昭和21年(1946年)の旧ソ連ハバロフスクの早春。場所は日本軍人の捕虜収容所。主人公は、ロシア語も理解する一兵卒の日本人捕虜。実は国内にいたころは、地下活動で1年間獄中も経験する筋金入りの強者である。
主人公がやはり囚われの身の日本人医師から、「レーニンの手紙」なるものを預かったことから事件がはじまる。その間、1週間の月・火・水・木・金・土・日の出来事として小説ができている。先年惜しまれて亡くなった井上ひさし氏の「最後の長編小説」と帯のコピーに書いてある。
小説のおもしろさは、「虚実皮膜」という。有名なスパイMまでからませて、その上レーニンの「裏切り」の手紙とう道具立てを用意する。しかも井上氏の筆である。おもしろくないはずはない。とりわけボクは、『日本海軍はなぜ過ったか』(岩波書店)を併読したので、日本軍隊の虚妄を垣間見て興味は倍化した。とても近ごろの芥川賞に代表される「半径5メートル内の小説」では味わえない社会性の醍醐味である。
ただ、同氏の『東京セブンローズ』でもそうだったが、後半「木曜日」以降は、無理に戯作の運びにもっていっているように読めて、ボクにはちょっと残念だった。「虚」が勝ち過ぎてしまうのである。(999同人)
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