
 本件補正発明において,ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数を0.2~0.28とする技術的意義は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とした取出し性に基づくものであるが,当該取出し性の改善は,静摩擦係数のみによって達成されるものではなく,本件補正発明が規定するその他の数値限定との連係によって達成されるものである。したがって,静摩擦係数単独で,機能性評価の結果と比較することに意味はない

 また,本件補正発明において,静摩擦係数の下限値0.20及び上限値0.28にどの程度の臨界的意義があるかは明らかとはいえないものの,引用例2の静摩擦係数とは技術的意義が異なる以上,引用例2に基づき相違点2に係る本件補正発明の構成を容易に想到することができるということはできない

周知例の追加を手続違背としなかった事例

2013-05-28 22:08:13 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10199
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実

3 取消事由3(手続違背)について
 前記2のとおり,引用文献1記載発明に,審判長が拒絶理由通知で引用した引用文献2,3に記載の周知技術を適用することによっても,本願発明の容易想到性を肯定できる。なるほど,審決は,当業者が容易に相違点3を解消することができるとの判断を示す過程で,拒絶理由通知で引用していなかった引用文献4を引用したが,これは周知技術の認定の裏付けの一つとして掲げたにすぎず,上記のとおり引用文献2によっても同一の周知技術を認定することができる

 したがって,原告に対し引用文献4についての反論の機会を付与せずに,引用文献4を周知技術の認定の裏付けとして掲げた審決に手続違背の違法があるとはいえない。よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。

明示的示唆がない場合に組み合わせの動機づけを認めた事例

2013-05-26 22:53:52 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10183
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
特許法29条2項 動機付け

 また,原告は,エンコーダ自体は周知技術ではあるが,引用例にはエンコーダ等によりバンドの位置を自動的に測定することについて特段の示唆はないから,引用発明に,胸部圧迫装置に係る引用発明とはその機能が本質的に相違する周知例1ないし5の周知技術を適用する動機付けを認めることはできないと主張する。

 しかしながら,引用例には,引用発明の電気モータをマイクロプロセッサ回路により制御することを示唆する記載があるところ,自動的な制御を実現するためにはバンドの位置情報を把握することが必要であることは明らかであるから,エンコーダ等の測定機器を用いることについて,動機付けを認めることができる

 また,周知例1ないし5は,胸部圧迫装置に係る文献ではないが,エンコーダに係る周知技術は,幅広い技術分野にわたるものである上,人体の一部に巻き付ける帯状物の巻付け状態を把握するという目的において共通しており,当該目的のために胸部圧迫装置に適用することを妨げるものではないし,原告が主張する機能の相違も,引用発明と周知例1ないし5との技術分野の相違に伴う用途の相違にすぎないものである。

確認の利益が認められないとされた事例

2013-05-26 22:41:18 | Weblog
事件番号 平成24(ワ)2303
事件名 ドメイン名使用差止請求権不存在確認請求事件 
裁判年月日 平成25年02月13日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏,西村康夫

 すなわち,被告は,本件ドメイン名の登録に関し,原告とJPRSと間の法律関係を規律する本件登録規則(及びそれと一体をなす本件紛争処理方針及び本件手続準則)に則して,登録契約内容の変更(登録の移転)を求めているものであり,その主張する事由は,米国シティバンクの本件各商標に由来する権利又は正当な利益ではあるが,被告自身が本件各商標について,商標権や専用使用権を有することを主張するものではない

 したがって,仮に,本件訴訟において被告に本件各商標についての商標法上の使用差止請求権が存在しないことを確認してみても,被告が本件各商標について米国シティバンクから許諾を得ているという事実関係が本件ドメイン名の登録の移転を基礎付け得るものである以上は,原告の本件ドメイン名の登録に関するJPRSとの間の契約関係に基づく地位についての不安,危険は除去されないものといわざるを得ない。
 そして,原告と被告との間には,本件訴訟提起以前において,本件裁定に係る申立て以外に紛争はなかったのであるから,本件各商標の商標権に基づく本件ドメイン名の使用差止めという紛争は存在しなかったというほかはない。

 そうすると,本件は,判決をもって法律関係の存否を確定することにより,その法律関係に関する法律上の紛争を解決するものではないから,確認の利益が認められない

 この点,・・・,本件ドメイン名を使用する権利があることの確認を求めるのが相当であったと解される。なお,当裁判所は,原告に対し,本件ドメイン名を使用する権利があることの確認を求めるか否かを釈明したが,原告は訴えの変更をしなかったものである。

(3) 以上のとおり,本件訴えは,確認の利益がなく不適法であるから,却下を免れない。

引用例の組み合わせを否定した事例

2013-05-26 22:11:52 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10181
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎
特許法29条2項

 また,甲2公報に開示された上記(1)の式は,甲1発明とは異なり,電流の条件に応じた式の使い分けをするものではないから,甲2公報に開示された式を甲1発明に適用するためには,甲1発明について,電流変化の状態に応じた条件分岐を取り除く変更を行う必要があるが,このような変更を行うと,甲1発明が対象とするアーク放電による発熱についての計算を行う(3)式の適用ができなくなり,甲1発明の果たしていた機能(・・・)を達成することができなくなる

 以上検討したところに照らすと,甲2公報に開示された式を甲1発明に適用することが容易に想到し得たとはいえない。

実施可能要件を満たさないとした事例

2013-05-19 22:32:10 | 特許法36条4項
事件番号 平成24(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件 
裁判年月日 平成25年02月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎
特許法36条4項

1 実施可能要件の判断
(1) 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。
 そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある

本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。

 そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。

阻害要因を認めた事例

2013-05-19 20:51:54 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10198
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
特許法29条2項 阻害要因

イ 引用発明の吊り下げ部について
 他方,引用発明は,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体については,開口以外の部分についてシールすることが記載されていないだけでなく,そもそも,不要の構成と理解される。また,仮にその不要の構成が残されているとしても,フィルム及びガセット折込体のコーナの部分は内袋の直方体の上面上に沿うとされているから,吊り下げのために,不要な構成をあえて残し,さらに直方体の上面に沿わない構成として,吊り下げ用の空間を形成することは,引用発明における阻害要因となる。

一致点を含む相違点の認定を審決の結論に影響を与えないとした事例

2013-05-19 20:44:50 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10198
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
特許法29条2項 相違点の認定

ア 本件審決の認定した相違点1のうち,「合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する」,「側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ」,「柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり」の部分は,本件審決の認定した一致点と文言上重複している

イ しかし,一致点と重複する上記記載は,それぞれ「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の各構成を修飾する字句の一部に含まれるものであって,それぞれ,本件発明の課題との関係において,「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の構成を特定する技術的にまとまりのある一体不可分の事項である。
このように,技術的にまとまりのある一体不可分の事項である以上,対比すべき構成に,結果として,一致点が含まれること自体,誤りとはいえない。そして,認定された相違点1について,引き続いて行われる相違点の判断が適切に行われている限り,審決の結論に影響を与えるものとはいえない

公然実施について、知り得る状況で実施されていれば足りるとした事例

2013-05-19 20:33:23 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)10693
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松川充康,網田圭亮
特許法29条1項2号

ウ 原告は,一般人が「ナイトロテック処理」との表示を見たとしても,同処理の内容を具体的に認識することはできないと主張するが,公然実施について,当該発明の内容を現実に認識したことまでは必要ではなく,知り得る状況で実施されていれば足りると解すべきであり,また,その判断の基準は一般人ではなく当業者と解すべきである。そして,これを前提とした場合にその要件を満たすことは上記のとおりであるから,原告の主張には理由がない。

商標登録が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めなかった事例

2013-05-16 09:33:28 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10274
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子
商標法46条1項5号,4条1項7号

1 特許庁における手続の経緯等
 被告(請求人)は,平成23年10月11日,特許庁に対し,本件商標の登録を無効にすることを求めて審判の請求をし(無効2011-890088号事件),特許庁は,平成24年6月21日,「登録第4995445号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本は同月29日,原告(被請求人)に送達された。
・・・

第4 当裁判所の判断
1 原告は,
① 審決には,・・・,事実認定の誤りがある,
② 後発的無効として商標法4条1項7号に該当するのは,商標の構成自体に公序良俗違反があることとなった場合に限定されるべきであり,そうでない場合であっても,同項6号,19号よりも公益性の高い事由でなければ公序良俗違反に当たらないと解すべきであるにもかかわらず,審決は,商標登録後,その登録後の事情いかんによっては,特定の者に独占させることが好ましくなった商標等について,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害すると評価しうる場合には同項7号に該当するとした上,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根拠に,本件商標の登録が同号に該当する旨判断しており,法適用に誤りがある,
③ ・・・
として,審決の本件商標に関する商標法46条1項5号,4条1項7号該当性判断には誤りがあると主張する。そこで,以下,検討する。
 ・・・
 ・・・上記のような当事者間の民事上の紛争や受検生等の混乱は,もっぱら当事者間の反目や当事者による本件商標の使用態様その他の行動に起因して発生したものというべきであり,本件商標登録によって生じたとは認められない。そうすると,仮に,被告の実用数学技能検定事業が何らかの公的性格を有するとしても,民事上の紛争等が発生していることを根拠として,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったとか,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害するようになったということはできない
加えて,本件商標の構成自体も社会的妥当性を欠くとはいえない。

したがって,本件商標登録が,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めることはできない。

ウ これに対し,被告は,上記第3の2の(2)イ(ア)ないし(キ) 記載の諸事情を理由として,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標であり,その登録は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害する旨主張する。
 しかし,本件商標のパテント料等に関する契約の有効性や当該契約に対する監督官庁の指導,本件商標権の譲渡に関して作成された合意書の効力(上記(ア),(ウ),(エ)) は,本件商標登録が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるか否かとは直接関係がない問題というべきである。
 ・・・
 そして,原告が被告の類似団体を創設し,被告が従前から使用していたロゴを用い,被告と同様の検定を実施して,受検者等に混乱を生じさせているから,強い悪性があるとの点(上記(キ)) については,仮に,原告の上記行為が被告ないし受検生等の権利,利益を侵害するとしても,このような事情は商標の使用態様の問題であって,本件商標登録自体の問題ではないから,これを理由として,本件商標登録後に商標法4条1項7号に該当するものとなったとはいえないと解すべきである。


関連事件:事件番号  平成24(行ケ)10274

特許権者が特許発明を実施していなくても,同法102条2項を適用することができるとした事例

2013-05-07 23:20:09 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10015
事件名 特許権侵害差止等本訴,損害賠償反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成25年02月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 塩月秀平,芝田俊文,土肥章大,知野明

(ア) 特許法102条2項を適用するための要件について
 特許法102条2項は,「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,・・・,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。このように,特許法102条2項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって,その効果も推定にすぎないことからすれば,同項を適用するための要件を,殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。

 したがって,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり,特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。そして,後に述べるとおり,特許法102条2項の適用に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである
 ・・・
 上記認定事実によれば,・・・,原告は,コンビ社を通じて原告製カセットを日本国内において販売しているといえること,被告は,イ号物件を日本国内に輸入し,販売することにより,コンビ社のみならず原告ともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競業関係にあること,被告の侵害行為(イ号物件の販売)により,原告製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる。
 以上の事実経緯に照らすならば,原告には,被告の侵害行為がなかったならば,利益が得られたであろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。

 これに対し,被告は,特許法102条2項が損害の発生自体を推定する規定ではないことや属地主義の原則の見地から,同項が適用されるためには,特許権者が当該特許発明について,日本国内において,同法2条3項所定の「実施」を行っていることを要する,原告は,日本国内では,本件発明1に係る原告製カセットの販売等を行っておらず,原告の損害額の算定につき,同法102条2項の適用は否定されるべきである,と主張する。

 しかし,被告の上記主張は,採用することができない。すなわち,特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,上記(ア)で述べたとおり,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照らすならば,同項を適用するに当たって,殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえない。上記(ア)のとおり,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。

 したがって,本件においては,原告の上記行為が特許法2条3項所定の「実施」に当たるか否かにかかわらず,同法102条2項を適用することができる。また,このように解したとしても,本件特許権の効力を日本国外に及ぼすものではなく,いわゆる属地主義の原則に反するとはいえない。